2015.10.28

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『五島のトラさん~父親と家族の22年~』
(制作:テレビ長崎)

五島列島でうどんの製麺業と天然塩の製造をする犬塚虎夫さん(トラさん)。
1993年の取材から22年。
親子の葛藤、喜び、哀しみ…家族の風景の軌跡を追った。

<11月8日(日)27時5分~28時>


 長崎市から高速船で1時間半、五島列島の北部にある新上五島町。青い海、青い空、自然豊かな島である。しかし、若者は高校を卒業するとほとんどが島を離れ都会に出ていく。人口は減り続ける一方だ。それでも五島が好きで、島で生きていく術を考えながら豊かに生きている人がいる。トラさんの愛称で呼ばれている犬塚虎夫さんだ。名物の五島うどんや天然塩を家族で作り、生計をたてている。妻、益代さんとの間に子どもが7人。長男「拓郎」、長女「こころ」、次女「はなえ」、三女「さくら」、四女「こはる」、次男「竜之介」、三男「世文(せぶん)」。

 この家族に出会ったのは1993年、今から22年前のことである。長男は18歳、末っ子が2歳の時であった。トラさんのモットーは「自分の子どもは自分で鍛える」…子育ては親の責任だと言う。子どもたちは毎朝5時に起きて約1時間、うどん作りの手伝いをして学校に行く。家族が手伝うことで家計も助かり、子どもの教育にも役立つのだ。学校では教わらないことをうどん作りを通して学ぶ、とトラさんは言う。お金を稼ぐことの意味、責任感、家族のコミュニケーションなど得ることは多い。実際、タイムカードに働いた分を記録し、年齢に応じて時給を決め、給料としてお小遣いをあげる。

 トラさんはうどんの他、天然塩の製造を県内でいち早く始めた。目の前のきれいな海から海水をくみ煮詰め、真っ白で純白な塩を造る。材料は無料、お金をかけずに利益が出る。トラさんは島で生きる術を考え実践している。子どもたちにも五島の良さを知ってから島を出ても遅くないと力説する。

 7人の子供たちは父親、トラさんの考えに同調する子、反発する子、様々である。長男・拓郎さんはトラさんの勧めで高校を卒業すると定置網漁の船に乗った。長女・こころさんは地元の大工と結婚、次女・はなえさんは父親の反対を押し切ってカメラマンになりたいとボーイフレンドと一緒に京都へと旅立った。末っ子の世文さんは2歳からうどん作りの手伝いを始め、高校を卒業するまでの16年間、毎朝続けた。トラさんは間違ったことをすると自分の子どもも他人の子どもも分け隔てなく叱る。その子の将来のためにと思い厳しく叱るのだ。自分もそうやって親に鍛えられ育ったと話すトラさん。

 子どもたちはうどんを作りながら日々成長し、そしていろいろな出来事があった。トラさんは早朝のうどん作りに塩造りと寝る時間が少なくなり、50歳を過ぎた頃から体調を崩した。拓郎さんは定置網漁の責任者、専長(せんちょう)となり船団を引っ張る。トラさんの反対を押し切って出て行ったはなえさんは京都の写真店で働きながら早朝、寺に通い修行僧の写真を撮る。トラさんは糖尿病が進行し、体調は悪化していった。54歳の父の日に思いがけない荷物が送られてきた。はなえさんが5年がかりで手掛け、出版した写真集だった。思いがけない贈り物にトラさんは「あの、はなえが…」と涙を流した。写真集を出版したことで少しでも父親が元気になってくれたら…と話す、はなえさん。トラさんは写真集100冊を買い取って親戚や友人に配った。トラさんは子どもたちの成長を楽しみに生きてきた。世文さんが高校を卒業し、大学に進学すると、子育ても一段落。子どもたちが育ち上がる一方でトラさんの体調はさらに悪化、体の自由がきかない反動からか酒で気を紛らわせた。糖尿病に酒…体調はさらに悪化し、病院に入院することになった。妻の益代さんはトラさんに代わってうどん作り、塩造りに励んだ。夫は復帰すると信じ…。

 入院から一カ月後、トラさんは息を引き取った。61歳、早すぎる死だった。亡くなる直前、トラさんは話した。これまで厳しくしつけてきたのは子どもたちに幸せになってほしいから…。親なら子の幸せを願うのは当然のこと。これからは好きなことを自由にやることだ、と言い残し旅立った。

 父親が亡くなり家業を継いだのは長男でなく長女のこころさん。拓郎さんは漁業の道を選んだ。世文さんは教員採用試験に合格し、熊本で高校の教師となった。子どもたちは世文さんを除き、結婚。7人中、4人が島で暮らし孫が12人に。

 トラさんの一周忌に子どもたちが全員集まってきた。24歳になった世文さんが父親への思いを語った。「嫌いだけれど世界一尊敬している…」。一番怒られたはなえさんは亡き父に「やさしかった」と涙を流した。節目、節目に撮ってきた家族の風景、22年の映像を通じ家族の生きざま、親子の関係で大切なものとは何だろう…?番組を見た人それぞれが考えてくれたらと思う。

ディレクター・大浦勝(テレビ長崎)コメント

「一家に出会ったのは1993年、22年前。九州・沖縄地区で放送する『We Love九州』という30分番組の制作で別の家族を取り上げようと現地に行ったら、おもしろい家族がいるよと紹介されたのが始まりです。7人の子どもに朝からうどん作りをさせている父親がトラさんでした。トラさんは当時40歳で私は37歳。私にも3人の子どもがいて、厳しく育てているつもりでしたが、トラさんはとても厳格な父親でした。“自分の子どもは自分で鍛える。他人に任せてはいられない”、“10年後の子どもたちの成長を楽しみに生きています”と話していました。一方では酒が好きでお茶目な一面も…。30分版を放送して2年後、1時間の番組を制作、さらに10年後に1時間の番組を放送した。そしてさらに10年後が今回の最終章になります。22年間、デジカメを持って足しげく通って、私は59歳になりました。トラさんは去年、病で亡くなりました。トラさんが鍛えた子どもたちがどのように育ったのか?度々放送して来た私の責務としても最終章を作りたいと思っていました。22年間を1時間に納めるのは大変難しい作業でしたが、今回の番組は私のディレクター魂の集大成です。去年、亡くなったトラさんの思いをいっぱい詰め込んだこん身の作品になっています」


番組概要

◆番組タイトル

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『五島のトラさん~父親と家族の22年~』
(制作:テレビ長崎)

◆放送日時

11月8日(日)27時5分~28時

◆スタッフ

ディレクター&プロデューサー
大浦勝
撮影・編集
井上康裕
音効
渡辺真衣(東京サウンドプロダクション)
MA
濱田豊(東京サウンドプロダクション)
編成
増田朋和
制作
テレビ長崎
ナレーション
松平健(三喜プロモーション)
 

2015年10月28日発行「パブペパNo.15-393」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。