2013.8.6

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『シグナルは笑顔の中に
~日常に潜むいじめ 悲劇からの教訓~』

(制作:さくらんぼテレビ)

7年前に県立高校で起きた女子生徒の自殺。少女はいじめがあったことを遺書に記していたが、学校の調査でいじめは確認されず、事件としては収束していった。調査で否定された少女の言葉。しかしあらためてその声に耳を傾けると、見落とされてきた未来への教訓が見えてきた。
番組では遺族の証言や当時の調査報告書などから、いじめ対策に必要な視点を検証。発生の土壌をとらえ直すとともに、教育現場の対策や試行錯誤の現状を伝える。

<2013年8月21日(水)26時20分~27時15分>


 滋賀県大津市で起きた「いじめ自殺」事件。民事裁判を期に事実が明らかになりはじめると、各マスコミは悪質ともとれる隠ぺいや凄惨ないじめの実態を一斉に報道。「いじめ問題」は社会問題として再び大きくクローズアップされた。1980年代にはじめて社会問題化したいじめ問題。事案が発生するたびに“いじめの有無”に関する追求や“因果関係の立証”、“隠ぺいの追及”が繰り返されてきたが、残念ながら、今もいじめにより命を絶つ事案が後を絶たない。

 県内でも7年前、県立高畠高等学校に通う女子生徒が自殺している。亡くなったのは当時2年生の渋谷美穂さん(当時16)。美穂さんは携帯電話の中に遺書を残し、言葉や態度によるいじめがあったことを訴えていた。学校は生徒たちへの聞き取りやアンケートを実施し、事実関係の調査を行った。4カ月後、県教育委員会はその結果を発表するが、遺書の内容とは違い、本人への直接的ないじめは確認されなかった。

 教育委員会がまとめた調査報告書には、“誤解”という言葉が何度か出てくる。「教室で、ウザイ・臭いなどと話すグループがあった。美穂さんは自分への言葉と誤解したのではないか」「美穂さんの後ろの席の生徒が美穂さんの前の席の生徒に消しゴムを投げていた。自分にされたものと誤解したのではないか」つまり報告書は、美穂さんが遺書や家族に残した証言と同じような行為が教室にはあったが、美穂さん本人への行為ではなかったと訴えていたのだ。

 大津市で起きたいじめ事件が大きく報道される中、美穂さんの両親にコンタクトを取った。両親は民事裁判の場で学校のいじめ対策が不十分だったことなどを問う一方、今も悲しみの中で美穂さんが死を選択した要因を探し続けている。
 いじめが社会問題化すると報道は過熱する。しかしその伝え方は、犯人を捜し、不正の追求に終始する傾向が強い。実際、今回取材に入る際の視点も「何か見えていない事実があるのでは」というものだった。両親に当時の状況を聞くとともに、昨今のいじめ問題についても考えを求めた。しかし返ってきた言葉は意外なものだった。
「いじめが報じられていることは知っています。しかし報道は子供たちに届いているのでしょうか。苦しんでいるのは子供たちです。」その時、いじめ問題と向き合うときに、欠けていた視点があることに気づかされることになる。それは“悲劇を繰り返さないために何が必要なのか―”ということ。

 実際に学校や教育関係者を取材すると、前提としてとらえておかなければならない“いじめの性質”ですら理解していなかったことに気づかされた。視点を変えてあらためて美穂さんが残したメッセージと向き合ったとき、問題の本質や、埋もれていた課題についても気づかされていくこととなる。すべて、表面的ないじめ有無や凄惨さ、死との因果関係にとらわれていては見えないことばかりだった。

 取材に協力をいただいた一人に花輪敏男さんがいる。花輪さんは日本自閉症協会の理事で、いじめ被害者が学校に復帰する手助けも行っている。花輪さんはこう言う。「いじめられた子の癒やしは担う事ができる。しかし根本的な解決ではない。なぜならいじめが起きている土壌はそのままだから。また被害者が出るかも知れない」と。

 文科省が大津の事件後に行った全国調査では、14万件以上のいじめが報告された。その中には身体を脅かされる重大な事案も約280件含まれているという。同じような悲劇を生まないためには、いじめ発生の土壌をとらえ直すことが必要なのだとあらためて感じさせられた。

 番組は高畠高校で起きた少女の死から、今につながる教訓を検証。いじめが発生する土壌をとらえ直し、教育現場の思いや対策の現状を伝えていく。日常に潜むいじめの性質や危険性をあらためて考え直すきっかけになればと願っている。

ディレクター・高橋正貴(さくらんぼテレビ報道制作部)コメント

「ご遺族から“繰り返さないでほしい”という言葉を聞いて以降、少しでも未来に向けた提案ができればという思いを胸に取材を進めてきました。いじめはたびたび社会問題となってきましたが、過去の教訓が生かされているとは言えません。とはいえ地域社会や親の変化にともない、子供たちが変わってきているという話もよく聞きました。未来に向かって大人たちは何が残せるのか。これは学校だけでなく家庭・地域、そしてわれわれマスコミも一緒になって考えなければならないテーマなのだと思います。また、最悪の事態が起きてしまった場合の学校の対応は、課題が残されたままです。調査のあり方や遺族への情報公開に対する仕組みづくりは一向に進んでいません。いじめはどこでも起こりえる。いじめは見えない。いじめは命を奪いかねない。今学校で起きていることは決して他人事ではないことを、多くの人に考えてもらえたらと思っています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『シグナルは笑顔の中に
~日常に潜むいじめ 悲劇からの教訓~』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

2013年8月21日(水)26時20分~27時15分

◆スタッフ

プロデューサー
古内英樹(さくらんぼテレビ)
ディレクター
高橋正貴(さくらんぼテレビ)
構成
高橋修
ナレーター
米本千珠
撮影
大友信之(さくらんぼテレビ)
編集
竹田誠

2013年8月6日発行「パブペパNo.13-304」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。