2016.10.13

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『百金食堂(ひゃっきんしょくどう)
~あの手この手の180日~』

(制作:沖縄テレビ)

視察殺到!幸せを呼ぶ100円昼食

<10月19日(水)26時50分~27時45分>


 沖縄県那覇市にある真地団地では毎週金曜日に「百金食堂」という名の参加費100円の昼食会が開かれる。団地で暮らすおじいちゃんやおばあちゃんたちが、毎週替わるメニューに舌鼓を打ちながら笑顔でおしゃべりに花を咲かせる。「お年寄りが幸せな日本一の団地にしたい」。眞榮城嘉政(まえき・よしまさ)自治会長は、あの手この手で高齢者の見守りや居場所づくりに力を注ぐ。百金食堂にはこれからの自治会活動を考える大きなヒントがある。

 4人に1人が65歳以上の高齢者になろうとする沖縄県。核家族化が進み都市部を中心に一人暮らしの高齢者は増えている。認知症のため周囲から孤立したり行方が分からなくなったりする人も…。地域の高齢者をどう見守るかという課題が県内各地で突きつけられるようになった。

 高齢者の見守りについて取材する中で、行政や民間の視察が絶えない場所があることがわかった。那覇市の真地団地自治会が毎週金曜日に100円で昼食を提供する、その名も「百金食堂」だ。ごみ収集の際、登録した高齢者宅の玄関先まで回収に行く行政の新しい試みについて意見を伺うため、百金食堂を訪ねたことが眞榮城義政会長との出会いだ。「表面だけの見守りだ、行政に頼りすぎると地域に何も根付かない」なかなか手厳しい言葉だった。

 百金食堂には団地の住民や周辺地域から80人前後が足を運ぶ。「4人に1人が高齢者、お年寄りが楽しくなければ世の中楽しくないということ」。そう繰り返す眞榮城会長。百金食堂はどのように生まれ、どんな人たちが集うのか。高齢社会を楽しく暮らそうとする真地団地自治会の取り組みの先を見てみたいと取材を開始した。

 約1000人が暮らす真地団地は那覇市の郊外にある。築36年。入居当時は働き盛りだった住民たちも高齢に。5階建てでエレベーターは無く、路線バスも朝と夕方に2本づつ。高齢者にはなかなか辛い住環境だ。「出かける先は役場か病院。そんな団地の高齢者が喜んで訪れる場所を作りたい」。眞榮城会長の思いを形にしたのが百金食堂だった。

 一人暮らしの与那嶺ツルさん、86歳。いつも作った料理を小分けにして食べ、朝昼晩同じメニューという日も少なくない。そんなツルさんが何より楽しみにしているのが週に一度の百金食堂。一人だと味気なく感じるご飯も、みんなでおしゃべりしながら食べるとこの上ない命の薬(ぬちぐすい)。百金食堂の狙いの一つがこうした「孤食の解消」だ。一人だと食事の量も種類も減り、特に男性は弁当やインスタント食品など偏りがちになる。高齢者の居場所づくりや生きがいづくりに一役買っている。

 百金食堂のメニューは週替わり。カレーライスに茄子味噌、かつおめし。最近ではてんぷらにも乗り出した。一見、食事を作って提供するということはシンプルだ。だが実は大人数に振る舞うための食材の調達や下ごしらえ、そして調理。メニューを決めるにしても全てスムーズに運ぶのは一筋縄ではいかない。

 実際、百金食堂が始まった5年前のメニューは、ご飯に味噌汁。それに漬物を用意するのが精いっぱいだった。レパートリーを徐々に増やし、3年目にはワンプレートで一汁三菜。彩りも豊かになり、今ではデザートも出せるようになった。各地から視察が訪れるのも、百金食堂の蓄積したノウハウを学ぶため。そして忘れてはいけないのが、これを毎週続ける上で欠かせない団地の住民ボランティアの存在だ。「いつかは私たちが百金食堂のお客さんになるんだから」と、笑顔で食事を配膳する。

 2016年3月、狭く使い勝手が悪かった自治会事務所の給湯室を、台所に大幅改修。より衛生的で明るくなった台所を前に、やる気をみなぎらせる眞榮城会長やスタッフたちだったが…。「飲食費に対する補助はふさわしくない」と那覇市が補助の打ち切りを決定。眞榮城会長は「百金食堂がただの飲み食いなのか」と、行政の姿勢に憤る。百金食堂をヒントにした高齢者の居場所作りが各地に広がる中、本家本元はこのピンチをどう切り抜けるのか。

 眞榮城会長には夢がある。180日の夢だ。1年365日。お年寄りが二日に1日は楽しいことがある団地の未来を思い描く。百金食堂を中心に様々なアイディアで高齢者の見守りにつなげる真地団地自治会の活動は目を見張るものがある。超高齢社会へ突き進む現代社会で求められる自治会の在り方の一つのモデルになるはずだ。

ディレクター・佐久本浩志(沖縄テレビ報道部)コメント

「健康長寿、お年寄りが元気あふれる島。そんなイメージを抱いて地元沖縄で生きてきましたが、どうも現実はそうではない面がある。病気がちだったり、認知症で行方がわからなくなったり、誰にもみとられず亡くなったり…。自らの老後も悲観しそうな取材活動の中で、まさに一筋の光が差すような場所が百金食堂でした。毎度おしゃれも決め込み、食事を終えてもおしゃべりを続けて居座る百金のお年寄りたち。自分の病気すらも笑い話に変えてしまいます。百金食堂は真地団地自治会が試行錯誤を繰り返してできた高齢者見守りの集大成。きっと全国の高齢化に立ち向かう地域のヒントになる、素直にそう思う場面が何度もありました。そんな百金食堂の課題の一つが男の扱い。仕事を退職し、プライドもある。メシは食べてもおしゃべりやデイサービスには参加しない。百金食堂には寂しい男も包み込む、その先の姿がきっとあると信じさせてくれるものがあります」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『百金食堂(ひゃっきんしょくどう)
~あの手この手の180日~』
(制作:沖縄テレビ)

◆放送日時

10月19日(水)26時50分~27時45分

◆スタッフ

プロデューサー
大濱直樹
ディレクター・構成
佐久本浩志
撮影
新垣隆雄、赤嶺一史

2016年10月12日発行「パブペパNo.16-416」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。