2014.9.30

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『離島からの挑戦状~ないものはない~』
(制作:山陰中央テレビ)

人も経済も都市一極集中が進む中、30年後には8割の自治体に消滅の恐れがあると言われた島根県。しかし、その島根県のしかも離島で人口を増加させている自治体がある。
隠岐諸島にある島の一つ海士町。Iターン者が急増していて、今では人口の15%にも達している。島を訪れると、過疎高齢化が進む中、皆明るく前を向き、夢を抱いて暮らしている。
疲弊する町や村が多くある中、人口2400人の小さな島で一体何が起きているのか?
これからの地方が進むべき先のヒントを探る。

<10月22日(水)26時10分~27時5分>


 取材のきっかけは、去年、島根県が発表した一つのデータ。

 2014年に島根県の人口が統計開始以来、初めて70万人を割る見通しとなったというものだ。止まらない過疎高齢化、そして都市への一極集中を象徴するように感じた。そんな島根県内の人口推移を詳しく読み解いていくと、一つだけ人口を増やしている自治体があった。しかも「社会増」が特筆して高い。

 それが、今回の番組の舞台、隠岐・海士町だ。本土からフェリーで3時間、人口2400人の離島で一体何が起きているのか?これからの地方が進むべき先のヒントを示しているかもしれないと感じ、本格的な取材を始めた。

 島を訪れると…「ないものはない」と書かれた大きなポスターがフェリーの降り口で出迎える。過疎高齢化が進むという島を巡ってみると、子供を連れた母親の姿が目立つ。港に行けば若い漁師の姿。話を聞いてみると「島から海外進出を狙っています」「日本一の和牛の産地にします」、皆、大きな夢と野望にあふれていた。

 日本海の島に浮かぶ小さな島は、10年前まで日本の多くの離島がそうであったように少子高齢化の中、漁業や畜産など島の産業は衰退、町の収入も減少の一途をたどっていた。公共事業に頼り、多額の地方債の返済に追われる町財政。赤字再建団体へのボーダーラインも見えていた。

 そんな海士町を救ったのが町民全体で共有した「危機感」そして「ないものはない」という考え方だ。「何もない島なら失うものも何もない」海士町がとった戦略は、ノーガードで攻め続けること。福祉や保健に関わる行政サービスは町民が我慢した。国や県に冷ややかな目で見られながらも、島のハンデをなくすために億単位の投資を惜しまなかった。

「攻め続けることが生き残るための唯一の道だった」海士町の山内道雄町長は当時を振り返る。産業を再生させ雇用の場を確保するだけでなく、島の外で商売をして「外貨」を稼ぐことを目指した。島をあげて、知恵とアイデアのある人材を応援する。噂を聞いた若者が全国から集まり島で起業し始めた。若いアイデアと島の産業がコラボレーションして新しいビジネスが生まれている。さらに海士町は、産業づくりの次のステップとして、島の未来を担う人づくりまで自分たちの手で進めようとしている。

 島の小さな学校に、地域が積極的に関わり、島の担い手を育成している。地元の子供たちはもちろん、首都圏からも生徒を呼び、島の自然の中で独自の授業を展開している。一時は統廃合も検討された学校が、今や全国から選ばれる学校に生まれ変わっている。

「離島から日本の教育を変える」校長は明言する。
「島だから…」「田舎だから…」ここにはそんな言い訳が一切ない。30年後には消滅するともいわれる地方都市の離島だが、島の人たちは皆顔を上げ、前を向いて進んでいる。悲壮感などないのだ。

 番組では、離島が抱える本質的な課題を取材しがらも、政策的な議論に偏らず、この島の人のいきいきとした表情や、島から日本を変えようとする心意気をありのままに描くことで、地方が進むべき先のヒントを描きたいと考えている。テレビから暗い話題が伝わってくることも多い昨今、地方から元気で明るく、視聴者が顔を上げ前に進める番組をめざした。

ディレクター・土江基行(山陰中央テレビ報道部)コメント

「『近い将来、地方は消滅する』少子高齢化が進み、都市部への一極集中が止まらない中、多くの人が警鐘を鳴らし始めています。都市部の人も地方に目を向けてくれる。それはありがたいことです。
 一方で、私は市町村の8割が2040年には自治体機能を維持できないといわれる島根県に暮らしています。将来に対する不安はちょっぴりありますが、これからも島根で暮らしていくと思います。有識者が鳴らしてくれる警鐘はありがたい反面、『もう君のふるさとはなくなるよ』と言われているようで悲しい気持ちもします。なぜなら、地方にも夢や希望はたくさんあるのです。テレビは大切な問題を国民皆で考えるきっかけをつくります。人々の悲しみ、憤り、苦悩を描くことも時には求められます。しかし大人がみんな後ろ向きだったら、そんな社会を子供たちはどんな風に見るでしょうか。みんな不安や不満を抱えて生きています。それはよくわかっています。だからこそ、元気いっぱい、夢もいっぱい、顔を上げて前が向ける、そんな番組になればと願っています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『離島からの挑戦状~ないものはない~』
(制作:山陰中央テレビ)

◆放送日時

10月22日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

ナレーター
藤本幸太郎(シグマセブン)
カメラ
野田貴
小林良児
田部福省
音声
柳瀬友美
編集
野田貴
音効
金子寛史(フローレス)
MA
大竹雄一(スタジオ・ヴェルト)
CG
内部圭子
吉村崇
題字
山村章之
構成・ディレクター
土江基行
プロデューサー
山根収

2014年9月30日発行「パブペパNo.14-403」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。