2012.6.19

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
原発マネーの幻想 ~山口・上関町30年目の静寂~
(制作:テレビ西日本)

国策として全国各地に建設が進められた原子力発電所。安全性が強調されつつも、受け入れ自治体には原発マネーという“危険手当”ともいえる巨額交付金がばらまかれた。山口県上関町。ここは30年前に原発を誘致し、建設を進めようとしたが、未だに着工すらできていない。「生活できなくなる」と根強い地元の反対運動があったからだ。そこで起きた福島の原発事故。これで計画が止まった。もう原発はできないかもしれない…それでも原発マネーに頼らざるを得ない“過疎の町”の今に迫る。

<6月27日(水)26時15分~27時10分>


 去年3月11日に発生した東日本大震災、そして福島第一原発で発生した放射能漏れ事故は1年以上が経過した今も全国に波紋を広げ続けている。その福島から直線距離にして900キロも離れた山口県上関町も、事故の影響を深く受け、今、自治体存続の危機を迎えていることをご存じだろうか。もちろん放射性物質の飛来や影響が原因ではない。理由は原発建設計画の頓挫だ。福島の事故で安全性への不安を理由に山口県は中国電力に建設に向けた埋め立て工事の中止を指示。中電はそれを受け入れた。原発計画が始まったのは1982年。しかし住民の根強い反対運動で計画は大幅に遅れ、本体の建設工事はおろか、事前準備にあたる埋め立てなどの作業がようやく始まったばかりだった。そんな段階で発生した大震災。計画を進める動きが止まったまま1年が経過した。

 当時の菅総理が「脱原発依存」、鉢路大臣は「建設に入っていない計画段階の原発の新設は難しい」と、上関にNOをつきつけた。国の後ろ盾を失った中、推進していた人たちは、絶望的な状況においやられた。攻守が逆転したのだ。町にもたらされた原発関連の交付金はこれまでに56億円を超える。現実に原発がないのにこれだけ多額のいわゆる「原発マネー」がもたらされていた。しかし、今これらはあてにならなくなり、計画されたハコモノの建設は延期された。原発工事や作業を想定して民宿を始めた住民。大規模工事を請け負うために多額の借り入れをしてまで重機を購入した業者。見通しが甘かったわけではない。原発建設の経済効果を見越して動いた人たちも、まさかこれほど深刻な事態になるとは思っていなかった。残ったのは返済のめどが立たない巨額の借金となった。「原発がほしいのではない。原発交付金が必要」と町長は開き直った。将来が見えなくなった今、推進してきた町民はどこに怒りをぶつけていいのか。絞り出す言葉には不満がにじむ。

 建設に向けた動きが止まったことで反対派の住民は、阻止行動を行わなくてよくなった。30年ぶりの静かな時間。しかし国が原発の今後の方針を示さない今、計画は中止と決まったわけではない。最後の最後まで気を抜けないと、毎週月曜日の反対のデモは今も継続されている。

 ひとつの事故が、過疎の町の運命を変えた。そして国は窮地に陥った自治体にいまだになんら方針を示せていない。原発の再稼働が最優先。計画はその次という事情は見えるが原発マネーという餌をぶら下げてきた国は、無責任に状況を放置しつづけている。福島の被害が続く中で、上関に限らず各地の立地自治体にも、これまで通りの交付金が支払われる見通しはたたない。「原発マネーの幻想」に翻弄される町の悲哀を追った。

取材のきっかけ

 TNCは山口県を取材エリアとしている、しかし、福岡の放送局であるがゆえ上関町についての取材は、事件事故以外はなかなか取り組めていなかった。福島の事故以降、原発に関する取材を進める中で、上関がいま置かれている状況が特殊でもあり、またすべての原発立地自治体の将来の運命を先取りしているようにみえた。原発交付金にすべてを託してまちづくりを進めようとした自治体が、実際に現在進行形の原発事故でどう変わるのかに興味をもった。通常のニュースで扱うには上関は距離が離れすぎていたが、時間をみつけデジカメ一つで島に渡った。番組の半分程度が記者が撮影した映像となった。反対派の拠点・祝島のひとたちは、以前の選挙を取材した時よりも明るく生き生きとしていた。それに比べ推進派はカメラをみれば足を遠ざけ、声をかけても返答はない。もしくは「マスコミは信用できん」ときつい言葉が吐き捨てられた。もともと推進派の住民はマイクを向けても言葉を発しなかった。より厳しい態度から攻守が逆転したことがみてとれた。しかし何度か行くうちに、いやだといいつつも、嫌な理由などを答えてくれるようになってきた。いつもの反対派やマスコミの報道へだけではない。矛先は、行政、国、電力会社など、これまで推進における味方であったはずの組織にさえも厳しい言葉が吐かれるようになった。「だれも助けてくれない」弱い立場の住民の声には、隠してきた本音がこもっていた。

小山一英ディレクター(テレビ西日本)コメント

「撮影でヘリに乗る機会がありました。福岡から原発建設予定地・山口県上関町まで。私の実家の下松市を通り過ぎたそのとき、同じ視界に予定地がありました。距離は30キロ、陸路だと1時間以上かかるのに、空からみれば隣ほどの近さだったのです。視線を移せば大分県、愛媛県も。今回の福島のような万が一の事態が起きたときには、いったいどの範囲に影響が出るのだろうかと“想定外”を考えさせられました。ナレーションは福岡県出身の女優・杉田かおるさんに依頼しました。杉田さんは原発には中立の考えです。ただ震災以降1年間、福岡に活動拠点を移した中で、原発事故の影響などさまざまなことを学ばれたということで、とても知識が豊富でした。落ち着いた声で、しっかりとこの番組の本質を伝えていただきました。原発誘致に積極的な最後の自治体といわれる上関町。番組を通して、原発マネーに頼るしかない過疎の町の悲哀を感じてもらえればと思います」


<番組概要>

◆番組タイトル

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原発マネーの幻想
 ~山口・上関町30年目の静寂~』
(制作:テレビ西日本)

◆放送日時

6月27日(水)26時15分~27時10分

◆スタッフ

プロデューサー
原満幸
ディレクター・取材・構成
小山一英
ナレーター
杉田かおる
撮影
馬場尚秀
安澄直紀
安波嘉寛
池部三千輔
編集
岡本浩明
映像協力
フジテレビ
テレビ新広島

2012年6月19日発行「パブペパNo.12-215」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。