2016.10.5
<10月6日(木)27時5分~28時>
約50年前、「高速増殖炉もんじゅ」建設計画を受け入れた福井県敦賀市白木地区。資源のない国が経済発展するには純国産エネルギーが必要で、当時地元は国や事業者からの「日本の未来をもんじゅに賭ける」と熱心に説得された。しかし、もんじゅはナトリウム漏れ事故を起こして以来、運転を停止したまま。存廃の岐路に立っている。建設に同意した当時の区長、橋本昭三さん(87)を通して国家プロジェクトの姿を問う。
道路でも空港でも大型ダムでも、国がプロジェクトをスタートさせる際、対象地域や国民に対し細心の注意を払い、真摯に向かい合い、誠意をもって必要性を説き、丁寧に協力と同意を求める。だが、国家プロジェクトがとん挫、白紙化する際、国はスタートさせる時と同じように地域や国民に向き合っているのだろうか。疑問を抱く出来事が昨年秋起こった。
昭和45年、「高速増殖炉もんじゅ」という特殊な原発の建設候補地に福井県敦賀市白木が選定された。集落全体の立ち退きが必要だったため当時区長だった橋本さんはかたくなに反対。しかしその後、賛成に転じた。大きな理由の一つが国や事業者の「この国の未来は高速増殖炉にかかっている」という熱い説得だった。
資源の乏しい日本。経済発展のためには石油に頼らないエネルギーが必要だった。国が目を付けたのは「原子力の平和利用」。とりわけ発電した以上に燃料を作り出すという高速増殖炉は目指すべき「夢の原子炉」だった。
それが「夢の原子炉」は平成7年にナトリウム漏れ事故を起こし長期間停止。運営主体の改革や組織替えが実施されたが、その後もトラブルが途絶えず、いま存廃の岐路に立っている。
原子力規制委員会は日本原子力研究開発機構に代わる運営主体を特定するよう監督官庁の文部科学省に勧告した。これを受けて文部科学省は有識者会議を立ち上げ、半年間にわたって検討した。原子炉を冷却する物質に金属ナトリウムを使用するなど、水で冷却する普通の原発とはメカニズムが違うため、検討会の議論でも運営主体の特定には至らなかった。文部科学省は答申を求めた検討会から逆に宿題を返された格好になってしまった。運営主体として国が協力を求める見通しの電力会社も、高速増殖炉の知見がないことや福島第一原発事故後の新たな安全基準への対応に資金と人材を投入しているため、実用化のめどがない「もんじゅ」に責任をもつことには「ありえない」と明言した。
高速増殖炉もんじゅは研究段階の「原型炉」。次の段階として電力会社が担うはずだった「実証炉」へつなぐ役目があった。この「実用化」の目標時期は1980年代初頭から、たびたび先送りされ、「2050年までに」という表記されたのを最後に現在は明記すらされていない。
国や関係業界の中でも迷走が続く「夢の原子炉」もんじゅ。しかし、かつて必要性を聞き「夢の原子炉」を受け入れた地元集落は夢を実現させてほしいと思っている。夢の実現なくては国策への貢献も実感できない。何より、国は計画を立案した時と同じように地元に対し真摯な説明がないためだ。
さらに、国家プロジェクトも国の職員が人事異動で担当が変われば他人事になり、経緯を一番知っているのはプロジェクトの地元の民である。未来永劫関わるのは地元だけであり、自分の人生に関わってくるため、真剣に向かい合わざるをえない。
高速増殖炉もんじゅについても同様だ。かつての科技庁も今の文部科学省も、政治家も時間の経過とともに、他のプロジェクトへと関心が向いてしまう。だからこそ、地元こそが頼みの綱となる。
国家プロジェクトに大事なのは、地域の意見を汲むシステムづくりなのではないか。そうした思いを抱かざるをえない状況がこの国には少なくないと感じ、その思いを作品に込めた。
「去年11月、高速増殖炉もんじゅが“失格”勧告を受けました。これまで原発を深く取材した経験はなく、もんじゅと言えば事故や不祥事が多発する施設ぐらいの認識でした。しかし、勧告をきっかけにもんじゅを調べてみると驚きの連続でした。日本のエネルギー問題を解決すると期待された“夢の原子炉”だったこと、立地地元の白木地区の住民はもんじゅを誘致したことに誇りを持っていること、もんじゅの技術者の多くがいまだに高速増殖炉実現の夢を追いかけていること。自分の認識とは正反対で、なぜこれほどまで認識の差があるのだろうと思い取材を始めました。
“国策やから永遠に続くと思っていた”。白木地区住民からこんな言葉を聞きました。受け入れた地元はいまだに国策を信じ、作成者である国側は存続か撤退かで姿勢がぶれ始めています。もんじゅにかけた小さな集落の夢を通して、国策とは何かを考えてもらうきっかけになればと思っています」
第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『夢の原子炉 ~国家プロジェクト もんじゅと地元~』
(制作:福井テレビ)
10月6日(木)27時5分~28時
2016年10月4日発行「パブペパNo.16-404」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。