2011.8.29
<2011年8月30日(火)25時50分~26時45分>
仙台市太白区秋保町。昭和63年に仙台に編入された地区で、現在の人口約4500人。温泉街として知られるこの街の一角に、一軒のスーパーマーケットがある。「主婦の店さいち」。佐藤啓二さんが妻の澄子さんや長男の浩一郎さんらと営んでいる。
この店に、平日の午前中から大勢のお客さんがやって来る。また、「研修」と称して全国各地から同業者などが視察に訪れる。
人気の秘密は、おはぎとおそうざい。
多品目を扱うスーパーマーケットでは、一般に全体の売上に占めるおそうざいの割合は10%程度と言われている。「さいち」はそれが50%以上。圧倒的な支持を得ている。
一つ105円のおはぎが平日でも平均5千個、土日は1万個も売れて行く。おそうざいは500種類以上のレパートリーを誇る。シンプルな調味料だけで作られ、防腐剤は使わない。作ったその日が賞味期限の日だ。
地元客や観光客に支持され、今では年間6億円の売上がある。チェーン展開するスーパーと比較できる数字ではないが、商圏を前提にするとあなどれない。
祖父の佐藤市次郎さんが始めた配達販売を中心とした店を佐藤社長が昭和54年12月にスーパーマーケットに衣替えした。以来、毎日の天気、気温、来店客数、1日の売上、その累計を1日ずつ記してきた。それは手書きの詳細かつ膨大なデータ。去年、おととし、10年前のデータさえ瞬時にひもとける。
「当たり前のことをするだけ」。
佐藤社長はこともなげに言う。「いいものを売る」姿勢も一貫して揺るがない。
社長の意をくむ澄子専務。おそうざい作りの指揮を執る。開店当時、残った生鮮類を二次加工してそうざいを作るシステムを教わるが、「作るなら、いいものを作ろう」とそのための材料を取り寄せ、本格的に取り組んだ。美味しいものを丁寧に作る姿勢を重視し、レシピを捨てた。
「舌で覚えないと」。
その姿勢は一緒に働くパートを含めた従業員に浸透している。「お客さんの声を大切に」と、朝早くから心をこめて仕事に臨む。
一生懸命に働く二人を、長男で常務取締役の浩一郎さんがさりげなく支える。
おそうざいで売上を上げる「さいち」の経営に興味を抱き、全国から同業者や飲食業に関わる人が次々と研修に訪れる。そのような人たちを佐藤社長は受け入れる。おそうざいもおはぎの調理場も、すべて見せる。そこに、申し込んだ方も驚く。「マネされるの嫌だからって閉鎖的になると反省がなくなる。見られることでわれわれも一緒に勉強しようという気持ちになれる。絶えず進化するために、オープンにした方がいい」とおおらかに構える。同業者、大学で教べんをとる人、家業を継ごうとする若者。さまざまな人が「さいち」を訪ね、佐藤社長や澄子専務に接し、その生き方を目の当たりにする。彼らは、「さいち」で見たもの、感じたものをどう生かして行くのだろう。
開店当初、3億円程度だった売上は毎年少しずつ伸び、30年たって6億円台に。そして平成22年度は、2月終了時点で21年度全体の数字にほぼ並んでいた。3月には売上のあがるお彼岸がある。年度で7億円という数字も視野に入って来たころ、東日本大震災が発生する。
内陸部の秋保地区は大きな被害はなかったものの、電気・電話は途絶え、水道も止まる。逆境を克服し必要な物資を提供するため店を開けようと従業員と奮闘する佐藤社長。
こうした中でも工夫を忘れず、より美味しいものをと、おはぎのあんこの煮方を見直す澄子専務。人に対する真剣な姿勢、生き方に迫る。
「76 歳とは思えないオーラをまとう佐藤社長。手を抜かず、長年ずっと、今やるべき事をコツコツとやり続けて来ました。そして誰もが驚く結果を生み出しました。“今日やる事は今日やる”“自分で考える”“油断しない”。佐藤社長の言うことの一つ一つは誰でも分かる容易なことばかり。いわば平凡なこと。しかし、それをずっと続けるのは非凡なことなのだと改めて痛感させてくれます。取材を始めた頃、人生の大先輩の佐藤社長や澄子専務の生き方から今を生きる上で大切な “姿勢”を考えるきっかけになれば、と思っていました。しかし東日本大震災を経た今、メッセージはもっとシンプルです。近道はありません。目の前にあること、一つ一つと丁寧に向き合う。がむしゃらに向き合う。その姿に周囲は元気づけられるのだと思います。佐藤社長らの生き方を見て、元気になって下さい」
第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『おはぎ、あきない、おそうざい 秋保で出会った“生き方”』
(制作:仙台放送)
2011年8月30日(火)深夜25時50分~26時45分
2011年8月26日発行「パブペパNo.11-206」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。