2011.8.6

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
新生 ~口蹄疫 復興への歩み~
(制作:テレビ宮崎

宮崎県で発生した口蹄(こうてい)疫から1年…。口蹄疫が残したものとは一体何なのか。被害にあった畜産農家のそれぞれの1年の歩みを追いかけた。口蹄疫で全ての家畜を失った畜産農家や2001年に甚大な口蹄疫被害を受けたイギリス取材などを通して今回の口蹄疫問題に迫る。


 2010年4月20日、宮崎県で突如発生した口蹄疫。約30万頭の家畜が処分されるという未曾有の被害をもたらし、「再び発生したら次はない」と畜産農家は恐怖におびえていた。
 口蹄疫で約30万頭の家畜が処分された理由とは。そして口蹄疫が残したものとは。番組では、被害にあった農家や2001年に甚大な被害を受けたイギリスなどを通して口蹄疫の本質に迫る。

 口蹄疫が終息して1カ月。地域の復興イベントで会場を駆け巡る1人の男性。養豚農家の日高義暢さん(31)。口蹄疫で約8200頭の豚が犠牲となった。畜産の若手リーダーとして経営再開を決意。農場は徹底した防疫態勢が整えられ、新たな豚の導入を待っていた。
 酪農家の斉藤徳司さん(62)。人生の全てであった牛を全て失った。後継者問題・年齢という大きな壁と向き合い、経営再開が断念かで揺れ動いていた。
 そして、伝説の種牛「安平」を産み育てた繁殖牛農家・永野正純さん(62)。畜産宮崎の礎を築いた一人だ。この農家も全ての牛が犠牲となった。

 口蹄疫が分岐点となり、繰り広げられる農家の苦悩と葛藤。そして地域のつながりときずな。あれから1年。3人の農家は口をそろえて言う。「口蹄疫は終わっていない」
 その口蹄疫とは一体何なのか。家畜伝染病・口蹄疫の恐ろしさは感染力が強いことだけではない。 口蹄疫は、牛や豚などに感染。人・物の移動がストップし、畜産農家だけでなくエサ業者、運送業、観光業など他産業にも大きな影響を及ぼす。単なる動物の病気ではなく「産業の病気」だということだ。そして、口蹄疫に汚染された国=「非清浄国」のままだと、海外との肉の取り引きが制限される。
 問題はそれだけではない。食品流通学を専門とする中村学園大学の甲斐諭教授はこう指摘する。「汚染国のままだと中国から牛肉・豚肉が入ってくる可能性がある。」口蹄疫に汚染されたままだと、同様の「非清浄国」の中国から安い牛肉・豚肉が入ってくる可能性があり、その場合価格破壊が起こるというのだ。現在は「清浄国」の日本が輸入している牛肉や豚肉はアメリカやオーストラリアなど数カ国。もちろん同様の「清浄国」だ。「清浄国」を保つことは国際的な信頼にもつながるのだ。

 日本で発生した口蹄疫をはるかに上回る被害を出した国がある。2001年イギリス。処分された家畜の数は、日本の30倍にものぼる600万頭以上、被害額は1兆円を超すとされている。10年後の2011年。被害が最も大きかったカンブリア州に向かった。家畜50万頭が埋められた土地。そこは木々や花々が植えられ自然保護区として整備されていた。子どもたちの教育の現場としても活用され、年間3000人が訪れるという。10年前の記憶をとどめる努力が続いていた。
 しかし、驚くべき光景を目にすることになる。家畜市場や農家を訪れると、防疫がほとんどなされていないのだ。地元の獣医はこう言う。「口蹄疫は明日にでも発生する」。日本の農家にとって10年後の可能性を示す光景がそこには広がっていた。

 今も口蹄疫の脅威にさらされている日本。すぐ隣の韓国では口蹄疫が猛威をふるっている。口蹄疫の記憶は、10年後、そしてその先の未来にまで伝えられていくのか? 口蹄疫は海外のどこかで今も発生している。明日、日本で口蹄疫が発生しても決して不思議ではない。

水主義人ディレクターコメント

宮崎県で突如発生した口蹄疫。10年前にも同じ宮崎県で口蹄疫は発生していたが教訓は生かされなかった。目の前で泣きじゃくる畜産農家、混乱する国・県。連日、深夜の取材が続いた。口蹄疫で家畜がすべていなくなった町で開かれた花火大会。口蹄疫が終息してからの復興イベントだ。会場で供養の花火を見ながら涙する畜産農家、その傍らで無邪気な笑顔を見せる子どもたち。“口蹄疫を風化させてはいけない”と強く感じた瞬間だった。人間の記憶というものは、時間がたつにつれ薄れてゆく。二度と同じ被害を繰り返さないために、今回の口蹄疫を10年後、そしてその先の未来にまで伝えていきたい、そう考え番組制作に取り組んだ。
口蹄疫の爪あとを記録し問題提起することは報道機関の役目だ。宮崎県で口蹄疫が発生してから1年。復興への歩みはまだ始まったばかりだ。畜産農家のみならず消費者1人1人が、口蹄疫問題について考え、次につないでほしいと強く思う。


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『新生 ~口蹄疫 復興への歩み~』
(制作:テレビ宮崎)

◆スタッフ

プロデューサー
河野 真
ディレクター
水主義人
構成
松石 泉
ナレーター
宇乃音亜季
撮影
飯干祐介
橘 裕昭
編集
飯干祐介
EED
柳谷基司
MA
清山 慎
音効
作田真由美

2011年8月4日発行「パブペパNo.11-179」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。