2014.10.16

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『Life~私達が残したいもの~』
(制作:テレビ熊本)

阿蘇山のふもと、南阿蘇で夫・耕太さんと3人の息子と共に農業を営む大津愛梨さん。ドイツ生まれで東京育ち、ドイツの大学院で学んだあと、夫の伯父が農業を営んでいた南阿蘇で就農して10年。大津さんは、阿蘇地域の世界農業遺産認定に向けて、民間から尽力。また、女性農家ならではの発信と再生可能エネルギーへの挑戦を宣言している。母として、女性農業者として、これからの10年に臨む大津さんの活動に密着した。

<11月26日(水)26時20分~27時15分>


 取材のきっかけは、南阿蘇に面白い女性農家がいるという話からだった。農家のイメージとは全く違う、和服姿で各地を講演して回ったり再生可能エネルギーにも挑戦しているという。実際に会ってみると、自然児そのものの3人の男の子を持つおかあちゃん。家は100年以上経った古民家。家族以外にも外国人を含めさまざまな人たちが出入りしていて、普通に英語で会話している。これはただ者ではないぞ!

 経歴を聞いて驚いた。ERI(大津愛梨)さんはドイツ生まれの東京育ち。慶応大学時代に熊本出身の夫・耕太さんと出会い結婚。その後二人でドイツの大学院に留学。そんな人が、なぜ南阿蘇で農家を?ということで取材が始まった。

 すると、早々に「今月末から熊本県に依頼されてイタリアに行かないといけない」とのこと。阿蘇の世界農業遺産認定に向けたプレゼンテーションのため阿蘇の農家代表としてイタリアの国連食糧機関で行われる会議に出席するのだ。プレゼンはもちろん英語。この時点で、実は認定に暗雲がかかっていて、農家の生の声が求められていた。プレゼンには勝負服でもある和服で臨み、認定に望みをつないだ。そして1カ月後、石川県七尾市で行われた世界農業遺産国際会議にも出席。熊本県の蒲島知事、阿蘇を世界農業遺産にしようときっかけを作ったシェフの宮本氏とともに、今回も英語で阿蘇をアピールした。プレゼンには拍手喝采、見事、阿蘇地域は世界農業遺産に認定された。

 そもそも、ERIさん夫婦が南阿蘇で農業を始めた理由。それはドイツの大学院で二人が学んだ「持続可能な農業」をしたい、そして耕太さんが祖父の家を訪れ子供の頃から見ていた南阿蘇の風景を守りたいという思いからだった。もともと熊本市内出身だった耕太さんだったが、伯父が農業を続けていた南阿蘇にERIさんと移住。全くのよそ者ではなく、伯父を通じて地域に溶け込んでいった。しかし、若い二人が農業だけで食べていけるほど現実は甘くはなく、当初は翻訳の仕事などで生計を立てていた。そのころから夫婦は半農半Xの活動を始める。そして当初から取り組んだのは、ドイツ留学時代に地域で行われていた再生可能エネルギーへの挑戦だった。地域の信頼を得るにつれ、田んぼが広がり農作業に費やす時間が増えていったため、このころから農業以外の活動はERIさんが担当することになる。そして2007年、ERIさんは日経ウーマン「ウーマンオブザイヤー」のリーダー部門を受賞。そのライフスタイルから講演などの活動も増えていった。

 ERIさんには3人の息子がいる。中でも三男の讃太郎は、リトルファーマーだ。農作業の際には常に手伝い、一度は通った幼稚園も農作業を優先させたいからとやめてしまった。秋の稲刈りは讃太郎が最も楽しみにしている作業。早く新米を食べたいからだ。耕太さんが操るコンバインから出てくる新米を見つめる表情はリトルファーマーそのものの姿だった。

 2014年、ERIさんにとってさらに世界へと羽ばたく年を迎えた。設立20年を迎えた、女性農家で作るNPO法人「田舎のヒロインズ」の理事長に就任。全国へ、そして世界へ女性農家ならではの発信をすることになった。メンバーは200人弱。ただでさえ多忙なERIさん、理事長職を受けるうえで条件にしたのは再生可能エネルギーへの挑戦と、発信力が強力な人たちを理事とすることだった。会では今後、福島でのエネルギーを考える勉強会を予定している。

 さまざまな活動で飛び回るERIさん。しかしあくまでも原点は農業だ。家に帰れば3人の息子たちのお母さんであり、農家としての1日が始まる。そして目の前に広がるのはERIさん夫婦が守りたい風景。5月となり、迎えた田植えの季節。ERIさん一家には日本の農業を学びたいというイスラエルの若者もやってきた。  この地を選び、農業を選んだERIさん一家のコメ作りが、今年も始まる。

ディレクター・古閑康弘(テレビ熊本報道部)コメント

「とにかくアグレッシブ。農家としての枠を完全に超えているERIさんがなぜ、南阿蘇に住み、専業農家として暮らしているのか。それをテーマに、南阿蘇のERIさんが残したい風景の四季を撮影しました。取材に行くたびに、初めて会う外国人が国籍関係なく訪れているし、講演などで常に飛び回っているERIさん。しかしあくまでも基本は農業。スーパーウーマンではない普段の姿と、ERIさん夫婦が守りたい景色を見ていただければと思います」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『Life~私達が残したいもの~』
(制作:テレビ熊本)

◆放送日時

11月26日(水)26時20分~27時15分

◆スタッフ

プロデューサー
有住宣彦
ディレクター・構成
古閑康弘
ナレーター
熊本竜太
編集
可児浩二
撮影
古江智宏 渡辺典昭 渡辺俊一郎

2014年10月15日発行「パブペパNo.14-425」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。