2008.11.6

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『山間地・上合瀬に生きる 〜蕎麦の芽一家の絆〜』
(制作:サガテレビ)

零細な山間地で「食える農業」を確立したいと、一生をささげた友田泰彦さん(80)。農協組合長時代、地元を全国有数のレタス産地に成長させた男だ。10年前、友田さんは独学で蕎麦の栽培と蕎麦屋を始めた。今は二人の孫も農業を引き継いでいる。農業で一家を食わせる自信がなく悩む友田さん。そこに襲ってきた愛妻の突然の死。沈みかけた気持ちを救ってくれたのは、家族のきずなだった。日本の農業を引き継ぐ大切さと、家族のきずなを追いました。

<2008年11月9日(日)深夜2時10分〜3時5分放送>


 農業収入のみで家族が安定して生活できる基盤は、今の日本にはなかなか確立できていない。特に零細山間地農業となればなおさらのこと。そんな逆境を力強く切り開いてきたある老人の生きざまと、それを支えてきた家族のきずなを通じて、日本農業を家族で守ることの大切さと難しさを感じていただきたい。
 標高400mを越す佐賀市富士町上合瀬。冬は雪深く、作物は栽培できない。農家平均耕地面積は60aと狭く、安定した生活ができる環境ではなかった。そんな零細農家集落・上合瀬を九州トップのレタス生産基地に大躍進させた農協組合長、友田泰彦さん(80)。人呼んで「疾風のヤッさん」の存在なくして、富士町農家の安定はなかった。地区の農民は農協を辞めた友田さんを、今でも尊敬の念を込めて「組合長」と呼ぶ。
 10年前、農協組合長を辞めた友田さんは、独学で蕎麦作りの道に進む。まさに70の手習い。友田さんが愛妻と二人で最も力を入れたのが「蕎麦の芽」の製品化。失敗を繰り返しながら、日本国中どこにもない新しい野菜「蕎麦の芽」を世に生み出しヒットさせた。しかも農薬は一切使わず、有機農法にこだわった農業だ。
 「友田蕎麦」のもうひとつのこだわりは、富士町北山地区に昔から伝わる地種を使って蕎麦を栽培するところにある。6年前には自分で打った蕎麦を食べさせる小さな蕎麦屋も完成した。飾らない老夫婦の生き方とこだわり。それは人々の共感を呼び、「北山蕎麦保存会」という会が結成され、その後ふたりを影から支えていくのである。取材は老夫婦の不思議な魅力に引きずられ、このころから始まった。
 友田さんには一人娘とその婿、そして三人の孫がいる。娘婿は地元郵便局に勤務するサラリーマンで、農業は継げなかった。「友田家の農業は自分の代で終わりか…」。友田さんはそう自分に言い聞かせてきた。一方、農業一筋に歩み続け、地元民から尊敬されるじいちゃんの後姿を、孫たちはずっと見つづけてきた。ある日、二番目の孫は「じいちゃんの後を継ぐ」と、農業を引き継ぐことを決心する。ヤッさんは嬉しかったが、孫の前では喜びを表に出さなかった。農業の厳しさを知り尽くしていたため、妻にだけその喜びを伝えていたのだ。しばらくして、上の孫も突然家に帰ってきて農業を手伝いだした。「どの孫も可愛い。一人ならなんとか食わせる自信があるが、二人となると…」。ヤッさんは悩む。帰ってきた孫も将来を考えるとき、本当にやっていけるのかとひそかに揺れる。
 そんなとき、上の孫が新妻を連れてきた。新しい家族が増え、華やぐ友田一家。そんな幸せは長くは続かなかった。じいちゃんの妻を突然がんが襲い、他界するのだ。その後数ヵ月「疾風のヤッさん」はふさぎ込んだ。悪いことは続くもので、年末には自身にも舌がんの疑いがのしかかる。つぶれそうになる「疾風のヤッさん」。そんなじいちゃんを、新しい家族になった孫嫁が優しく気遣う。雪静かに過ぎていく、山深い上合瀬の冬。苦境は少しずつ孫たちに農業で自活していく決意を植えつけていく。
 一冬の間、友田さんは孫たちの将来のために、「蕎麦の芽」を進化させた新商品の構想を静かに練っていた。そして春、自分の名前を入れた蕎麦の芽栽培キット、「ヤッさん畑」を発表。実用新案も取得し、商標登録も申請した。80歳になる老人の、どこにこんなパワーが隠れていたのか。「疾風のヤッさん」の面目躍如である。押し寄せる不幸も家族のきずなで切り抜け、難しい山間地農業経営を家族で切り開く友田一家のパワーの源は…。
 果たして新商品は孫たちの生活の一助になるのか? ヤッさんの訴え続けてきた「食える山間地農業づくり」の思いは、現在も進行中である。孫たちの将来の成否は、日本農業の未来でもある。

番組制作者のコメント
サガテレビディレクター 田中正照

 最初に「疾風のヤッさん」にお会いしたのは10年前。70歳にして蕎麦の芽を開発し、自前の蕎麦粉で蕎麦を打つ。腰の低い不思議な魅力を感じる老人です。農協組合長時代「農民の先頭に立って食える山間地農業づくり」に奔走した偉人と知ったのは、しばらくしてからでした。ふたりの孫はそんなヤッさんの後ろ姿を見ながら育ち、やがて農業を継ごうと決意。山間地農業で食べていけるのか? 家族はそれぞれの将来について揺れます。日本農業の現状を見せつけられ、取材しながらの心配事でした。そこに襲う愛妻の突然の死。くじけそうになるヤッさんを勇気付けたのは、新しく家族になった孫嫁の存在でした。半年後、気力と体力を回復させたヤッさんが、突然新商品を発表。80歳の老人のどこにこのパワーが潜んでいたのか。日本農業を引き継ぐ大切さ、山間地農家の家族のきずな、そして「疾風のヤッさん」のパワフルさを堪能してください。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『山間地・上合瀬に生きる 〜蕎麦の芽一家の絆〜』

◆放送日時

2008年11月9日(日)深夜2時10分〜3時5分放送

◆スタッフ

プロデューサー
池田昭則(サガテレビ)
ディレクター
田中正照(サガテレビ)
構成
松石 泉
ナレーター
蟹江敬三
音楽
久米詔子
撮影
花森 勇(STSプロジェクト)
編集
徳渕正樹(STSプロジェクト)
音響効果
萩尾仰紀(メディア21)

2008年11月6日発行「パブペパNo.08-315」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。