2015.10.2

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『川柳人 鶴彬~今に伝わるメッセージ~』
(制作:石川テレビ)

戦前の日本が軍国主義に染まる中、
平和を訴え続けた鶴彬の川柳から生きた時代を読み取り、
戦争体験者の証言も交えて戦争と平和について考える。

<10月2日(金)26時55分~27時50分>


 戦前、日本が軍国主義に染まる中、川柳を通して平和を訴え続けた若者がいる。かほく市出身の鶴彬(つる・あきら)。彼は言論弾圧により逮捕され、29歳で獄中死した。終戦から70年がたった今、鶴彬の意思を伝えていこうとする動きが広まっている。その背景には戦争を直接知る世代が少なくなっていることや今の政治・外交への不安がある。番組は鶴彬の川柳から生きた時代を読み取り、戦争体験者の証言も交えて戦争と平和について考える。

 毎年、9月14日の命日に地元住民らは、故郷の公園に建てられた句碑の前で鶴を偲ぶ。しかし、句碑が建てられたのは戦後50年が過ぎてから。なぜなら、鶴は故郷に墓を建てることすら許されない“非国民”とされたからである。

「手と足をもいだ丸太にしてかへし」
「屍のゐないニュース映画で勇ましい」

 鶴は、太平洋戦争に突入する約3年前にこれらの作品を発表し、逮捕された。留置場で、29歳で病死するまでに1000句以上の川柳を残したが、彼が貫いたのは、声を上げたくても上げられない国民の胸の内を詠むことだった。
 鶴が川柳を始めたのは小学生を卒業したころ。それまで短歌や俳句に興味を持っていた鶴は、近所に住む川柳家から手ほどきを受け、15歳の時に川柳デビューを果たす。地元新聞の川柳欄に投稿したのが最初で、その頃は自宅近くにある海の風景などを詠んだ叙情的な作品が多かった。
 しかし不況に伴い、大阪に出て町工場で働くようになると作風は一変。実際に労働者として味わった生活の苦労をもとに、社会的に弱い立場にあった労働者の心の叫びを川柳で詠むように。社会の矛盾に目を向け始めたのである。昭和に入ると、日本は中国への進出を狙って軍国主義を推し進めていく。治安維持法により、言論や思想の自由を奪われ、戦争に反対することが犯罪になる世の中。警察に追われ、川柳の発表の場も失っていくが、鶴は決して姿勢を変えず、反戦を訴える川柳を発表。その翌月、逮捕され、8カ月に及ぶ留置場暮らしの後、赤痢にかかり、昭和13年9月14日、29歳で病死した。最後まで信念を貫いた人生だった。
 鶴彬の取材を思い立ったのは去年の夏ごろ。戦後70年の節目に戦争をテーマにした番組ができないかと、県内各地に住む戦争体験者へのリサーチを繰り返していた時期だ。その中で出会った90歳を超える元軍医。彼からの逆質問が、今でも忘れられない。

「今、外国が日本に攻めてきたらあなたはどうする?」

 結局、「相手が攻めてきたら戦争するしかない」という結論しか搾りだせなかった。元軍医も明確な答えを持ってはいなかったが、「戦争と平和について若い世代が考えなければならない。思考を止めちゃいかん」と口にする。
 今の時代、どれほどの若者が戦争について真剣に考えているだろうか。一方で、戦争を体験した人たちは高齢化が進み、悲惨な歴史を語り継ぐことは難しくなっている。
 鶴彬と出会ったのは、それから間もないころだった。確固たる自らの意思を持ち、命をかけて貫き通した、その生きざまに引かれた。現代を生きる若者の一人として、鶴彬を伝えようと決めた。
 取材初日。鶴の故郷、かほく市で開かれた命日の追悼行事。そこに一人の青年の姿があった。俳優の枝川吉範さん(36)。枝川さんは、鶴彬の生涯を描いた演劇作品の主役を任されていた。2カ月後に東京で上演されるのを前に、鶴彬やその生きた時代について学び始めたところだった。戦争を知らない若者の一人として、この歴史をどう未来へつないでいくか。出会いの瞬間から、枝川さんと、鶴彬とその生きた時代をたどる二人三脚の旅が始まった。
 悲惨な歴史を繰り返さないための教訓を、鶴彬の川柳と生きざまから伝えようと考えた。

ディレクター・今村亮(石川テレビ報道部)コメント

「番組には戦争に反対した鶴彬だけでなく、戦争に参加せざるを得なかった元軍人の方も登場しています。その中には、鶴が川柳で詠んだように、戦地で腕を失ってしまった男性もいます。90歳になった今も、不自由な暮らしと腕を失った悲しみから解放されることはありません。終戦から長い年月が過ぎ、学校で戦争について教えているのは、教科書に書いてあるわずかな情報だけです。当時、戦地に赴いた若者は、戦争に反対したくてもできなかった人、軍国教育で戦争が必要と教え込まれた人、戦争相手国から家族を守るために戦った人など様々ですが、人々が抱いていた気持ちは歴史に埋もれようとしています。だからこそ、番組を制作し、当時を生きた人たちの思いを伝えなければならないと確信しました。この番組を見て、戦争に人生を翻弄された人たちの苦悩を一人でも多くの人が感じ取ってくれることを願っています」


番組概要

◆番組タイトル

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『川柳人 鶴彬~今に伝わるメッセージ~』
(制作:石川テレビ)

◆放送日時

10月2日(金)26時55分~27時50分

◆スタッフ

プロデューサー
米澤利彦
ディレクター
今村亮
構成
川上伸一(フリー)
撮影
堅田浩一
和田光弘(フリー)
編集
渡辺信行(フリー)
制作
石川テレビ
ナレーション
棚橋真典(巣山プロダクション)

2015年10月1日発行「パブペパNo.15-350」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。