2016.7.26

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『17歳の先生~子どもの貧困を越えて~』
(制作:北海道文化放送)

勉強したい…未来を開こうとする子どもたち

<7月29日(金)27時55分~28時50分>


 土曜の夜、JR札幌駅近くのビルに子どもたちが集まってくる。ここでは、NPOが生活保護や母子家庭の子どもたちに学習支援を行っている。市内4教室に通う子どもは、100人以上にのぼる。教師役は大学生や30代までの若い社会人ボランティアだ。ボランティアの中に最年少、17歳の先生がいる。高校2年生の女子高校生。父親は正社員の仕事を失い、その後失踪した。「子どもの貧困」が広がる中、自ら未来を開こうとする子どもたちを追った。

 15歳の子どもの貧困率が全国ワーストとも言われる北海道(日本財団の推計 23.7%)。生活保護費以下で暮らす子育て世帯の割合も19.7%と全国5位(山形大・戸室准教授調べ)だ。しかし、北海道は子どもの貧困についての調査を行っておらず、実態については分かっていない。そこで、2015年秋から情報番組で、子どもの貧困問題を考えるシリーズ放送を始めた。高校教師たちへの取材では、「丸二日、食事しておらず玄関で倒れた生徒がいる」、「高校進学を支えるため、家族は塩をなめるだけの食事に」…。また、大学の学費が高騰する中、ススキノの風俗店では、学費のために働く女子大生もいる。過酷な現代の苦学生たちの声を聞いた。取材の過程で浮き彫りになったのは、子どもにとって教育が「ぜいたく品」のようになっている現実だった。

 4年前から、札幌市内で子どもたちの学習支援を行っているNPO「カコタム」。生活保護家庭の子どもなど100人が通う。この1年間で生徒は40人増えた。ここで勉強を教えている高校2年生、深堀麻菜香さん(17)。自身も厳しい家庭環境で暮らしてきた。「勉強って、お金の格差で決まってほしくない」、そんな思いからボランティアを始めた。自身も高校卒業後は進学したいと考えているが、道は険しい。年に買う教材費は1000円以内にするのが、一家の決まりだ。そして、生活保護を受けながら大学に進学することはできない。高卒後は働くのが原則だ。自ら未来を切り開いていこうとする深堀さんの挑戦を追った。
深堀さんは去年、子どもの貧困対策を訴える全国組織の団体、「あすのば」に参加した。2016年3月、道内の「あすのば」のメンバーは、札幌で子どもの貧困の実態を伝えるシンポジウムを開くことにした。ネットなどで「貧困は親の責任」という言説が広がる中、子どもの声を聞いてほしいと考えた。イベントでは、当事者の子どもたちが自らの思いを率直に語った。「“下の人”だと憐みの目で見られるのがイヤだ」。「見えない」と言われる子どもの貧困を、自ら可視化しようという動きが始まった。

「あすのば」の活動に参加するうち、深堀さん自身にも変化が出てきた。全国の仲間たちと話す中で、東京の大学へ進学したいと考えるようになった。しかし、残された時間はわずか1年。そのために「お金をためる」と言い張る深堀さんだが、果たしてー。
NPOカコタムに通う子どもたちは、学ぶ意欲はあるのに家庭が落ち着かないなどの理由から、勉強が遅れがちだ。15歳の中学3年生・ハルキ君は、2年生の秋、不登校になった。中学校を卒業したら、自立して働こうと考えていた。母親が精神疾患を抱える中、家から出るのが不安な日もあった。それでも、カコタムで大学生ボランティアと接する中で、再び中学校に通うようになった。願書の提出ギリギリで、高校を受験することを決めた。
番組では、他に札幌の児童養護施設から東京の大学への進学を目指す高校生を追い、学びの格差に挑む子どもたちの苦闘を見つめた。
番組の裏側のテーマにあたるのが、大学進学のあり方だ。国立大の学費が40年前の15倍に高騰するなど、進学のハードルが高くなっている。親世代の経済状況が厳しい中、学生の半数が奨学金を利用している。ススキノの風俗店には、卒業後の収入が低いために、奨学金返済のために働く女性や、将来の返済に不安を感じる現役の女子学生がいる。従業員は言う。「制度がきちんとしていたら、ここに来る女の子はもっと少ないはずだ。制度は優しくないと思う」。夜の街が若者の学びを支えるという現実がある。

 取材でインタビューした、高校教師の言葉が忘れられない。「どうしたって、生まれた環境で差はあるんだから。それを変えるのが“学び”であるべきなんだけど、それができない。学びが格差をさらに広げている」。公正な社会はどうあるべきか、子どもたちの声を聞きながら考える。

ディレクター・涌井寛之(北海道文化放送 情報番組部)コメント

「子どもの貧困を伝えるシリーズを初めて半年。視聴者の方から“本当の貧困はもっと厳しい”、“昔よりましだ”といった反応を受けることがあります。“本当の貧困”、“最も厳しい貧困”とは何でしょうか。それを伝えることに意味があるのかー。取材中、そんなことを考えてきました。この社会で誇りを持って生きていくために何が必要かー。それが欠けていることが、子どもにとってどれほど苦しいか。私たちはそうした子どもの声を聞き、伝えようと思いました。本人が体験した悔しさこそが、貧困の本質なのだと考えました。逆に“本当の貧困探し”をする今の社会は、子どもの声を聞かない社会なのだと感じています。
もう一つ、取材の中で感じたことは、子どもたちは、子どもたち自身の人生を歩んでいるということです。どんな環境に生まれても、自分で未来を開こうと懸命に生きています。そうした子どもたちが取材に協力してくれたことで、この番組ができました」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『17歳の先生~子どもの貧困を越えて~』
(制作:北海道文化放送)

◆放送日時

7月29日(金)27時55分~28時50分

◆スタッフ

プロデューサー
吉岡史幸
ディレクター
涌井寛之
新崎真倫
撮影
上野嘉之
編集
新沼まさえ

2016年7月26日発行「パブペパNo.16-307」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。