2014.7.14

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ようこそ!槌音が響く丘へ
 ~被災女将 笑顔が戻るその日まで~』

(制作:岩手めんこいテレビ)

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。街の高台にホテルが再建された。支配人・人首(ひとかべ)ますよさんの笑顔はホテルの自慢。震災前、料理店の女将(おかみ)だった人首さんは津波で店だけではなく「笑顔」を失った。失意の日々を送る中、突如持ち掛けられたホテルの支配人の話。経験のない世界に飛び込んだ人首さんは、地元住民や家族の後押しを受けながら忘れていた「笑顔」を取り戻していく。「葛藤」「喜び」など様々な表情を通して、震災から立ち直ろうと前に進む被災女性の姿を3年間にわたって追った。

<7月16日(水)26時10分~27時5分>


「震災の前日取材した料理店の女将がどこかの避難所にいるらしい」震災直後に同僚のディレクターから話があり、避難所を捜したのが人首(ひとかべ)ますよさんとの出会いだった。車が流されたという人首さんを海沿いにあった店に送った。

「すべてを変えた津波ですね」跡地をさまよっていたときの顔が今でも忘れられない。彼女に笑顔が戻る日が来るのか。長期の取材を開始した。最初は仮設店舗で復活する料理店の女将を想像していた。しかし、取材の中で再建するホテルの支配人の話を持ち掛けられていることを知る。「異例の抜擢」と地元でも評判だったが、彼女は心から喜んでいる様子はなく、カメラを向けての取材は拒否された。その理由は未経験の仕事に就くことや働きたくても働けなかった元従業員への思いがあり、心の整理に時間がかかったことを後で知ることになる。

 震災から約1年半粘り強く交渉を続けた結果、2012年8月、ホテルの再建が正式に決まり取材を再開。支配人修業からオープンまでの激動の1年間で彼女は様々な表情を見せた。自立して生きようとする女性の強さ、母としての優しさ、故郷の復興を願う郷土愛など、この女性が持つ魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと思った。

 番組では彼女を取り巻く人々が登場する。人首さんと共にホテルで働く新人スタッフとホテルの再開を待ちわびる地元の住民、新沼克雄さんだ。新人スタッフは全員地元出身の若者。彼女たちもまた全員被災者で、復興の力になりたいと志望した。しかし、社会経験も少なく、時には責任の重さにつぶれそうになる。そこを支える人首さんの存在。人首さんが「接客」で一番大事なことを伝え、「心からの笑顔」を表情に出す特訓も見どころ。また、「喜寿のお祝い会」を開きたいと思っていた新沼さんを通して、思い出の故郷の景色を失くした地元住民の思いと復活するホテルに対する期待を伝えたかった。

 さらに、7万本の松が生い茂っていた高田松原など震災前日には元気な姿を見せていた街が、津波によって一瞬のうちにがれきの街に変わってしまったことを映像で知ってもらうことで、失われたものの大きさを感じてほしい。

 そして、被災者が立ち直るということがどれだけ時間がかかるものかを伝えることが番組の大きなテーマ。ホテルのオープンに向けて準備を進め、忘れていた笑顔を取り戻していったかのように見えた人首さんだったが、その裏には「葛藤」や「苦悩」「悲しみ」など様々な思いを心にしまっていた。その心の中を一番知ることができたのはオープン当日の朝。「前の店(海鮮料理店)の前を通りましたが?」という質問をしたところ「前を向いて進んでいる。でも振り返ると…」言葉を選びながら答えていた。まだ、本当の笑顔は戻っていないと感じた瞬間だった。それでも仕事が始まると一切その弱さを見せない。「ホテルから見える景色は復興の動き。街の姿を目に焼き付け、伝えてください」と話す人首さん。お客を出迎えるときには「いらっしゃいませ」ではなく「ようこそ」と笑顔で語りかける。その笑顔はどこからわき上がってくるのか。その答えを話してくれたときの笑顔は3年間で一番の笑顔だった。

 被災者と呼ばれる一人の女性がどのような思いで3年間を歩んできたのか、これから全国の人にどのようなことを伝えていきたいか、番組を通して少しでも多くの人に知ってもらいたい。

ディレクター・藤堂光隆(岩手めんこいテレビ報道局報道部)コメント

「2010年夏、報道部に異動になった私は、初めての部署で悩みながら仕事をしていました。配属から約半年後、東日本大震災が発生。3年間の震災取材の中で、被災者から厳しい言葉をもらったり、涙を流したこともあります。被災地の局として使命を果たしているのか、今も葛藤しています。そんな中で人首さんには“震災を風化させたくない思い”“仕事へのプロ意識”“親の責任”など取材を通して多くのこと教えられました。番組を制作するにあたり一番神経を使ったのは取材者との関係作り。なぜなら皆、被災された方だからです。そして、カメラの前で本音を見せる瞬間を大事にしてきました。復興はまだ始まったばかり、人首さんも仮設住宅から出るメドは立っていません。生活の再建が成されてこそ“笑顔が戻るその日”が来ると思います。被災地の現状を知るために一人でも多くの人がホテルのある陸前高田に足を運んでいただけることを願います」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ようこそ!槌音が響く丘へ
 ~被災女将 笑顔が戻るその日まで~』
(制作:岩手めんこいテレビ)

◆放送日時

7月16日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

プロデューサー
菊地十郎
ディレクター・構成
藤堂光隆
撮影・編集
今野賢也

2014年7月14日発行「パブペパNo.14-284」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。