2016.7.22

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『死刑囚と姉 -袴田事件50年-』
(制作:テレビ静岡)

袴田事件で姉の証言にみる我々への問いかけ

<7月28日(木)27時5分~28時>


 50年前、当時の静岡県清水市で一家4人が殺害された「袴田事件」。袴田巖元被告が死刑判決を受け、姉・秀子さんは、弟の無実を訴え続けた。2014年3月、静岡地裁が裁判のやり直しを決定。巖元被告は48年ぶりに釈放され、姉との生活が始まった。しかし弟は、死におびえる毎日を送ってきた影響で「拘禁症」を発症していた。弟をじっと見守る姉。胸の内を少しずつ語り始めた。姉の証言をもとに袴田事件が私たちに問いかけているものを探る。

 1966年6月30日。当時の清水市で、みそ会社の一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。2016年6月30日で発生から50年、半世紀という節目を迎える。当時30歳だった袴田巖元被告は、みそ会社の住み込み従業員をしていたが、発生から49日後に逮捕された。当初は否認を続けるが、19日後に自白。その後の裁判では、一転して無罪を主張するものの、死刑判決を受けた。それでも、司法は必ず自分の潔白を証明してくれるはずだと信じ、獄中から無実を訴え続けた。この50年、支え続けたのは姉・秀子さんだ。「自分にできることはこれしかない」と月に一度は東京拘置所を訪ねた。
 たとえ、獄中にいる弟から「姉なんていない」と言われても、面会を拒否されても、浜松から電車を乗り継いで、東京・小菅へと足を運び続けた。「私は、弟は無実だと押し付けたりはしない。あなたが感じたままでいい」。初めて面会に同行した日、秀子さんは言った。「弟は無実なのだから、そう報道してほしい」と訴えるのが普通ではないのか。どういう気持ちで言ったのか。秀子さんの本心を、その強さの理由をいつか聞きたいと思っていた。それから約半年後の2014年3月27日。静岡地方裁判所は、袴田事件の再審開始を決定した。「証拠は捜査機関によるねつ造の疑いがある」、「耐え難いほど正義に反する」。驚くべき言葉が並んだ決定文。
 その意味を理解する間もなく、その日のうちに袴田巖元被告は釈放された。若い頃の写真でしか見たことのなかった巖元被告が、ゆっくり歩いて車に乗り込む姿は衝撃的だった。

 入院生活を経て始まった故郷・浜松での姉と弟の生活。姉はこの日が来るのをずっと待ち続けていた。しかし弟は、死刑執行の恐怖におびえる毎日を送ってきた影響で、「拘禁症」を発症していた。理解しにくい行動や発言が続く。釈放から2年が経ったいま、巖元被告は「自分が浜松を守っている」と毎日5時間、浜松の街中をぐるぐる歩き回っている。そんな弟の身の回りの世話をしながら、寄り添い、温かく見守り続ける姉。「弟に自由はなかった…」。どんな思いで拘置所にいたのか、弟が話すまでは聞くまいと、姉は自分に言い聞かせている。
 長年、待ち望んでいた姉と弟、二人の生活。仲よく暮らしていると誰もが思うが、現実は違っていた。楽しく会話をして、二人で出かけて…。これまで離れ離れだった時間を埋めるように暮らしていると思っていたが、現実は違った。弟が、姉と理解しているのかさえわからない。姉も弟に干渉しない。二人とも、孤独に見えた。番組では、死刑囚として、死刑囚の姉として生きていかなければならなかった姉と弟の現実を、淡々と追うことで、48年の重みを視聴者に伝える。そして、巖元被告が自白に至った取り調べのテープ、捜査記録、裁判記録、そして、巖元被告が、獄中で書き続けた手紙をもとに、袴田事件の矛盾点を改めて考える。

 裁判員裁判が始まり、誰もが裁判員になる可能性があるいまこそ、袴田事件を見詰め直す価値はあるはずだ。私たち市民が、冤罪を生み出してしまう可能性もある。そして、警察、検察、裁判所、そしてマスコミも、事件を振り返り、改めて考え直すことがあるのではないか。もし巖元被告が、無実だとしたら、二人にとってこの半世紀は何だったのか。私たちは考える必要がある。
 街で聞けば、袴田元被告のことを、すでに無罪と思っている人がほとんどだ。しかしそうではない。再び獄中に収監される可能性も残っているのだ。誰に何を言われようとも弟を信じる「強い姉」であり続けた秀子さん。悩み、苦しみ、葛藤もあったはずだが、なぜ姉は弟のためにそこまでできたのか。
 事件から50年という節目に、姉は胸の内を少しずつ語り始めた。そして、巖元被告の症状が、少しずつ、少しずつ改善していき、姉と弟の心が、通い始める様を、是非、見てほしい。

ディレクター・山崎彩(テレビ静岡 報道制作局報道部)コメント

「秀子さんは“弟を支える。これが運命”と言います。なぜ、強くいられるのか。私なら自分の運命を恨み、弟を許せないと思うでしょう。そして縁を切るでしょう。同じ姉として、秀子さんの思いを知りたいと思いました。しかし、半世紀もの間、壮絶な経験をしてきた83歳の女性に、3分の1しか生きていない小娘がぶつかっていくことは、簡単なことではありませんでした。“もう取材はお断り”。そう言われたことも何度もありました。直接やりとりができなくなった時期もありました。でも、諦めずに通い続けました。ようやく受けてくれたインタビュー。ほほ笑む姿を見て、ほんの少し、本音が聞けたような気がします。袴田事件は終わっていません。秀子さんにとっては、一生終わることのない事件なのです。今後も取材を続け、秀子さんが心の奥底にしまっている本音を、もっともっと聞きたい、そして、袴田事件が問いかけているものを視聴者に伝えたいと思います」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『死刑囚と姉 -袴田事件50年-』
(制作:テレビ静岡)

◆放送日時

7月28日(木)27時5分~28時

◆スタッフ

構成
高橋修
撮影
杉本真弓 小澤裕将
編集
山崎有希乃 堀越洋一
ディレクター
山崎彩
番組統括
橋本真理子
プロデューサー
舘石昌宏

2016年7月22日発行「パブペパNo.16-302」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。