2016.9.13

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『おぼこ先生
~“出来た!”が育む 心の保育~』

(制作:さくらんぼテレビ)

2歳児が先生?!育て合いに未来のヒントが!

<9月13日(火)26時35分~27時30分>


 0歳~2歳児が通う山形県東根市の「あおぞら保育園」。この保育園では、2歳児が「おぼこ(子ども)先生」となって、0、1歳児に食材の下ごしらえを教える独自の取り組みを行っている。園が目指すのは「子ども同士の関わり」。言葉も身体もまだまだ未熟な2歳児が、自分の持てる言葉、身体を精一杯使って、年下に物事を教えようというのである。「おぼこ先生」を通して子どもたちはどう変わっていくのか。

 山形県東根市にある認可保育所「あおぞら保育園」は2006年に開園。0~2歳児、30人が通う小さな園だ。園は食育活動に熱心で、2歳児が「おぼこ先生」となって0、1歳児に食材の下ごしらえを教える独自の取り組みを行っている。「おぼこ」とは山形弁で「子ども」を意味する。まだまだ赤ちゃんから子どもの途中である2歳児が、おぼこ先生を務め、徐々に成長する姿を取材した。

 おぼこ先生で扱われるのは、「シメジのほぐし」や、「タマネギの皮むき」など。作業も手の発達段階に合わせて、「にぎる」ことが出来るようになった0歳児はシメジのほぐし、「つまむ」ことが出来るようになった1歳児はタマネギの皮むきなどに挑戦する。その手本を2歳児が見せるといった格好だ。

 保育園・幼稚園における食育は今ではどこでも見られる光景。食育を行っていない園は皆無と言っていい。その中で「おぼこ先生」の取り組みが特異なのは、「食育を教えるのは大人ではなく、2歳児」という点である。言葉も身体もまだまだ未熟な2歳児が、自分の持てる言葉、身体を精一杯使って、年下に物事を教えようというのである。

 あおぞら保育園の大江雅人園長は「子どもは年が近い方が真似しやすい。2歳児は“これを摘んで”といった言葉の表現はできないし、0、1歳も言葉の意味が理解できない。だからこそ、2歳児が動作で見せると、年下の園児は自分でできそうな気がして頑張る」と0、1歳児への効果を話す。一方、2歳児は「人に感謝されてうれしかったりする経験を積み重ねることが、自信になって、やがてはそれが親離れや、自分の世界を作っていくきっかけになる」と話す。

 あおぞら保育園2歳児クラス11人の内、10人は「核家族」である。田舎と言われる山形でも、核家族の農家は子どもを保育園に預け、働く時代となった。一部の学者は「0~2歳児を親元から離すのは良くない。0~2歳は“父・母と子の関わり”を大切にすべき時期」としているが、大江園長は「核家族化、共稼ぎ世帯の増加など、子どもを取り巻く環境が変化し、いやがおうにも子どもが親と離れざるを得ない時代になった」と話す。その中にあって「おぼこ先生」の取り組みは、他者・社会と関わり、「自分は役に立つ人間なんだ」と感じる芽を育む狙いがある。2歳児にして「母と子の関わりから一歩進んだ、社会に出る第一歩」を育もうというのである。

 そして、そこには大江園長が少年時代、ガキ大将が小さい子をいじめながら、泣かせながらも、時には守ってあげたという記憶があり、「子ども同士が人生のイロハを教える関係性」を再構築したいという願いもある。

「おぼこ先生」の取り組みは2011年にスタート。初年度にまとめたレポートが全国食育コンテストで最高賞を受賞している。最も評価されたのは「食育を教える側、教わる側に子どもを据えた」点である。そして「おぼこ先生」が始まって5年目の今年、園は新たな「おぼこ先生」を生み出した。取り組みを食育以外へ広げ、「粘土遊び」を2歳児が1歳児に教えようというのである。そこには「おぼこ先生が目指すのは単なる食育教室では無く、歳の近い子どもたちが共に何かを成し遂げる関係性」を目指しているからだ。

 2歳児クラスには様々な個性を持った子どもがいる。「登園時、母親と別れるのが嫌で泣いてしまう子」、「何でもかんでも自分でやりたがる子」、「自ら関わるのが苦手な子」など。まだ2歳、赤ちゃんから子どもへの途中なのだから当然のことである。それが、おぼこ先生を務めるに従い、子どもの心に段々と変化が起き、やがては他者との関わりも変化する。そしてその変化の境には「出来た!」と喜ぶ、子どもの姿があった。

「親の知らない所で子は育つ」という言葉もあるが、それはガキ大将が子どもを束ねていた時代だから通用したのではないか。社会の中で子ども同士の関係性が希薄になった今日だからこそ、「おぼこ先生」の取り組みには子どもたちがこれからの時代を生きていく上でのヒントが隠されているように思える。

ディレクター・元木友平(さくらんぼテレビ報道制作局報道制作部)コメント

「“ある保育園で、2歳が0歳、1歳に食材の下ごしらえを教えている”、そう聞いたときは半信半疑でした。しかし、映像でしか表現し得ない題材なのではとの期待もありました。実際に取材を進めると苦労の連続でした。2歳児は“行動が読めない”“言葉が話せない”など。これまでの取材手法は一切通用しませんでした。しかし、時折“おっ”と思う子どもの瞬間がありました。その時には意味は分からないのですが、後に振り返ると、子どもの変化・成長という大きな水脈となりました。採算性・合理性が求められる今日、“目に見えない物を大切にする”という日本特有の精神はどこか片隅に追いやられた気がします。人との関わりもその一つです。いじめや不登校、自殺などの背景には人間関係のゆがみがあるように感じてなりません。その中にあって、おぼこ先生が目指す子ども同士の関わりには、子どもたちにとって未来につながる希望の光が隠されているように感じます」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『おぼこ先生
~“出来た!”が育む 心の保育~』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

9月13日(火)26時35分~27時30分

◆スタッフ

プロデューサー
木村奈緒美
ディレクター
元木友平
構成
高橋修
撮影
大友信之
元木友平
制作著作
さくらんぼテレビ

2016年9月13日発行「パブペパNo.16-363」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。