2012.8.30

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ママ聞いて ほんとの僕を』
(制作:さくらんぼテレビ)

山形県上山市には原因や治療法が分からない「血管奇形」と言う病で生まれつき右の頬全体に赤いアザがある少年が暮らしている。両親と共に世間の偏見や痛みを伴う治療と向き合いながら成長してきた少年の心は大人が想像する以上に傷ついていた。時折見せる怒りを抑えられない言動に戸惑う母。番組では健康に産めなかった苦悩を抱きながらも懸命にわが子の成長を願う母と少年の葛藤・成長を見つめる。

<11月24日28時04分~28時59分>


 生まれつき血管やリンパ管などの形成がうまくいかず腫瘍やアザが体に出る「血管奇形」。痛み・出血・歩行障害などあらゆる症状が現れるが、現代の医学では原因や治療法だけでなく患者数も分かっていない。命に直結するケースは少ないが対処療法による治療は続けなくてはならない他、腫瘍やアザと言う外見上の問題から多くの患者や家族が周囲からの偏見にも悩まされているのが現状だ。

 山形県上山市には「血管奇形」を背負い生きる6歳の少年・岩川雅治くんがいる。雅治くんは父・耕治さん、母・智恵さん、兄・尊治くん、祖母・久子さんと5人で暮らしている。両親は2009年に山形県議会に病の難病指定を求める請願書を提出。そこには苦しい思いを背負いながらも毅然とした態度で生きる両親の姿があった。本格的に取材を始めたのは雅治くんが小学校に入学した去年4月。子供にとって小学校入学は社会に出る第一歩。どんな親でも新たな旅立ちに不安がつきまとうものである。特に岩川家にとっては周りからの偏見やいじめなど大きな不安を抱えた春。それでも強い子供に育ってほしいと両親は雅治くんの背中を押した。

 生後4カ月目から痛みを伴うレーザー治療を開始したが、治療後に出る高熱や毎日続けなければいけない処置は雅治くんから日常の普通の生活を奪った。いつも雅治くんに寄り添って来た母親の智恵さんはずっと健康に生んであげられなかったことを悔やみ、何とか病を治そうと誰よりも雅治くんと向き合ってきた。しかし雅治くんを思って取ってきた行動が、成長に大きな影響を与えていることには気が付くことはできなかった。

 小学校への入学後、両親の心配をよそに元気に通学を続けた雅治くん。しかし雅治くんの心には徐々に異変が起きていた。最初に気が付いたのは両親や祖母の久子さん。徐々にわがままな言動や怒りを抑えられない行動が目立ってきたのだ。「わがままの理由は何なのか」「子ども特有のわがままと違うものなのか」。両親は不安や葛藤を抱えながらこれまで以上に雅治くんと向き合う生活を続けていたが、その答えは出せずにいた。しかし2年生に進級する直前、雅治くんはつぶやいた。「僕のアザは治らない…だからわがままを言う」。小さなころから痛みを伴う治療を続け、さらに偏見や心ない言葉にさらされてきた雅治くんの心は、大人が想像する以上に傷ついていたのだ。病を一生背負わなければならない現状と向き合う雅治くんと岩川家を追う中で見えてきたのは、子どもの無限の可能性と子どもを信じる親の愛情の深さ。そして何気なく世間が向けてきた視線が雅治くんや岩川家を大きく傷つけてきた現実だった。小学校入学という転機の1年にはこれからの生活の土台となるべき決意や決断が詰まっていた。日常を淡々と追い続けたカメラはそこにいたる雅治くん、そして家族の葛藤を映し出している。

 どの親も悩む子供との距離感。病を抱えている岩川家にとってはさらに難しい課題だ。しかし両親、祖母は現状から目をそらさずにしっかりと雅治くんと歩みを続けている。そして雅治くん自身も病を背負って生きていくことを自分なり受け止め、少しずつ成長している。家族関係が希薄になってきているともされる時代。岩川家の日常には多くのヒントが隠されている。

智恵さんはずっと「息子の病気を世間に知ってほしい。息子が生きやすい社会になってほしい」と言い続けている。変わらなくてはならないのは「血管奇形」などの病に対する私たちの意識なのかもしれない。

中村慎一ディレクターコメント

「番組の制作を終えた今も雅治くん、そして岩川家との交流は続いています。毎日のように取材に来る私を受け入れてくれた雅治くんと両親には本当に感謝しています。またそれだけ“血管奇形”という病への社会の理解を両親が求めていたことを痛感しています。治療や偏見と向き合う生活の中で岩川家が進めている歩みは、難病と呼ばれる他の病を抱える人や家族にとっても希望が持てるものだと私は思っています。雅治くんの心の葛藤に触れたとき、正直言って私は戸惑いましたが両親はしっかり受け止めていました。“この家族がいればきっと雅治くんは大丈夫!”そんなふうに思わせてくれました。雅治くんはこれからも中学校進学、高校進学など環境が変わるたびに苦悩するに違いありません。それでも家族と共に希望を持って力強く、そして心優しく頑張ってくれると信じています。社会の理解の広まりと共に、いつか“血管奇形”の原因や治療法が確立される日を願っています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ママ聞いて ほんとの僕を』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

11月24日(土)28時4分~28時59分

◆スタッフ

プロデューサー
太田健
ディレクター
中村慎一
構成
高橋修
ナレーター
津賀有子
撮影
大友信之
編集
長南亜希子

2012年8月30日発行「パブペパNo.12-315」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。