2011.7.6

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
トキと暮らす島 ~野生復帰事業の果てに~
(制作:新潟総合テレビ

トキの野生復帰事業を進める佐渡市では、トキをシンボルにした地域の活性化に期待が集まった。しかし、第1回目の放鳥から3年が経過した現在もいまだにその効果がほとんど見られない現状がある。そこには、国のトキに対する方針が大きく影響していた。トキの野生復帰事業をめぐり対立する国と地元。番組では、国と地元の関係から地域活性化の前に横たわる問題を検証していく。

<2011年7月13日(水)26時10分~27時5分>


 新潟県佐渡市で現在進められているトキの野生復帰事業を通して、疲弊の続く地域の活性化という問題に目を向ける。

 観光客の減少や高齢化など、離島である佐渡市では地域経済の疲弊が大きな問題となっていた。基幹産業である観光の分野でも、ピーク時には120万人を超えていた観光客が近年はその半数ほどの60万人にまで減少、島の重要な交通手段であった航空路線も赤字を理由に航空会社が撤退してしまうなど、大きな閉塞感が漂っていた。
 こうした状況の中、佐渡市が地域の活性化にと期待を寄せたのが、佐渡市が最後の生息地だった鳥、トキの野生復帰事業だった。学名ニッポニア・ニッポン。日本の名前が付けられたトキは、乱獲や生息環境により激減。国は絶滅を防ぐため、1981年佐渡に生息していたトキ5羽を捕獲し、人工繁殖を行う方針を決めた。以後、佐渡の空からトキは姿を消し、佐渡島民から隔離された状況で繁殖の取り組みが行われた。結局、日本のトキは絶滅してしまうが、その後中国から贈られたトキによる繁殖に成功し、ついには放鳥が行えるまでにその数を増やすことに成功。2008年9月25日に第一回放鳥が行われてから毎年放鳥が行われている。
 佐渡市はこうしたトキの野生復帰事業を通しての地域活性化を図ることを目指した。観光客の増加やトキとの共生のための環境再生の取り組みが評価されることを期待したのだ。
 その結果、トキとの共生のための環境再生への取り組みの1つである農業などでは、農薬をおさえた安全安心な米づくりということで評価が高まり、年間2億円ほどの経済効果をあげることに成功した。が、その一方で、もっとも効果が期待された観光についてはほとんどその効果を得られていないのが現状だ。そこには国の影響が大きく横たわっていた。
 第1回目の放鳥が行われてから、現在に至るまで毎年のように国と地元の間でトキをめぐっての見解の相違が発生している。冬の間トキにエサを与えるかどうか、本州に渡ったトキを佐渡に戻すかどうか…。問題が起こるたびに、国と佐渡市は対立。トキを守りたい、トキを地域活性化につなげたいと願う佐渡市と、トキのデータ収集にこだわる国の間に大きな溝が生じてきた。そして去年、トキが野生復帰するための訓練を行う順化ケージという国の施設にテンが侵入し、9羽のトキが死ぬという事故が起きてから両者の対立はより鮮明になる。事故の検証委員会ではトキの野生復帰事業が国によるトップダウン方式で進められてきたこと、トキを暮らしに受け入れるはずの地元が不在のままトキの野生復帰事業が進められてきたことが指摘された。
 一方で同じく国内で絶滅した鳥・コウノトリの野生復帰事業を進める兵庫県豊岡市では、地域主導で事業が行われており地域の活性化を最優先に考えた野生復帰事業が行われ、成功をおさめていた。
 番組では、このトキとコウノトリの野生復帰事業の違いを比較することで、国のかかわり方が、どのように地域活性化に影響を与えるのかを検証する。

 地元では、佐渡の大自然を元気に生き抜くトキに自然界での35年ぶりのヒナの誕生への期待が集まっている。しかし、トキが産み落とすのは新たな命を伴わない無精卵ばかり。ペアの相性が悪いと産まれる確率が高まるとも言われる無精卵は、国と地元の間で揺れ続けるトキの野生復帰事業そのものを表しているかのようだ。どうしたらトキの野生復帰事業を地域の活性化につなげることができるのか。専門家が「トキだけを見ていてはダメ」と印象的な言葉を残す。
 佐渡市ではトキとの共生のため島民による地道な環境再生の取り組みが続けられている。コウノトリの野生復帰事業ではこうした環境再生の取り組みこそが地域活性化の重要な視点となっていた。
 番組の最後では、こうした視点からトキの野生復帰事業を通して地域が描くべき未来を検証していく。

丘山慶ディレクターコメント

 私は第1回放鳥が行われる1年前の2007年に入社以来、トキの取材を続けてきました。その中でトキの意外な生命力に驚かされるとともに、人間に翻弄され続けるトキの姿を目の当たりにしてきました。問題が起こるたびに対立を続ける国と地元。それは、トキが自然界で次々と産み落としてく無精卵を見るかのようでした。トキは人間に何を望んでいるのか、トキとどんな暮らしを人間は作っていけばいいのか。新潟県では、北陸新幹線の問題など中央と地方の関係の在り方を問うできごとを多く抱えている。トキの野生復帰事業も同じではないか、そしてトキを暮らしに受け入れていく地元が不在のままトップダウン式で行われる事業に違和感を覚えたのです。環境再生に地道に取り組んでいく地元がトキとどのような暮らしを築いていくのか、「トキと暮らす島」の現状とこれから描かれていく未来に興味を持ち、番組の制作を行いました。


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『トキと暮らす島 ~野生復帰事業の果てに~』
(制作:新潟総合テレビ)

◆放送日時

2011年7月13日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

プロデューサー
小師智彦
ディレクター
丘山 慶
構成
丘山 慶
ナレーター
村山千代
撮影
尾田 博
松本順一
編集
尾田 博
音響効果
藤井 亮

2011年7月6日発行「パブペパNo.11-153」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。