2016.9.27

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『見えない光
~ユッケ集団食中毒事件 被害者家族の5年~』

(制作:富山テレビ)

責任はどこに?集団食中毒被害者の5年

<9月26日(月)26時50分~27時45分>


 2011年4月、富山県を中心に発生したユッケによる集団食中毒事件。事件の舞台となったのは激安路線で事業を拡大していた「焼肉酒家えびす」。一連の食中毒では200人余りが症状を訴え、5人が死亡した。店の看板メニューは1皿280円のユッケ。楽しいはずの団らんの場で食の安全が脅かされた。警察は、業務上過失致死傷の容疑で立件を目指すが、感染経路が特定されず捜査は混迷の度を深めていく。その狭間で、店の運営会社と肉の卸売会社の責任のなすり合いに翻弄される遺族たち。一方、遺族にとって無視出来ないニュースが飛び込んでくる。大阪府の小学校で学校給食が原因で発生した集団食中毒事件。被害に遭った児童が、19年後、突然症状が悪化し、死亡していたことが明らかとなった。今もユッケの食中毒が原因で家族が病院に通う遺族は、不安を口にする。ユッケの集団食中毒は、生食規制の強化となったが、そのかげで救いのない被害者家族は、今も苦しみ続けている。この悲劇が報じられる1カ月前、捜査は大きな節目を迎える。事件発生から5年を前に、警察は店の運営会社の元社長ら二人を書類送検。しかし、その後の富山地検の判断は、二人を不起訴処分とした。検察は食中毒の原因をユッケと断定としながらも、当時の国の衛生基準を守り、ユッケを提供したとしても、被害を防ぐことができなかった可能性があると結論づけた。目に見えない菌はどこで付着したのか、感染経路が解明されることなく捜査は終結。なぜ大切な家族を亡くし、責任の所在が明らかにならないのか。被害者家族の5年を見つめる。

 店の運営会社の元社長らの業務上過失致死傷での立件を目指していた捜査本部。警察の捜査は事件から5年が経とうしていたが、未だその判断は出ていなかった。店の運営会社は被害者に補償金の一部を支払ったものの、その補償は十分ではない。今後支払われる見通しも立っていなかった。国には食中毒被害者に対する救済制度がなかったのだ。取材を進めていくと、食中毒で人が亡くなる確率は交通事故の1千分の1ほど。決してゼロではないが、可能性は非常に低かった。事件発生から半年後にユッケなどの生肉の規制を強化した国の対応は、そのリスクを見落としていたことの現れだった。そして、何より命が奪われた責任は誰にあるのか。遺族は気持ちの整理がつかないまま5年を迎えていた。

 事件で、妻と義理の母の二人を亡くした砺波市の小西政弘さん。店の運営会社から補償金は支払われたが、仕事は家事をするための早退が多くなり、収入は2割減ったと言う。今は貯金を取り崩して生活している。小西さんは、これまで家事をほとんどしてこなかった。それでも家事ができているのは、残された「二人の子どもがいるからだ」と話す。その子どもたちは当時、食中毒で一時重体となった。今は元気に過ごしているが、現在も年に数回、体に異常がないかを確認するため病院に通っている。後遺症が出る可能性は極めて低いとされるが、今後も症状が出るかもしれないというリスクを背負って生きていかなくてはならない。店の運営会社や肉の卸売業者のずさんな衛生管理のもとで食中毒事件が発生し、被害者家族の生活を一変させた。その責任は極めて大きい。事件から5年、やり場のない思いを抱えながら刑事事件の判断を待ち続けた遺族の思いを取材した。

ディレクター・小西駿介(富山テレビ報道制作部)コメント

「制作担当のコメント取材を進める中で、最も考えさせられたシーンが不起訴の判断が出た日の夜、ご遺族が墓を訪れた時です。そこで、突然、墓に映る自分の影を見て、“よく妻が映ってくれないか、影の世界に姿を現してくれないか、つい見てしまうのです”と話されました。その時は、亡くなった家族の姿は時間が経っても当時のままなのだと痛感させられました。意外な言葉だったので、鮮明に覚えています。安全なはずの外食で、なぜ食中毒が発生し、人が亡くならなければならなかったのか。感染経路が判明せず、誰も責任を取らないまま、長期にわたる捜査は終わりました。5年もの間、ただ刑事事件としての立件を切に願ってきた被害者やその家族。国や県に制度を変えるよう要望し、民意を示したいと署名活動に精力を注いだご遺族の思いは届きませんでした。被害者の思いが取材を進めるうえで大きな力となりました」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『見えない光
~ユッケ集団食中毒事件 被害者家族の5年~』
(制作:富山テレビ)

◆放送日時

9月26日(月)26時50分~27時45分

◆スタッフ

制作統括
飯野宏之
プロデューサー
堀田能州
ディレクター
小西駿介、日高寛章、福島勝
構成
鍵谷真二
編集
黒田道則
撮影
小島崇義、大江穣介

2016年9月26日発行「パブペパNo.16-387」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。