2011.7.22
<2011年7月27日(水)26時10分~27時5分>
2008年、世界経済に大きな影を落としたリーマンショック。それを機に起きた派遣切り。その受け皿となる職業はないのか? ニュース企画会議で挙がったのは、「後継者不足に苦しむ農業こそ、その受け皿になるのではないか」という意見だった。
そこで、取材を行ったのが、JA熊本中央会が2006年から始めている新規就農者養成のためのインターン事業。そこには年齢も性別もさまざまで、派遣切りにあった人や季節労働で体を壊した人などもいた。このインターン事業は、研修生が直接受け入れ農家で1年間学ぶというもの。月に一度はJAで座学があり、1カ月に13万5000円が支給される。中には派遣切りにあい、ひとまず研修を受けてみようかという軽い気持ちの人もおり、過酷な夏の農作業に根をあげ途中辞退する人も続出していた。
そんな中出会ったのが、福岡県出身の宇都宮兄弟だった。兄、政志さん(51)は3年前まで北九州の自動車工場の管理部門で働くサラリーマン。弟、忠勝さん(44)は長距離トラック運転手からの転身。農業を目指したのにはそれぞれに持つ事情があった。
政志さんは、会社を辞める直前に離婚、3人の子供は成人しており、身一つになった時点で農業をやる決心をし、九州をバイクでまわる旅に出た。そこで農業に取り組むなかで、農薬の怖さを思い知る。そして出した結論は、農薬や化学肥料を使わない有機農業をやることだった。
同じころ、忠勝さんは中国毒餃子事件で、自分が運んだ冷凍食品をそのまま降ろすことなく返品となる現実に疑問を覚え、農薬などを使わない有機農業を目指そうと思っていた。そんな二人の思いが合致し、有機農業を目指すことに。
2009年春、2人は熊本でともに農業を学ぶことになった。研修先の農家は政志さんが南阿蘇、忠勝さんは上益城郡山都町、ともに有機農業に適した山間部。それぞれに受け入れ農家で研修を受け、自立に向けての日々を過ごす。しかしそこで壁となったのが、農地であり住む家だった。Uターン組と違い、新規就農者は畑もない、農機具も持たない、さらに宇都宮兄弟の場合、家もないの「ないないづくし」。特に田舎の場合、土地があいていても知らないものには貸さないという風潮がある。そんな中2人は、受け入れ農家や研修の指導員、内田敬介さんの助けもあり、ひとまず独立する春から耕す畑を1カ所は借りることができた。
2010年春、2人は南阿蘇に家を借り農業を始めた。最初に植えた野菜はジャガイモ。しかし、苗を買いに行くと店の人から一言「今ごろ植えるの? もう遅いよ!」。1年間の研修を受けたとはいえ農業1年目、初めてのことばかりだった。
数カ月がたち2人が食べていくには、さらなる畑が必要だと考えていた時に近所の地主から声をかけられる。
「うちの土地を畑に戻したら、ただで貸してやってもいい。」
しかしそこは10年以上耕作放棄され、やぶと化した畑。それでも土地を貸してくれるのならと、猛暑の中、地主とともに開墾を始める。最初は様子をうかがっていた近所の人たちも、農業に真摯に取り組む兄弟の姿を見て、次第に「うちの畑が空いてるので、ちょっとやってみらんね?」という話も舞い込むようになる。
6月から次第に出荷を始めた宇都宮兄弟だったが、そこであらためて農業の厳しさに直面する。それが生活費を除く農業収支=大幅な赤字だった。就農時、極力初期投資を避け、トラクターも知人から中古を譲ってもらうなど大きな出費を抑えていたが、それでも収支はマイナスで、政志さんの退職金で今は食いつないでいるが赤字経営は2人に確実にのしかかってきていた。
新規就農、そして有機農業の難しさと現実を、2人の兄弟を通して描く。
「兄弟には2人の農業研修時代に出会いました。安泰なサラリーマン生活からあえて農業を、しかも全く初めての地、熊本で目指した兄、政志さん。そして、熊のような風貌ながら農業に対しての思いの熱い弟、忠勝さん。年も7歳離れていて、成人後はあまり交流のなかった2人は農業を始めることで、子どものころ以来の共同生活をすることになりました。この全く違う2人が新たに農業に取り組む姿を通して、後継者不足が大きな課題となっている“日本の農業”を描こうと思いました。政府などは大規模化や、法人化など農業の生き残り策だと発信していますが、実際に農村を訪れてみると、高齢な小規模農家が地方の農業を支えているのです。そして大事なものは、地域でありコミュニケーションでした。しかし生活の現実は厳しく、政志さんは農業の傍らアルバイトを、忠勝さんはビニールハウスを中心に別の場所での農業を選びました。夢と現実の厳しさ、そのはざまでもがく2人の兄弟の1年半を取材しました。」
第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『農に生きる脱サラ兄弟
~南阿蘇・有機農業1年生~』
(制作:テレビ熊本)
2011年7月27日(水)26時10分~27時5分
2011年7月21日発行「パブペパNo.11-167」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。