2016.7.5

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『みかん畑のドン・キホーテ』
(制作:テレビ西日本)

広大なみかん畑に、突如降りかかってきた「高速道路計画」。
みかん農家の17年に及ぶ闘いから、公共事業のこれからを考える。

<7月8日(金)27時55分~28時50分>


 福岡県豊前市で半世紀にわたり、みかんをつくり続けてきた岡本栄一さん。子供のように優しい笑顔で、自慢のみかんをめでる。農園から臨む豊前海からの潮風や果実の栽培に適した赤土…。「みかんづくりにこれほど好条件の土地は、日本中どこを探しても見当たらない」と胸を張る。大好きなみかんづくりに没頭し、70歳にして独身の岡本さんは、12ヘクタールに及ぶ広大な農園で、死ぬまで“のんびり”とみかんづくりを続ける…はずだった。

 人生の歯車を狂わせたのは、建設が進む東九州自動車道。福岡県の北九州市から鹿児島市までを結ぶ高速道路で、東九州地区活性化の起爆剤になると経済界を筆頭に早期完成が叫ばれてきた公共事業だ。その計画ルートが、みかん農園を真二つに分断する形で伸びていたのである。

 高速道路の建設でルートを選定する際、事業者側が土地を収用される地権者に事前の相談を行うことはない。まさに青天のへきれき。思い出の詰まった農園を手放すことは岡本さんにはできなかった。農園を守るため、建設費が半額以下で、削り取る土砂や道路にかかる人家が大幅に減るという独自の代替案を5年がかりで作成し事業者側に提出した。しかし、一度敷かれたレールが変更されることはなかった。

 “走り出したら止まらない”公共事業の在り方に一石を投じたい…岡本さんは1億7000万円を超える補償金の受け取りを拒否し、支援者にみかんの木の権利を売る“立木トラスト”を展開。国を訴える裁判も起こした。周囲からは“ドン・キホーテ”と揶揄されたが、思いは揺るがなかった。

 それでも工事は止まらない。農園では水源の水が枯れた。農園のすぐ裏で、大規模な掘削工事が行われた影響で、農園につながる水脈が断たれたと訴える岡本さんに対し、事業者のネクスコ西日本が下した判断は「因果関係なし」だった。開通を前提とした説得を続けるネクスコと岡本さんの溝は、深まる一方…ついにネクスコは、土地を強制的に収用する「行政代執行」を県に請求した。

農園に建てた小屋に立てこもり、抵抗を続ける岡本さん。事前の説明では、「みかんの木は伐採しない」との説明を受けたと言う。しかし作業員が手にしていたのは、チェーンソー。農園に、悲鳴にも似た機械音が響く。そのとき、みかん畑のドン・キホーテは…。
 多くの利益の一方で、時に一部の犠牲も伴う公共事業。“公共の利益”と“個人の権利”にどう折り合いをつけていくのか…これからの公共事業の在り方を考える。

取材・構成:山田裕希コメント(テレビ西日本報道局報道部)

「“なぜ、そこまで“闘う”のだろう…”高速道路建設に反対する、みかん農家の岡本さんへの取材を始めた頃の率直な思いでした。それをそのまま問うと、“あなたはやはり、最近の若者だね”と返されました。現代を生きる私たちは“面倒なことには首を突っ込まない”“国の言うことは絶対”…得てしてそう考えがちです。公共事業は、私たちに様々な利益をもたらします。しかしその恩恵が、一部の人たちの犠牲の上に成り立っているケースも少なくありません。たくさんの思い出が詰まった土地を、“公共の利益”のため突然明け渡さなければならなくなったとしたら…“仕方がない”と諦めてしまわれがちな公共事業と住民の権利を巡る問題。海外では、公共事業の計画段階から積極的に住民の意見を取り入れる動きも進んでいるといいます。公共事業のこれからを視聴者の皆さまに考えていただくきっかけになれば幸いです」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『みかん畑のドン・キホーテ』
(制作:テレビ西日本)

◆放送日時

7月8日(金)27時55分~28時50分

◆スタッフ

プロデューサー
原満幸
取材・構成
山田裕希
ナレーター
吉竹史
撮影
本村博
村上一彦
大石克彦
清水一郎
大坂崇
島田宗矩
清武昭皓
編集
利光英樹
MA
新甫宙
制作
テレビ西日本

2016年7月5日発行「パブペパNo.16-265」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。