2008.12.3

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『やっぱりここがええ…「限界集落」と呼ばれて』
(制作:テレビ愛媛)

愛媛県久万高原町中津。四国山地に囲まれたこの地区は、過疎化と高齢化が進む限界集落が集まる。集落の過疎化は福祉、教育、環境、伝統文化など、さまざまな分野に影響を及ぼしていて、人々はそこで生きるために、支えあいながら日々を送っている。さらに中津を離れた人たちも過疎化を食い止めようと、ふるさとへと足を運ぶ。止まらない過疎化に不安を抱えながらも、ふるさとで生き続ける人々の現実を見つめた。

<2008年12月6日深夜3時30分〜4時25分放送>


 四国山地に囲まれた愛媛県久万高原町。基幹産業の林業の衰退で過疎化と高齢化が進み、高齢化率は42.7%と県内で最も高い自治体である。久万高原町の中でも中心部から離れた高知県境に位置するのが、番組で取り上げた中津地区だ。中津の人口はおよそ270人。このうち65歳以上の高齢者は150人を越えるが、高校生以下の子供はわずか8人という典型的な高齢集落でもある。農林業と町役場以外に目立った働き場はなく、若者は中学、高校を卒業すると70キロ離れた松山市に出てしまう。集落の過疎化と高齢化は年々加速していて、農林業で暮らす高齢夫婦や、お年寄りの独り暮らし世帯ばかりが目立ち、ついには空き家になってしまう。
 これが日本の過疎集落の現実である。その象徴的な言葉として「限界集落」という言葉が聞かれるようになった。長野大学の大野晃教授が、人口の半数以上が65歳以上の高齢者で地域の共同生活の維持が困難な集落をこう名づけた。2006年度の国土交通省の調査では、全国の限界集落は7800余りにのぼり、中でも中山間地域の多い四国は、全国でも限界集落の割合が高くなっている。気がつけば日本全国どこの地方にでも、この「限界集落」が存在するようになり、今や日本の構造的な課題として浮かび上がっているのだ。

 四国山地に囲まれた中津地区も、7集落のうち5つが限界集落だ。数年後に消滅が心配されるような極端な過疎集落はないが、小さな集落がいくつか集まって支えあい、5年後、10年後の近い将来に不安を抱えながら生活している。こうした過疎化・高齢化が進む集落は、高齢者の福祉、交通手段の確保、教育環境の維持、放置森林の増加による環境への影響、伝統行事の運営など、直面する課題は挙げればきりがない。
 各集落が持ち回りで運行している秋祭りのみこしは、最低限必要な12人の担ぎ手の確保さえ難しくなり、地区の会合では、ついに来年のみこしの運行を打ち切るという声が上がった。なんとか今年のみこしの運行には見通しがついたが、過疎に歯止めがかからない中では、来年以降もこの問題に頭を悩ませることになる。また中学校の統合問題も表面化した。計画では統合先の中学が中津から25キロも離れたところにあるため、中津の生徒は親元を離れて寄宿舎での生活を余儀なくされる。地域から子供の声が消えることに住民たちは反対の声を上げるが、7年後に予定される中学校統合の影響を受ける子供は、中津の最年少の兄弟2人だけで、そのあとに続く子供はいないのが現実だ。地域が最もにぎやかになる秋祭りのみこしも、子供の声が地域に響く生活も、地域の活力を維持するためには欠かせないものだが、住民たちの思いだけではどうにもならない現実に直面している。

 しかしこの中津の過疎を食い止めようという動きもある。50年以上前に中津を離れた同級生のグループが「過疎化が進んだのは地域を離れた私たちにも責任がある」と、ふるさとに桜を植え始めたのだ。その活動を中津に住む人たちが引き継ぎ、今では「5万本の桜の里」にしようと、壮大な地域おこしが始まっている。中津で暮らす人とふるさとを離れた人が一体になって、こうした地域おこしに取り組むことが、ふるさとの過疎化に少しでも歯止めをかけられればとみんな願っている。
 「限界集落」を食い止める抜本的な解決策は見あたらない。しかし放っておけば、過疎化と高齢化は一層スピードをあげて地方の集落を追い詰める。番組では中津という限界集落に暮らす人々の生活の姿を通して、今の日本が抱える構造的な過疎問題の現実を捉えた。

制作担当者のコメント (ディレクター 片上裕治)

 「限界集落」という言葉を初めて聞いたとき、それは自分の生活とは程遠い、一部の極端な過疎集落の話だと思っていました。しかし気がつけば、その数は全国に7800余りにものぼり、今や日本が抱える構造的な問題になっていることに驚かされました。そして多くの人にこの現実を知ってもらう必要があると強く感じました。
 限界集落の現実を伝えるため、番組では消滅に向かうような極端な過疎集落ではなく、過疎・高齢化に直面しながらも地域の結束で将来を考えている地区に注目しました。地域を元気にしようとがんばる人、「限界集落」という言葉に不快感を示す人、そして地域の将来に不安を隠さない人…。急速に進む過疎化を肌で感じながらも、そこで暮らす人たちの表情が明るく感じられたのが印象的でした。
 近い将来、限界集落は地方だけの問題ではなくなるかもしれない。急速な過疎が進む日本の現実を、1人でも多くの人に考えてもらえることを願っています。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『やっぱりここがええ…「限界集落」と呼ばれて』

◆放送日時

2008年12月6日深夜3時30分〜4時25分放送

◆スタッフ

プロデューサー
村口敏也
ディレクター
片上裕治
構成
片上裕治
撮影
茅切伸也
ナレーション
西村裕美子

2008年12月3日発行「パブペパNo.08-348」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。