2008.11.13

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『医療危機〜ある公立病院の苦闘〜』
(制作:石川テレビ)

地域医療を守ろうと奮闘する医師たちと経営を立て直そうと努力する職員たちを見つめ、国の政策が本当に正しいのか問い直すドキュメンタリー

<2008年11月15日(土)深夜2時5分〜3時放送>


 2008年11月15日(土)深夜3時30分〜4時25分放送の『医療危機〜ある公立病院の苦闘〜』(制作:石川テレビ)は、能登半島のある公立病院を中心に、地域医療の崩壊につながる構造変化が及ぼす深刻な実態を描く。そして地域医療を守ろうと奮闘する医師たちと経営を立て直そうと努力する職員たちを見つめ、国の政策が本当に正しいのか問い直す。

(企画意図)

 OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進各国では、人口10万人当たり平均310人の医師がいるのに日本は200人にとどまっている。こうした中、2004年4月に「新臨床研修制度」がスタートし、一人前になるための研修先が自由に選べるようになった。しかし、従来のように大学病院を選ぶ研修医は、全体の80%から50%以下に落ち込んでしまった。若手の医師たちは、症例が多く、研修プログラムの整った都会にある大病院を選んでいるからだ。
 このため、大学の医局は医師不足に陥り、これまでのように公立病院などに医師を送り込めなくなった。医師を供給するシステムの構造変化が起きた結果、医師の絶対数が足りない上に医師が都市部に偏っているというのが、医師不足の根本にある。そして、そのしわ寄せは、地方の病院経営や地域の住民に打撃を与えている。
 国は2007年12月、公立病院改革ガイドラインを発表。経営指標に関する数値目標を設定し、民間並みの経営効率を目指すことや病床利用率が3年連続して70%を下回る病院の診療所化(病床数20床未満)など抜本的な改革を平成20年度中に出すよう、各自治体に求めた。
 番組では、能登半島のある公立病院を中心に、地域医療の崩壊につながる構造変化が及ぼす深刻な実態を描き出す。そして、がけっぷちの中で患者のため、地域医療を守ろうと奮闘する医師たちと経営を立て直そうと努力する職員たちを見つめ、国の政策が本当に正しいのか問い直す。

(番組内容)

 奥能登の地域医療を支え続けてきた自治体病院が存続の危機に陥っている。
 石川県穴水町にある公立穴水総合病院は、2005年に常勤の内科医がわずか一人になってしまった。大学病院の引き揚げなどによるものだ。10年ほど前まで優良経営を誇ったこの病院も、医師不足から患者の減少を招き、累積赤字は06年度末で7億5700万円にも及んだ。病院を管理する穴水町は、今後1年間の実績によっては、民営化することも視野に入れている。
 横井克己病院長(58)の専門は外科。しかし、医師が抜けた穴を補おうと、内科や循環器の外来、産婦人科の手術、当直まで引き受ける。そして、多いときで週に5回、訪問診療にも出かけている。人口1万人あまりの穴水町は、65歳以上の高齢者が全体の35%を越える地域。車を持たない患者にとって通院すら難儀で、地元の公立病院は頼みの綱になっている。地域医療が崩れると、患者は土地を離れるか、“医療難民”として置き去りにされてしまう。
 横井院長はこれまで不採算な産科、救急、へき地医療などを担ってきた自治体病院が民営化されれば、住民への医療サービスの低下は避けられないと危機感を募らせる。
 どのように病院の赤字を減らすか。横井院長から経営改善を任されたのは、道下正光医師(48)。過去に赤字の民間病院を建て直した実績を持つ。道下医師は徹底した材料費の見直しを指示、職員の意識改革も行った。その結果、前年度より約1億5000万の削減に成功。しかし、それでも07年度の赤字は約2億9000万円余りを計上した。
 医師が一人増えれば収益が約1億円上がるといわれている。医師確保は病院再生への至上命題だ。しかし、この病院に医師を派遣している金沢医科大学、そして金沢大学も医師不足に悩み、勤務医の長時間労働が続いている。公立病院の深刻な医師不足は、医師の派遣を大学に頼れなくなった構造変化によるもの。そして医療費の抑制を理由に医師を増やしてこなかった国の政策によるものだ。
 公立穴水総合病院から車で30分ほど離れた穴水町甲。この地区にある病院付属の兜診療所では、定年となった勤務医に地域医療の担い手になってもらう石川県独自の医師確保の取り組みが試されている。杉盛恵医師(66)はその第一号。専門科目以外も精力的にこなしている。しかし、この取り組みも杉盛医師に続く医師はまだ現れていない。
 地域には地域の暮らし方がある。地域には地域の医療がある。地域の医療を切り捨てていいのか。全国各地で医療の現場が崩壊の危機に立たされている。現場の努力は限界にきている…。

<ディレクター・塩野利明コメント>

 民間病院では難しい、不採算部門やへき地医療を担うため自治体病院は建てられました。しかし、国はそんな自治体病院にも経営の効率化を求め、目標に届かない病院は、診療所化や統合が検討されています。もちろん、自治体病院だからといって赤字の垂れ流しが許されるわけではありませんが、取材を進めれば進めるほど、現場だけでとても解決できる問題ではないとつくづく感じました。根本は国の医療費抑制政策と深刻な医師不足だからです。
 自分の生まれ育ったところでいつまでも生活したい、できるならそこで最期を迎えたいという思いは、都市部の住民も共通の願いだと思います。奥能登で起きている現実は、近い将来、都市部でも起こりうる問題です。
 今回の取材では穴水総合病院の皆様には多大なご迷惑と協力をいただき感謝の言葉しかありません。しかし、医師や職員の皆様の苦闘は続きます。今後も取材を進め、医療現場の実態を伝えていければと考えています。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『医療危機〜ある公立病院の苦闘〜』

◆放送日時

2008年11月15日(土)深夜3時30分〜4時25分

◆スタッフ

プロデューサー
井家 通(石川テレビ)
ディレクター
塩野利明(石川テレビ)
構成
関 盛秀
ナレーター
野島昭生(シグマセブン)
撮影
伊登寛芳
編集
斉藤淳一
音響効果
高田暢也
MIX
酒造博之(石川テレビ)
制作著作
石川テレビ

2008年11月13日発行「パブペパNo.08-322」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。