2013.10.24

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『1F(イチエフ)作業員~福島第一原発を追った900日~』
(制作:フジテレビ)

今夏汚染水漏れが発覚するなど困難を極める福島第一原発、通称“1F(イチエフ)”廃炉への道のり。2年半に渡り50人以上の原発作業員に取材を続け、被ばくしながら働き続ける現役作業員2人が初めて実名、顔出しで取材に応じた。汚染水を巡る深刻な実態が語られ、今またほころび始めた1Fの実情が見えてきた。地元の被災者でもあり、避難した家族とは離れ離れの作業員たち。悩んだ末に1Fを去る決断、また1Fに残る葛藤に迫った。

<11月6日(水)26時20分~27時15分>


 世界が注目する福島第一原発、通称「1F(イチエフ)」の廃炉。2011年12月、政府は原発事故の収束宣言を行い、廃炉へ向けての工程が始まったが、今次々と異常事態が発覚している。地下水の建屋流入により汚染水は増え続け、貯蔵タンクが敷地一面を覆い尽くす。汚染水対策として多核種除去設備ALPSと地下水バイパスの稼働が計画されたが、完成後も漏水対策等の不備などで棚上げに。今年8月、貯蔵タンクからの汚染水漏れが発覚。地下水汚染、海への流出と事態は悪化の一方だ。収束どころか、事故レベルは引き上げられた。

 しかし、廃炉への作業は止めるわけにはいかない。1Fでは事故直後から今も3000人もの作業員が働いている。防護服に身を包み、名前も顔も見えない作業員たちだ。

 取材ディレクターは事故直後から1Fの作業員にカメラを向け、取材を始めた。しかし、箝口令が敷かれ、取材を断られる。ようやく取材に応じてくれても匿名で、顔出しNGが条件。幾度となく現場に出向き、50人以上の作業員たちを取材し、ようやく2人が現役作業員として初めて実名、顔出しで取材に応じる決意をしてくれた。「世間には知られていない現場の真実をありのままに伝えたい」それが理由だった。

 林和夫作業員、49歳。浪江町出身。地元高校を卒業後、東京電力の協力企業に入社し、1F勤務歴30年のベテラン。現場の知識も豊富で、今は電源敷設に関する現場のリーダーを務める。震災後、家族は埼玉に避難。「誰かがやらなきゃ事故は収束しない」と一人福島に残った。平日は原発の作業に追われ、週末3時間かけていわき市の寮から家族の元を訪れる生活。震災時、生後5カ月だった孫娘の成長ぶりを見て林さんの心がほぐれる。林さんは当初から汚染水問題の不備を指摘、政府の事故収束宣言の際にも「現場は非常事態だ」と訴えていた。しかし警鐘は届かなかった。それどころか現場の作業はより過酷になり、高額だと言われた賃金も減る一方。条件のいい除染作業へと移る仲間も相次いだ。それでも家族と離れ離れの生活を2年間続けた林さんはついに1Fを去る決断をする。使命感を持って働き続けてきた林さんが悩んだ末に決断した理由を語った。

 志賀央(あきら)さん、31歳独身。浪江町出身。家は津波に流され、両親は群馬に避難。被災しながらも原発で働き続ける仲間の存在から福島に残る決断をした。原発作業員の約6割は地元福島の出身だ。志賀さんは東京電力の子会社の下請けをする昭栄という会社に勤務。昭栄は地下水バイパス工事を請け負った。請負金も決まらないまま、現場の作業は進む。被ばくしながらの作業、線量の高い場所を避けているはずなのに避けきれない状況が続く。線量が限度を超えれば現場に止まることはできない。期限ありきのスケジュールに現場は追い立てられる。冷凍庫は息子を心配して両親から送られてきた調理済みの料理であふれていた。

 急ピッチの作業で地下水バイパスは完成したものの、地元の漁民たちとの話し合いが決裂、くみ上げた地下水を海に流せなくなり、稼働できなくなった。稼働できなければ会社に請負金は入ってこない。志賀さんは複雑な胸中だった。会社のためには稼働してほしいが、地元の被災者としては稼働を許すわけにはいかない。これからの自分に不安がよぎる。人並みに出逢い、家庭を持つことを願う志賀さんだが、このまま原発作業員を続けていくことが本当にできるのか。

 東電の後手後手の対応では、増え続ける汚染水に対して決定的な対策を取ることができなかった。ようやく国が乗り出すことになったが、依然出口は見えない。2年半に渡り50人以上の作業員に行ってきた取材の末に見えてきたのは、悩んだ末に1Fを去る人、悩みながら1Fに残る人の存在だった。福島第一原発の廃炉への道のりが困難を極める一つの理由がそこにあり、今後の厳しさが見えてきた。

ディレクター・海野麻実(フジテレビ情報制作センター)コメント

「『“1F”の作業員を探す』当初、この目的を果たすべく向かったのは、福島県に向かう途中の高速道路のサービスエリアでした。作業服を着た男性を見つけては声掛けをする。東京電力や政府の発表だけでは現場の全容が把握しきれない中、作業員の声を拾うことは最優先でした。しかし、取材にこぎ着けても放映の条件はモザイクを掛け、声を変えること。生身の人間として向き合い、時にはお酒を酌み交わし色々な話を打ち明けてくれた作業員の姿は、いつも放送にのせた途端、どこか遠いグレーの存在に変わっていきました。
 廃炉まで40年。視聴者にとって作業員は、あの危険な場所で白い防護服に防護マスクで動くロボットのような存在になり、次第に関心も薄れてきています。しかし、そのような状況を作り出しているのはメディアの責任でもあります。1Fでは半数以上の作業員が地元福島県出身。いつ線量オーバーして仕事がなくなるか、先の見えない状況を恐れながら現場に赴く彼らは、いつまでも動き続けてくれる“要員”ではありません。もがき、迷いながら、いつ去ってもおかしくない人たちです。
 「作業員は足りている」「工程はスムーズに進んでいる」―公式発表で発せられる言葉の影で、実際に何が起こっているのか。今回の1時間の枠の中では、語りきれないことがたくさんあります。しかし、その一端に触れてもらい福島第一原発の体温を感じてもらう。それが、このドキュメンタリーの狙いであり、映像で訴えることの出来るテレビメディアの頑張りどころだと思っています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『1F(イチエフ)作業員
~福島第一原発を追った900日~』
(制作:フジテレビ)

◆放送日時

11月6日(水)26時20分~27時15分

◆スタッフ

プロデューサー
堤康一(フジテレビ)
戸塚晶久(フジテレビ)
ディレクター(取材・報告)
海野麻実(フジテレビ)
構成
北村和也
ナレーター
松元真一郎

2013年10月23日発行「パブペパNo.13-429」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。