2014.5.28

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『“空飛ぶ診療所”きょうも開業中!?
~90歳の夫はラジオパーソナリティー~』

(制作:関西テレビ)

人口の25%以上を65歳以上の高齢者が占める超高齢社会・日本。多くのお年寄り、その予備軍が将来に不安をもっている。この番組の主人公・早川一光さんは「老後の過ごし方」などについて発信してきた医師だ。パーソナリティを務めるラジオ番組で、人々の不安を和らげようとするが、自らも90歳を迎え「人生最終章」を強く意識するようになってきた。「老後をどういきるか」、この番組は「人生・最終章」をともに考えるドキュメンタリーである。

<6月4日(水)26時20分~27時15分>


 シニアが満足する番組が少ないと言われて久しい。超高齢社会となり、世の中にシニアがたくさんいるのに、多くのシニアが見たい番組がないという。44歳のディレクターのいちばん身近な高齢者=両親もそんな不満をいう。彼らが知りたい、見たい内容はどんなものなのか。そこに注目して番組を作ってみようとリサーチを始めた。

 調べていると、シニアに人気のラジオ番組が京都にあると耳にした。この番組は26年以上続く長寿番組で、パーソナリティは90歳のドクターだと言う。一体どのような番組なのかと、偵察気分でのぞきに行くと、なるほど、そのドクターには人を引き付ける不思議な力がある。そして、そのドクターだけではなく、そのラジオの放送スタジオもちょっと不思議な空間だった。これは、映像にすると面白い。直感的に思った。
 そのラジオ番組は、毎週土曜の午前6時15分から始まるKBS京都の「早川一光のばんざい人間」。スタジオの様子は、一般的に思い浮かべるラジオスタジオとは全然違う。公開生放送で、素人の見学者で部屋はあふれている。彼らは早川先生の指示で声の出演として登場したり、質問に答えたり。見学者というより、番組の参加者だ。

 番組を仕切るラジオ・パーソナリティは医師の早川一光さん。90歳とは思えない勢いのあるトーク、立ったまま2時間余りの生放送を進行し、背中はいつも伸びている。語るのは「自立して生きる、自分の体は自分で守る、そして共に生きる」ことの大切さ。長年、京都・西陣で往診する姿から「わらじ医者」と呼ばれ、NHK連続ドラマのモデルにもなった。近年は「老い」や「死」などに関する講演や著書が多い。

 早川さんは「90歳になり、高齢者の気持ちがわかる」からこそ、「伝えたいことがある」という。取材も受け身ではなく、毎回、「取材の提案」と書いたレジュメを用意し、「取材のポイント」を伝えてくれる。「後世に遺すもの」、「遺してはいけないもの」、「やり残したこと」、「たどり来し道」。 早川さんが用意したレジュメのタイトルは「わらじ医者夫婦の死への準備」。早川夫妻は、このドキュメンタリーを“死の準備”の一幕と考えてくれた。私たちは遠慮なく、普段の暮らしをカメラに収めた。
 夫妻の「人生最終章」の記録ということかもしれない。日常会話のなかに「遺すべきもの」、そのメッセージがたくさん込められていたように思う。

 取材の終盤、ちょっと驚く提案を受けた。「僕が死ぬ瞬間を、君とこのカメラマンに撮影してほしい。死んでから来たらあかんよ。子供がそばにいるのか、家族が何と言いうのか、隠さず撮影しなさい」。実現する日は、何年も先であってほしいが、その本心を理解するのに、私たちはまだ若すぎるのかもしれない。わかるような、わからないような奥の深い言葉がたくさんありすぎる。
 番組には、早川さんを慕って集まるご高齢のリスナーさんも登場する。その人達の日常にも今の高齢社会の現状が見て取れるのではないだろうか。厳しい現状にあっても、いきいきと生きるヒントがあるように思う。

 この番組は、子供や孫くらい年の離れたTVスタッフが人生の大先輩、早川夫妻から何かを感じたいと思って作ったドキュメンタリーだ。「老い」を意識する年代の人やその家族に見てほしいと思って作り始めたが、見る人の立場や年齢で、受け止め方は全然違うだろう。それぞれの立場で、「老いる」「生きる」ということを考えていただければと願っている。

ディレクター・柴谷真理(関西テレビ放送報道局報道番組部)コメント

「早川一光さんは、90歳とは思えないほどお元気です。お話ししていても、年齢を感じることはほとんどありません。常にエネルギッシュです。ラジオ番組“早川一光のばんざい人間”に集まるリスナーさんも“先生からパワーをもらう”という表現をされています。70代のリスナーが90代のパーソナリティにパワーをもらうなんて、ちょっと変な感じもしますが、本当にそんな感じなのです。そして、本当に元気になって帰って行かれます。ラジオのスタジオで早川さんやリスナーさん達の姿を見ていると、“老いる”って一体何なんだろうと思います。どんな老い方をするかは、その人の気持ちの持ち方にかなり影響されるのだとも思いました。放送後に番組を見た視聴者から、“老い”には暗いイメージしか持てなかったが、明るい老後をイメージできるようになったと言われ、うれしく思いました」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『“空飛ぶ診療所”きょうも開業中!?
~90歳の夫はラジオパーソナリティー~』
(制作:関西テレビ)

◆放送日時

6月4日(水)26時20分~27時15分

◆スタッフ

プロデューサー
兼井孝之
ディレクター
柴谷真理子
構成
柴谷真理子
ナレーター
藤田千代美
撮影
松本比呂之・大窪秋弘
編集
樋口真喜

2014年5月28日発行「パブペパNo.14-212」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。