2012.9.10

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原発のまちに生まれて
~誘致50年 福井の苦悩~』

(制作:福井テレビ)

福島第一原子力発電所の事故から1年。日本中で「脱原発」がこだまする中、全国最多14基の原発を抱え、40年以上にわたって共生してきた福井県は揺れていた。全国のトップを切って、国から再稼働の要請を受けた大飯原発―。多くの福井県民がこれまで特別に意識することのなかった原発と向き合い、今後の共生について真剣に考え始めていた。一方、覚悟や危機感を感じられない国の姿勢…。原発の地元には、立地地域にしか分からない積年の思いが澱となって横たわっていた。

<9月12日(水)26時10分~27時5分>


 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故後、「脱原発」が加速している。原発の立地地域はいまや同情やねたみの的ともなっている。「危ない所に住んでいてかわいそう」「原発マネーをいっぱいもらっているんだろう」。福井県の「原発銀座」の取材を始めた。

原発のまち

 全国最多14基の原子力発電所を抱える福井県。原発が立地する地元は、長年にわたり原発と共生してきた。福島第一原発の事故後、全国で原発が停止していく中、2012年2月、福井県内の原発14基全てが停止した。原発で働く人は1000人以上、13カ月に1度の定期検査の際は全国から作業員が訪れ、1日に3000人もの人が働く。作業員を当て込んだ飲食店や宿泊業、運送業も多く、雇用や経済が原発に深く根付いた地域にとって、原発の停止は死活問題だ。こうした状況の中、地元に暮らす人たちは何を思っているのか―

「誇り」と「リスク」

 原発銀座の一つ、美浜町にある「耕雲商事」。社長の国川清さん(62)は、30年以上にわたり福井県内の各地にある原発で定期検査・メンテナンス業務を下請けしてきた。しかし福島の事故以降、原発が順々に停止していくため、仕事は減り続ける一方だ。「この状態で会社がいつまでもつか…」。先行きが見えない中、約30人の従業員を抱える会社の社長として、清さんの肩には大きな責任がのしかかる。こうした状況を予想もせず、家業を継ごうと一流企業を辞めて古里に帰ってきた清さんの息子・国川晃さん(29)。小さいころから原発で働く父の姿を見て育った晃さんにとって、原発はいまも「危険なもの」ではなく「誇り」だった。

 一方、同じ町には、原発反対を訴え続けてきた男性もいる。松下照幸さん(64)は推進派から一転、頻発する原発のトラブルを目の当たりにし「事故のリスクを無視できない」と町議会議員に出馬を決意。しかし、関西電力が原子力事業本部を置く原発のまちで反対を訴える選挙活動は生易しいものではなく、後援会が圧力を受けるなど、孤独な戦いを強いられたという。

なぜ原発銀座に?

 そもそも、原子力の恐ろしさを知る日本がなぜ原発大国となったのか―。そして、なぜ福井県は原発を誘致し、原発銀座となったのか―。CIA=アメリカ中央情報局の機密文書に残る原発導入の歴史。戦後の経済成長に原子力エネルギーを組み入れたい国。経済成長から取り残された過疎の町が、“起爆剤”と期待した原発誘致。そして西日本で初めての原発が福井県に建設され、「原子の灯」が高度経済成長の象徴・大阪万博に送電された。その時代、原発は明るい未来を連れてきた「希望」だった。しかし取材を進めていくと、そのイメージとは裏腹のマル秘文書に行き当たる。そこには「事故の重大リスク」を知りながら、市民には一切公表しない行政の姿があった。

再稼働へ…地元の苦悩

 原発に対してさまざまな議論が渦巻く中、国は全国で初めて福井県おおい町にある関西電力・大飯原発3、4号機の再稼働を地元に要請した。福井県の西川知事は即答を避け、まず国への不信感を口にした。「立地が果たしてきた努力や貢献が、電力消費地の関西に必ずしも理解されているとは言えない」。原発が再稼働できなければ、関西の生活や経済に悪影響が出る。国は重い決断を、人口8800人の小さな町に押し付けた。全国から集まった反対派は原発の地元に対し「再稼働に同意すれば地元も“加害者”になる」と叫び、町には抗議や苦情が殺到していた。多くの住民が複雑な思いを抱え、葛藤を繰り返す中、住民の代表・おおい町議会は再稼働に「同意」。苦渋の決断の陰には、「原発」とともに生きていかざるを得ない立地の歴史と現状があった。

ディレクター・宮川裕之コメント

「原子力発電所の在り方について、発電所が立地する地域だけでなく、国民の注目が集まっています。敦賀原発から約13キロに実家を持つ私も、今あらためて原発と向き合い家族や古里の人たちが今、何を思い考えているか、なぜ自分の古里に原発ができたのかを知りたいと思いました。本来、エネルギー政策は国の責任で進めていくべきものですが、政府は、立地自治体に「地元同意」というボールを預けたまま、積極的な動きを見せたようには感じませんでした。この構造は、沖縄の基地問題やダム問題などと同じで、覚悟や危機感を感じられない国の姿勢を問いたいと思いました。日本の経済発展を支えてきた半面、福島の事故によって負の側面も強く浮かび上がった原発。誘致から50年以上の歴史を振り返り、さまざまな立場や考え方の方々を描くことで、いまの福井の現状や住民の心境、苦悩を全国に発信したい、放送を通して原子力の問題を考える機会になれば、と考えました」


<番組概要>

◆番組タイトル

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原発のまちに生まれて
~誘致50年 福井の苦悩~』
(制作:福井テレビ)

◆放送日時

9月12日(日)26時10分~27時5分

◆スタッフ

プロデューサー
横山康浩(福井テレビ)
ディレクター
宮川裕之(福井テレビ)
構成
岩井田洋光
撮影・編集
斎藤佳典(福井テレビ)
ナレーター
津田寛治

2012年9月10日発行「パブペパNo.12-331」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。