2014.11.17

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『笑ってなんぼ』
(制作:テレビ宮崎)

宮崎県美郷町鬼神野地区。静かな山里に笑いを届けて36年、地芝居劇団「岩田利右衛門一座」座長の岩田幸男さん(64)。舞台に台本はなく、岩田さんの奇想天外な発想で物語は紆余曲折変化し、会場は笑いの渦に包まれる。座員は農林業・役場の職員から学校の先生まで素人ばかり。中には職を失った人や引きこもっていた人もいる。「彼らには彼らなりの面白さがある」と岩田さんは言う。地区の祭りのステージでは3年前に閉校になった小学校をテーマに「復活!鬼神野小学校」を面白おかしく披露。岩田さんの信念は「自分たちが楽しければそれでいい」。少年のような心を持った岩田さんの素顔を追いかけた、バラエティー・ヒューマンドキュメンタリー。

<11月29日(土)28時5分~29時>


 テレビもラジオもない時代、土地の素人が演じる地芝居は農民の貴重な娯楽だった。村の祭りなどで一家がそろって見物し大いに楽しんだものだが、近年は過疎化や後継者不足でほとんどその姿を見ることはなくなった。

 ところが宮崎県の山村には今も現役の地芝居劇団があった。岩田利右衛門一座・座長の岩田幸男さん。「果たしてどんな人なのだろう?」さっそく取材班と一緒に会いに行くと、座長は出会っていきなり30分間下ネタを話し出した。「取材はうまくいくのだろうか…」「ドキュメンタリーとして成り立つのだろうか…」不安の中、取材は始まった。

 一座のステージはユニークで個性あふれるものだった。これらの踊りや演目を考えるのはすべて岩田座長。一座の舞台に台本は一切ない。座長のユニークな思いつきで物語は紆余曲折変化していく。そこがお客に受ける。「自分たちが楽しめばお客が笑う」それが座長の口癖。

 ステージ登場時の踊り「1円玉の旅がらす」は、赤い褌に法被を着た座員がお尻に下げた一斗缶をかかとでけり鳴らす。歌のリズムに合わせて「ガンガン」と缶を蹴る様子はとても滑稽。また一座が演じる人形浄瑠璃ならぬ「人間浄瑠璃」は、着物を着せメークをした座員を人形に見立てた演目。

 座長の語りに合わせて動く座員は必死についていかなければならず、振り回される座員の様子にこれまた観客は笑ってしまう。練習するよりも、皆がパーッと集まるノリが大事。焼酎をたしなみ、動くとカツラがポロリと転がる。そのドタバタ劇にお客が喜ぶ。「地芝居を続ける目的は、現代人に欠けていること…それは腹を抱えてわらうこと」と座長は言う。「死ぬ前に一度でいいから見たい」と言う一人のお年寄りのために一座が総出で演じたこともあった。また「宮崎県地域づくり顕彰事業の奨励賞」を受賞。当時の東国原県知事から「どんな生活をしているとこういうことを考え付くのか?」と尋ねられたという。

 座長が人をひきつけるもう一つの理由が誰に対しても分け隔てをしないことだ。座員は農業・林業・役場の職員・学校の先生など多岐に渡る。その数30人。座長は「この人を芝居に出したい」と思ったらすぐにスカウトする。引き込んだ座員の中には、仕事を解雇された人や独身で家にこもっている人、中には自殺を考えた人まで。「彼らには彼らなりのおもしろさがある」と岩田座長は言う。引き込まれた座員たちはすぐに座長の奇抜でユーモアあふれる発想に魅了される。座員の後藤さんもその一人。「一座に入ってなかったらテレビを見るくらいが楽しみの人生だった。ここでいろんな人たちとの付き合いができたし、見た人からも声を掛けてもらって芝居をする楽しさを知った」と感謝の言葉を口にする。

「自殺防止」をテーマにした講演依頼が県内各地から来ることもある。11月に開催された地区の小さなお祭りでは、閉校となった地区の小学校を材にとった「復活!鬼神原小学校」を披露。「今から各家庭で子供を作れば7年後に必ず開校する」という物語。座長の考えたユニークな出産シーンに観客は大爆笑。最後は老若男女全員で校歌斉唱。そこには地区が元気になってほしいという岩田さんの願いが込められていた。

 人を引き付けるアイデア豊富な岩田さんが取り持つ一座、そして地域の物語。バラエティー離れが進む今、一座が演じる“素の笑い”こそ時代が求める笑いなのかも。

制作担当者・立光正明(テレビ宮崎制作部)コメント

「“岩田利右衛門一座”座長岩田さんの話はほとんどが下ネタ。最初は一緒になって笑っていました。しかし取材したテープは増えていくものの実のある話はほとんど聞けず…、“果たしてドキュメントの題材としてふさわしいのか?”一抹の不安が頭をよぎりました。そんなもんもんとした取材が続いていくうちに、“笑いをテーマにしたドキュメンタリーがあってもいいのではないか!?”“今までと違う形のドキュメンタリーがあってもいいではないか!”と思うようになりました。そして当初“変なおじさんだな~”と思っていた岩田座長もいつしか“どこか懐かしくかわいらしい人だな~”と思うようになっていきました。昔はどこにでもいた村の名物おじさん、最近あまり見かけなくなりました。現代の“変なおじさん”はTVの中で活躍していますが、こんなおじさんが近くにいたらより楽しい近所付き合いができるかも知れません」


<番組概要>

◆タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『笑ってなんぼ』
(制作:テレビ宮崎)

◆放送日時

11月29日(土)28時5分~29時

◆制作スタッフ

プロデューサー
河野真(テレビ宮崎)
ディレクター
立光正明(テレビ宮崎)
撮影・編集
諸麦貴信(テレビ宮崎)
ナレーター
岡本嘉子(アーツビジョン)
構成
松石泉
協力
岩田利右衛門一座の皆さん
取材地
宮崎県美郷町他

2014年11月17日発行「パブペパNo.14-460」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。