2016.7.5

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『男の仕事と食卓のバラード』
(制作:東海テレビ)

大学卒業後の3人に一人が3年以内に離職するこの時代、
焼き魚専門店「魚梅」の二代目・木村哲英さん(79)の仕事ぶりから見えてくるものとは…。

<7月7日(木)27時~27時55分>


「一日で2000本ものうなぎを焼き、売り切る男がいる」。
 東海テレビで10年前から放送している日曜昼の情報番組のなかに、東海地方の「仕事人」を特集するコーナーがある。その多くが「職人」と言われる人たちだが、8年前、小さな魚屋にそんな男がいるのかと訪れた先が、名古屋市中川区の「魚梅商店」。ただひたすら、うなぎを焼く木村哲英(当時71歳)の姿は、「仕事人」としては、もちろん見応え十分。取材、オンエアを終えてもなお、木村の「焼いた魚」と「人としての魅力」が忘れられず、何度か店に魚を買いにでかけた。そしてその後、放送予定は全くなかったが、木村の元を訪ねる度にカメラを回し続け、ある日突然、店をたたむ決意を木村が語り始めたことから、ドキュメンタリー番組としての取材が始まった。

 16歳から魚屋一筋64年の木村を取材し、最初に感じたこと。それは「働くことは楽しいこと」。番組では、まずこの「働くことがいかに楽しいか」を、老いてもなお、魚を焼き続けた木村を描くことで表現しようと考えた。それは、大卒の3人に一人が3年以内に離職すると言われるこの時代。私たちの職場も同じくだが、なぜ若者は「働くこと」に情熱を注ぎ続けられないのか?なぜ「働くこと」に淡泊なのか?という思いがあったからだ。「働くとは?」「社会のなかで働くとはどういうことなのか?」を、丁寧に、シンプルに見つめて描いてみようと思った。そして、その一方で、タイトルに「男の仕事」とあえてしたのは、定年後の男の生きづらさを、日常生活の中で、間のあたりにしたことにもよる。男は、仕事から離れると、家庭の中での役割の無さに戸惑う。それでも、これまで働くことで培ってきた「何か」を、世のため、人のために、必ずや生かせるはずだと…。定年後の人生が長いこの時代に、木村の生き方から、今の時代にメッセージとして届けられるものがある気がしていた。

 この番組のもうひとつの柱は「食卓」。木村はより多くの家庭の食卓に、おいしい魚を届けようと、焼き台の前に立ち続けたが、結果、自分の家族と食卓を囲んだことは、ほとんど無かったという。木村が懸命に働いたのは、もちろん家族のためでもあったが、世の中のサラリーマンの多くがそうであるように、家族と囲む「食卓」は、働けば働くほど男にとって遠のくものなのでは…。いや、働く女性も然り。どうしようもないジレンマ。そして「せつない」作業。しかし、生活のなかで「食卓」は、物理的なシンボルではあるが、マストのアイテムではもちろんなく、「食卓」とは、家族への思い、大切な誰かへの思いの象徴として、番組のタイトルにも盛り込んだ。

 そして、短い長さではあるが盛り込んだ女性たちへの視点も「みどころ」のひとつ。木村を支えた奥さん・道子さんと、借金を抱えて逃げた娘婿を決して見捨てなかった義理の母・せきさん。彼女たちの存在が無ければ、「仕事人」木村の「焼き魚人生」はなかったとも思える。結局、男の人の仕事での「踏ん張り」は、陰日向となる女の人の「踏ん張り」であり、誰かの支えなくしては、「いい仕事」など出来るはずもなく、「いい仕事」とは結果、世の中の誰かのためになっていく仕事だと、今回の取材を通して痛感した。取材を進めるなかで、木村は一生懸命働くことを「恩返し」と表現した。これは、働き続け、老いてたどりついた彼なりの解釈なのかもしれないが、「恩返し」というキーワードは、番組を見て頂けた老若男女問わずの視聴者に、「社会のなかで働くこと」という点で、何かしら感じていただけるものがあるのでは、と願っている。

プロデューサー/ディレクター・伊藤順子(東海テレビ制作部)コメント

「入社して24年目。どうやら“働くこと”が嫌いではない性分なのか、気が付けば、番組を作るという仕事をここまで続けてこられました。そんな折、木村哲英さんという焼き魚の“仕事人”と出会いました。常々、男性は仕事をしているときが一番色っぽいとは思っていましたが、こんなにも仕事と向き合う時と、普段の顔つき、たたずまいが違う人がいるものかと思いました。彼を追いかけることで、“働くとは?”そんな漠然とした疑問の答えが見えてきそうな気がして、本編中のナレーション通り、この男性のことをもう少し知りたくなり、“働くということ”を正面から描いてみたくなりました。
 いまどきの若い人たちは、仕事が続かないと聞きます。私の職場も同様です。木村さんは、お客さん、仕事仲間、後輩との“気持ちと気持ちのふれあい“こそ、“働く喜び”だと語っています。だとすると“働く”ことのその先に、“喜び”という感情が必要なのでは…。至ってシンプルなことだが、今回の番組制作で気づかされたような気がしています」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『男の仕事と食卓のバラード』
(制作:東海テレビ)

◆放送日時

7月7日(木)27時~27時55分

◆スタッフ

プロデューサー/ディレクター
伊藤順子
ディレクター
鈴木拓洋(オーシャン&リバー)
音響効果
宿野祐(東海サウンド)
脚本・構成
伊藤順子
制作
東海テレビ
ナレーション
永作博美

2016年7月5日発行「パブペパNo.16-264」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。