2014.10.7

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『復活!山の百貨店
~夕日がくれたもの~』

(制作:テレビ愛媛)

高知との県境に位置する宇和島市津島町の御槇地区。住民の約6割が高齢者で過疎が急速に進んでいる。その御槇で唯一のよろず屋さんだった「福田百貨店」がIターンで移り住んだ青年の手で約20年ぶりに復活した。
御槇のために何かしたい…。地域の人たちの思い出が詰まった店で開く写真展のテーマは「夕日が沈む山里の風景」。ふるさとの魅力を見つめ直すまちおこしを追う。

<11月7日(金)26時30分~27時25分>


 山々と田園風景が広がる小さな山里「御槇」。昭和30年には約1900人だった人口は350人に減少している。小学校の児童もわずか4人、保育所は5年前に廃園になった。空き家が目立つ御槇のメインストリートにあるひときわ大きな建物「福田百貨店」。地区で唯一のよろず屋さんとして賑った店が去年の春、“再開”した。約20年ぶりに店をあけたのは、県外からIターンした黒田さん。夫婦で田舎暮らしにあこがれ5年前に御槇に移住し、二人の子どもにも恵まれた。
 

 明治40年に建てられた福田百貨店は御槇の誰もが知っている思い出の場所。「昔の福田に戻ったみたい…」。喜ぶ住民が再び訪れる店は、木工品や手芸品など地区の人たち手作りのものを置く交流の場になった。建築士の資格を生かし設計の仕事で生計を立てている黒田さんは、「店の収入は生活の足しにはならないが、ここにはかけがえのない出会いがある」と語る。大好きな御槇のためにまちおこしをしたい…。何もないように見える山里で、黒田さんは大切なものに出会った。

 御槇にある「山本牧場」。芝桜の名所としてシーズンには大勢の観光客が訪れる牧場を家族で営む山本さんも、黒田さんと同じ思いを抱いていた。観光客はただ牧場を見に来て帰るだけ。御槇というところに魅力を感じているわけではない。「こんな場所に生まれて幸せだね」と言われたことが、ふるさとの良さを見つめ直すきっかけになった。

 大切なものは普段何気なく見ている自然の中に…。御槇の山々に沈んでいく夕日の風景をテーマにしたまちおこしができないか。山本さんと意気投合した黒田さんは二人で協力して「夕日が沈む山里の風景」の写真を全国から募集するフォトコンテストを企画した。「夕日がきれいに沈んでいく風景が見られるのは贅沢。御槇の夕日は日本一きれいだ…」。新たに作るものではなく、もともとあるものが輝きを放っている。昔から変わらずそこにある夕日の風景は御槇が誇れるもの…。全国から集まった写真を展示する会場として黒田さんが目をつけたのが閉まっていた福田百貨店。そこで開いた初めての夕日の写真展が盛況だったことをきっかけに、黒田さんは閉店から20年という歳月を経た福田百貨店をまちおこしの拠点として再び開けることを決意した。復活がうれしくて何度も見にきたという近所の美容室の女性、毎朝、豆腐を卸すようになった豆腐屋さん…。当たり前に店が開いていることが再び日常の光景になった。

 そして再び開かれることになった夕日のフォトコンテスト。全国から寄せられた96点の作品を展示するのは、もちろん福田百貨店だ。審査する御槇の商店の人たちは、それぞれが選んだ作品の撮影者に自分の写真やメッセージなどを添えて店自慢の商品を贈る。そこには、御槇の内と外のつながりを大切にしたいとの思いが込められている。

 ほぼ徹夜の準備で迎えたフォトコンテストの写真展。心待ちにしていた地区の人たちが次々にやってくる。「見慣れた風景がこんなにもきれいだとは思わなかった…」。御槇の人がふるさとのよさを実感するひとときが過ぎてゆく。「地元の人が喜んでくれた時が一番うれしいよね」。山本さんと黒田さんは、まちおこしとはそこで暮らす人々のためにあるものだと感じている。山本さんの提案で今回から御槇をはじめ津島町内の児童にも夕日の風景をスケッチした絵葉書を描いてもらった。子どもたちも、ふるさとの魅力をしっかりと見つめている。

 この春、御槇の小学校は新入生を迎え、5人に増えた。廃園になっていた保育所は、地区のお母さんたちの手で民宿に生まれ変わった。少しづつ活気が生まれている御槇で福田百貨店も復活1周年を迎えた。「この建物の力が人をひきつける。今、僕は役割としてここに立たせてもらっているだけ…」。変わらないまち、変わらない風景。それが御槇にとって何より大切なものなのかもしれない。

ディレクター・新岡幹(テレビ愛媛報道部)コメント

「約20年ぶりに復活した「福田百貨店」。御槇の人たちからは思い出話が尽きません。地区の暮らしを支えてきたこのよろず屋さんが本当に大きな存在だったことがうかがえます。再開した福田百貨店では夕日の写真展の他にも様々な催しが開かれ、ふれあいの場として活用が進んでいます。派手なことをするのではなく、地に足がついたまちおこしをと住民が協力して取り組んでいます。
『見えない環境を知って初めて良さが分かる…』。都会育ちの黒田さんは、御槇の夕日を見てそう感じました。そこで生まれ育った人には、何もかもが当たり前すぎて、気がつかないことが多いのかもしれません。私が生まれ育ったところも御槇と同じく過疎で衰退しつつありますが、私も故郷の良さなど考えないまま離れてしまいました。『夕日なんてどこでも同じではないのか…』。そんな思いがあった私も取材を続けるうち、牧場の山本さんと同じく、自分のふるさとのよさを考えるようになりました。この番組が全国の方々がそれぞれのふるさとを見つめ直すきっかけになれば幸いです」


<番組概要>

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『復活!山の百貨店 ~夕日がくれたもの~』
(制作:テレビ愛媛)

◆放送日時

11月7日(金)26時30分~27時25分

◆スタッフ

プロデューサー
村口敏也
ディレクター
新岡幹
構成
友近晶二
新岡幹
撮影・編集
友近晶二
ナレーション
中山明音

2014年10月1日発行「パブペパNo.14-405」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。