2015.10.7
<10月9日(金)27時25分~28時20分>
今から5年前の2010年、富山県西部に位置する高岡市の寺に、全国から身寄りのない遺骨が幾つも届き、供養しているという情報が届いた。寺に行ってみると、毎週のように宅配便によって、遺骨が送られてくる「現実」を目の当たりにした。なぜ、このように全国各地から遺骨が送られてくるようになったのか。取材を進めていくと、複雑な家庭環境や地域、社会、家族のつながりの変化が浮き彫りになってきた。
身寄りのない遺骨の引き受けをはじめた寺の住職、栗原啓允(くりはら・けいいん)さん(56)。当初、増加する身寄りのない檀家のために、墓守などをせずに済むよう、合祀墓所を設置した。それがインターネットで話題となり、全国各地から遺骨を埋葬してほしいと、連絡が寄せられるようになった。身寄りがなくなった檀家と住職がいつか来る「終の始末」について話し合う中、一つの疑問に行き着く…。「あなたが亡くなったら誰が葬儀を行い、火葬し、ここへ納骨に届けてくれるのか」。住職の問いかけに対し、檀家の答えは「誰もいない」だった。
この一言をきっかけに栗原住職は、地域の司法書士や行政書士、会社経営者など、日ごろつながりのある有志とともに、NPO組織「道しるべの会」を設置する。遺骨を全国発送できるシステムを構築する一方、1カ月3000円で安否確認から通院、身の回りの世話をする取り組みを行うことになった。また、将来亡くなったときのために、高齢者と「死後事務委任契約」を結び、財産整理や葬儀、納骨までをケアする取り組みを始めた。身寄りのない高齢者などの「身元引受人」となることで、施設の入居はもちろん、社会復帰に向けたサポートにも動き出した。
番組では、「道しるべの会」に入会した高齢者二人と、精神疾患から社会復帰を目指す男性を取材した。中でも今年90歳を迎える宮崎はなさんは、平成9年に夫と娘を亡くし、認知症を発症。親戚との縁も切れ、身寄りのない状態だったが、血縁ではない新たな「地域の縁」が生まれたことで、グループホームの入居ができるようになった。宮崎さんの表情には、それまで見えなかった笑顔が戻るようになった。宮崎さんは言う。「楽しいことがまだありそうだから、もう少し長生きしてみようかな」。
一方、無縁仏をこの寺に送り続ける千葉県の葬儀社。ほとんどが生活保護の受給者やホームレスだという。たとえ親族がいたとしても引き取りを拒否されるケースが多いという。そこには、暴力、アルコール中毒、借金など家族からも見放された人たちが多い。葬儀社の責任者はこれら無縁になった遺骨を「かわいそうだとは思わない」と話す。行き場の失った遺骨を見て「人はどのように生きるべきかを考えさせられる」と。
誰しもが迎える「死」という現実。無縁社会と言われて久しい昨今、栗原住職は言う。「親族がいないことが無縁ではない、血縁がなくても、死に向かってサポートしてくれる人のつながりを作っていくことが大事。自分が死んだあと“誰かが何とかしてくれる”時代は終わった」と。
「死に対する向き合い方」、いま、私たちが問われている。
「取材を進める中で一番苦労したのは、遺骨が小包で届くシーンです。通常ニュース取材をする中で時間を見つけ、寺に通い続けましたが、中々、郵便局の配達員が小包を届けるタイミングには合わず、あきらめかけていました。しかし、寺の理解のもと、時間をかけて撮影に成功することができました。その時は“本当に小包で遺骨が届けられるのだ”と大きな驚きを感じました。人はいかに生きるべきか、そしていかに死ぬべきか。身寄りのない遺骨の姿を通して、そして身寄りのない高齢者を、なんとか新たな“縁”を作ることで、安心してその日を迎えられるようにしてあげたいという寺の住職をはじめ、地域の皆さんの熱い思いがこの取材の原動力となりました」
第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『遺骨のゆくえ~孤立社会の道しるべ~』
(制作:富山テレビ)
10月9日(金)27時25分~28時20分
2015年10月6日発行「パブペパNo.15-362」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。