2011.8.9

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
とどかぬ白衣~外国人看護師候補者の現実~
(制作:テレビ西日本

福岡市の総合病院で看護師の助手として働いている、インドネシアの青年・ムリヤディ。彼の夢は、日本の国家試験に合格し、正看護師になることだ。しかし、彼に与えられた日本での滞在期間は3年。それまでに試験に合格できなければ、帰国しなければならない。なぜ、こうした厳しい枠組みができたのだろうか。それは、彼が参加した日本政府の「外国人看護師候補者受入れ制度」の成立過程に原因があった…。

<2011年10月1日(土)25時55分~26時50分>


 福岡市の総合病院で看護師の助手として働いている、インドネシアの青年・ムリヤディ。彼の夢は、日本の国家試験に合格し、正看護師になることだ。しかし、彼に与えられた日本での滞在期間は3年。それまでに試験に合格できなければ、帰国しなければならない。
 毎日深夜まで勉強するが、「褥瘡(じょくそう)」といった日本人でも難しい漢字が並ぶ国家試験をパスするのは、26文字のアルファベットの世界で生きてきた彼にとって、あまりにも高いハードルだ。一緒に頑張ってきた同僚も、合格は無理とあきらめ途中で帰国してしまった。
 つらい受験勉強。なぜ、こうした厳しい枠組みができたのだろうか。それは、彼が参加した日本政府の「外国人看護師候補者受入れ制度」の成立過程に原因があった…。

 番組では、ムリヤディの生活に密着するとともに、学識経験者や政治家にも取材を行い、来日のきっかけとなった受け入れ制度の問題点を浮き彫りにする。
 「日本の病院で働きながら、看護のスキルアップを図り、一定の賃金も保証される」。一見、魅力的に映ったこの制度に、多くのインドネシアの看護師たちが来日を希望し、ムリヤディら約100人が、2008年夏に第一陣として来日した。
 制度ができたのは、その2年前。日本がインドネシアと結んだEPA(経済連携協定)に由来する。EPAとは、2国間の経済を活性化させるため、さまざまな施策を行っていこうというもので、日本政府はエネルギー分野などで、自国に有利な貿易の枠組みを次々と構築。一方で、インドネシアの要望に応える形で、閉鎖的だった労働市場を一部開放し、この看護師受入れ制度をスタートさせた。
 協定締結のメリットは多く、両国は結んだ取り決めを急ピッチで実現し、受入れ制度も整え、締結からわずか2年で看護師の来日にこぎつけた。

 しかし、受入れの細かいルールを調整する段階で、日本は医療過誤や不法滞在への懸念もあり、事実上「労働力の使い捨て」とも取れる厳しい条件を付けた。それが、「外国人看護師候補者は、3年以内に日本の看護師国家試験に受からなければ帰国する」という条件である。母国で日本語を勉強した経験がないムリヤディたちにとって、それはあまりにも過酷な条件だった。
 年に一度の国家試験。帰国が迫る3年目を迎える時点までに合格したのはわずか3名。さらに、合格するまでは日本での資格がないため、注射や点滴といった看護師業務はできず、仕事は片付けや食事の配膳などだけだった。看護や医療のスキルアップもできないもどかしさも、彼らの悩みをより深刻なものにしていた。
 そして、不合格であれば帰国という3度目の試験の日が迫ってきた。大量の帰国者も予想される中、日本政府は試験日直前に、ある動きをみせた…。

怡土(いと)貴之ディレクターコメント

 「福岡市のモスクで取材を行ったときに出会ったムリヤディは当時来日半年で、かなり日本語をしゃべることができました。病院で働いているという彼に興味を持ち、取材を始めると母国で看護師だったこともあり仕事も早く、高齢の患者たちとも笑いながら接する姿に余裕すら感じました。そして、こうした人材が“看護師不足”や“超高齢化”など将来に不安を残す日本の看護現場を救う切り札になるのでは、と直感したことを今でも覚えています。
 しかし、彼のような語学センスと看護能力を合わせ持つ優秀な外国人ですら、国家試験のハードルは極めて高いものでした。そして、帰国へのタイムリミットが迫る中、今までなんとなく感じていた“この就労システムは何のためにできたのか”という疑問を探るべく専門家への取材を始め、結果として“日本政府は、彼らを将来の日本の看護を担う人材としては考えていない”という複雑な背景が浮き彫りとなりました。
 では、日本の看護を誰が担っていけばいいのでしょうか。番組を通して、ムリヤディを翻弄(ほんろう)した制度のあり方と合わせ、私たちの将来に関わるこの深刻な問いかけについても、考えるきっかけになればと願っています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『とどかぬ白衣~外国人看護師候補者の現実~』
(制作:テレビ西日本)

◆スタッフ

プロデューサー
瀬戸島正治
ディレクター
怡土貴之
ナレーター
大谷真宏
撮影
大坂 崇
MA
西 博司
編集
中嶋辰郎
CG
井之上尚太
翻訳
ナナスルヤナ
タイトル
亀沢幸一
映像提供
フジテレビ

2011年8月9日発行「パブペパNo.11-185」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。