2012.02.08

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
紀之とノリユキ ~元保健室登校 21歳の原点~
(制作:さくらんぼテレビ

山形県のある寺で修行に励む一人の青年は「過去の自分」と闘っていた。
「過去の自分」とは怖くて人と向き合うことを避けていた暗い青春時代。元保健室登校だった21歳の僧侶は今もさまざまな壁にぶちあたり、乗り越えようとしています。
喜怒哀楽の感情表現を取り戻すために奮闘する日常を取材したほか、中学・高校・家庭内でのエピソードなども交え、そこから見えてくる「成長へのヒント」を描いた作品です。

<2011年10月1日(土)26時50分~27時45分>


 山形県のある寺で悪戦苦闘を続けている21歳の若き僧侶。富樫紀之。
 紀之は2009年の3月、高校を卒業してすぐに寺にやってきた。
 一人前の僧侶になるのはもちろん大変だが、本当に闘っている相手は「過去の自分」。もう一人のノリユキだ。紀之は元保健室登校、中学・高校と人と話すのが怖くてたまらなかった。他人から逃げ回り、自分から逃げ出していた紀之は本当の自分になれるのか。便利になるばかりの日本、しかし人間関係力は低下。作品は紀之の日常に密着、下ばかり向いていた少年が顔をあげようともがき続ける姿から「生きる力」を今一度、見つめ直す。

 紀之が生活しているのは山形県大石田町にある曹洞宗の禅寺・地福寺。紀之の師匠で今、父親代わりなのが住職の宇野全匡さん(66)だ。宇野さんは30歳の時からひきこもりなど生きることに悩む若者に手を差し伸べる活動を続けていてこれまでに多くの若者を自立した一人前の大人にして世に送り出してきた。寺で寝食を共にした子供たちは30人以上。ナイーブな心と真正面から向き合っている。県内の工業高校を卒業したばかりの紀之がやってきたのは2009年春のこと。彼は、中学・高校と周囲に対して心を閉ざし、高校2年からは教室に行くことができず苦しんだ過去をもっていた。そんな紀之に住職がまずさせたのは日常の暮らしを繰り返し繰り返しさせること。
 お寺の朝は早い。紀之は午前6時前には起床しまずは寺の掃除、食事は住職たちと一緒。昼は寺が管理する田畑を耕し毎日毎日、汗をかいた。一方、宇野さんはそんな紀之に寄り添い、表情やしぐさを観察しうまくできた時は褒めた。寺での生活を通し、紀之は次第に生きることの意味を必死に考えるようになる。
 そして2010年の夏に出家、これまで以上に寺での修行に励むようになった。しかし暗い青春を送ってきた青年がすぐに立ち直れるはずもない。紀之が寝る前に書いている日記からも彼の心が読み取れる。檀家(だんか)の前で言葉が出てこない紀之、言い訳してしまう悪い癖が直らず、住職からビンタをくらってしまう。しかし歯を食いしばり成長への糧としていくうちに彼の中に変化が見えてくる。
 2011年の1月、紀之は成人式に参加。向かう列車の中で「正直怖い」と語った紀之だったが同級生を見つけると自分から声をかけることができた。高校を卒業してまだ2年も経っていないのに同級生の笑顔を受け入れられる紀之がいた。そんな紀之の暗い青春をさかのぼっていくと「家庭環境」が原因の一つとして浮かび上がってきた。紀之の両親は平成元年に結婚、翌年に紀之が、その1年後には弟が生まれた。2人とも良く笑う子だった。やがて経済的な問題で両親の間は急速に冷え切ってしまう。家庭での会話が少なくなり紀之は父母の間に飛び交う火花を感じながら18年間を過ごしてきた。 別々ではあるが父・母ともに寺を訪ねてくる時がある。でもあまり乗り気ではない。紀之が泊まっていってほしいとお願いしても言い訳をして、振り切って帰ってしまう。紀之はある時期の日記の中で親を他人と表現するなど心が乱れていた時期もあった。檀家(だんか)たちと福井県の永平寺に祖先供養に行った時には母親にフクロウのお土産を買ってきた。不苦労…苦労をかけたくないという親思いの表れだったが母親の反応はいまいち。お土産を母に渡した日。紀之は母への思いを言葉にはできなかった。心の葛藤(かっとう)をまだうまく外に出せない紀之。喜怒哀楽の感情を紀之にぶつけていく住職。

 そんな中、3月11日、あの大震災が起きた。幸い寺には大きな被害はなかったが被災者は遺体を荼毘(だび)にふすこともできず山形県の寺に葬儀を依頼してきた。そこで紀之はあまりにも痛ましい遺族の姿を目の当たりにする。人の痛みを思い、痛みを分かち合う。僧侶として人としてもっとも大切なことに紀之は気づかされる。
 迎えた3年目の春。紀之は21歳になった。地福寺恒例の誕生会には兄弟子や近所の人、実の母が参加した。紀之を支える人たちから次々と贈られるプレゼント。母の言葉を待つ紀之…。紀之の中に21年積もっていたものがついに吹き出した。

「俺だって…どれだけ…耐えているか…知らないだろう!」

 初めて母に感情をぶつけた紀之。21歳の誕生日は遠いあの日の笑顔を取り戻す初めの一歩になった。3年目の春が始まった。紀之は日課の畑仕事。耕して、汗をかき。自分を見つめて心に汗を流す。本当の紀之を取り戻すために。

土岐友彦プロデューサーコメント

「宇野さんとは家族ぐるみの付き合いで、10年以上前の私が記者だった時代に何度か取材をさせてもらいました。そんな宇野さんから電話が来たのが2010年の夏でした。"一番下の弟子が出家するから取材に来ないか"というものでした。番組のディレクターに情報を引き継ぎ、ニュースの企画で一度放送、これが今回の番組作りのきっかけです。人間ドラマは日常を追ってこそ描けるとの信念のもとドキュメンタリー作品化を目指し取材を続けました。紀之君の心の葛藤(かっとう)、宇野さんの本気の喜怒哀楽を目の当たりにしていくにつれていつしか自分の生き方にも照らし合わせるようになっていきました。1年間を1時間に集約した番組です。どんな感じ方でもかまいません。見ていただいた方のあすへのヒントになってくれればテレビマンとして最高の喜びです」


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『紀之とノリユキ
~元保健室登校 21歳の原点~』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

2011年10月1日(土)26時50分~27時45分

◆スタッフ

プロデューサー
土岐友彦
ディレクター
中村慎一
構成
高橋 修
ナレーター
丸尾知子
撮影
大友信之
編集
竹田 誠
音効
谷川正幸
MA
市原貴広
CG
佐藤哲哉

2011年9月30日発行「パブペパNo.11-257」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。