2009.8.13

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『あなたがいるから 〜成人T細胞白血病との闘い〜』
(制作:沖縄テレビ)

ウイルスが原因で発症する血液のがん「成人T細胞白血病」、
患者のほとんどが2年以内に亡くなっているという治療が難しい病気である。
沖縄県出身の宜野座さんは27歳の若さで発症し抗がん剤などによる治療を続けていたが、
東京に転院して骨髄移植を受ける決意をする。その隣には沖縄から付き添い続ける恋人の笑顔があった。
一方、ウイルスの主な感染経路が母乳だと知った母親は、自分を責めながら看護を続けていた。

<2009年8月14日(金)深夜3時30分〜4時25分放送>


 成人T細胞白血病(ATL)。発症した患者のほとんどが2年以内に亡くなるという治療が難しい病気である。がんの原因はウイルスで、主に母乳で感染する。
 沖縄県うるま市出身の宜野座由花里さんは29歳。沖縄県立中部病院で抗がん剤による治療を続けていたが、病気の認知度が低いことや治療方法が確立されていないことにショックを受け、「病気のことを多くの人に知ってもらいたい」と考えるようになっていた。
 全身の発疹や抗がん剤による吐き気に苦しみながら、宜野座さんは闘病生活を映像に記録するようになる。カメラをまわしたのは、看護する恋人や家族だった。
 日本人の死因の3割をしめる「がん」。抗がん剤や放射線などの治療が用いられるが、患者の多くが医療費や生活費などの経済的負担を抱える。治療方法が確立されていないケースでは、セカンドオピニオンや民間療法に頼ることもあり、本人や家族の負担は大きい。宜野座さんのケースでは骨髄移植が有効だとされたが、ドナーはなかなか見つからず入院生活は1年以上にも及んだ。さらにATLの場合、骨髄移植が成功し3年以上生存する確率は45%である。宜野座さんはよりよい医療を求めて東京に転院することを決めた。
 経済的負担がますます大きくなる中、最初に手を差し伸べたのは親せきや友人など身近な人々だった。そしてその輪は沖縄県内各地に広がっていく。

 成人T細胞白血病(ATL)は「HTLV−1」というウイルスを持っている人だけが発症する特殊ながんで、患者の平均年齢は60歳。ウイルスは40年以上潜伏すると言われているため、宜野座さんのように20代で発症するのは極めてまれな例である。
 ウイルスはどこから感染したのか? 防ぐ手立てはないのか? 調べていくうちに、母・光子さんが苦しい胸の内を明かす。
 「ごめんね…こどもたちにうつしてしまったかもしれない。」
 ウイルスの主な感染経路は母乳による母子感染である。それを知った日から、光子さんは自分を責め続けていた。愛する娘をがんにしてしまったと、必死に看護を続ける光子さん。
 そんな母親に宜野座さんは、闘病前と変わらない真っすぐな笑顔を見せた。
 「ママのせいじゃない。」
 宜野座さんが病気のことを伝えようと考えたのは、同じように苦しむ人を減らすためである。
 感染経路には血液や性接触などがあるが、ほとんどのケースが母乳による感染だ。
 「HTLV−1」の感染者は国内に120万人。しかし、すべての人が発病するわけではなく、成人T細胞白血病(ATL)を発症するのはそのうち3〜5%である。また、九州・沖縄に患者が多いことが知られている。
 鹿島県では平成9年から10年間行政が対策を行い、妊婦の抗体検査を無料化した。ウイルス感染者の妊婦には授乳を控えるようアドバイスし、母子感染を7分の1に減らしている。
 しかし沖縄県では医療関係者の間でも意見が分かれ、行政レベルでの対策にはつながらなかった。母乳が持つ免疫力や母子間のコミュニケーションを優先するべきか、それとも母乳を控えてウイルスの感染防止を優先するべきか。この議論は、現在まで続いている。

 東京の国立がんセンターに転院した宜野座さんは、骨髄移植にそなえて治療を続けるが、その傍らにはいつも恋人の徳嶺孝太さんの姿があった。徳嶺さんは宜野座さんの転院と同時に東京に移り住み、宜野座さんの母・光子さんと暮らし始める。
 「闘病生活」は本人だけが苦しいのではない。家族や恋人など身近にいる人の生活が大きく変わっていく。徳嶺さんは迷いながらも一緒に闘うことを決意し、仕事をしながら毎日病院に通っていた。
 「病気に打ち勝つことを信じている」という徳嶺さんの言葉に、宜野座さんは何度も励まされ、骨髄移植に望みを託すことになる。
 「当たり前のことだけど、人は一人では生きていけないんだと知りました。」
 大切な人がいるから、応援してくれる人たちがいるから頑張れるという彼女の言葉が、この番組のタイトルになっている。
 骨髄移植は、自分の細胞を減らした後にドナーの骨髄(細胞)を入れる大きな治療で、免疫拒絶反応や合併症の危険がともなう。
 それでも宜野座さんは、いつか沖縄へ帰る日を夢見て、家族や恋人と共に闘い続けていた。

制作担当者のコメント : 沖縄テレビ報道制作局報道部 川平菜菜子

 「少しの菌が命取りになる」という厳しい状況のもと、取材は緊張の連続でした。
 初めてのドキュメンタリー制作で文字通り「命」にかかわる取材。正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。
 それでも東京に通い続けたのは、由花里さんの笑顔を沖縄に届けるためです。素直な笑顔も強がっている笑顔も、どちらも伝えたいと思いました。
 彼女と私は同じ28歳。
 幸運にも健康な私が由花里さんのメッセージを届けることで、成人T細胞白血病(ATL)に苦しむ人を少しでも減らすことができればと考えています。
 HTLV−1ウイルスの感染者は国内に120万人。沖縄県では1〜2%ですから他人事ではありません。感染防止対策については様々な意見があり、検査を受けるかどうかはそれぞれの自由です。しかし、情報を知らなければ「選択」はできません。
 番組を通して多くの人がATLについて知り、自分や子供の事について「選択」するきっかけになればと願います。


[番組概要]

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『あなたがいるから 〜成人T細胞白血病との闘い〜』
(制作:沖縄テレビ)

◆放送日時

2009年8月14日(金)深夜3時30分〜4時25分放送

◆スタッフ

プロデューサー
我那覇 勉
ディレクター
川平 菜菜子
構成
川平 菜菜子
ナレーター
本橋亜希子
撮影
神山敬三
川平菜菜子
編集
真壁 進

2009年8月13日発行「パブペパNo.09-197」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。