2008.10.31
<2008年11月1日(土)深夜2時35分〜3時30分放送>
「生きていても仕方がない…」
熊本県内のある地域の中・高校生を対象にしたアンケートで、そう考えたことがある生徒が多くいることが分かった。
人はなぜ生まれ、なぜ生きていくのだろうか…。
2005年4月、ひとりの車いすの少年が、県立高校に入学した。池上輝。肩から下が全く動かないという重度の障害を背負っている。
3歳で柔道を始め、将来を期待される程の強さを持っていた彼を突然の悲劇が襲ったのは中学2年の夏。部活の柔道の練習中に首を脱臼し、頸髄を損傷。一時は生死をさまよい、寝たきりの人生を宣告された。
必死のリハビリの末、奇跡的に車いすでの生活まで回復したものの、肩から下が全く動かないまま。身の回りの生活すべてを両親や家族に頼らざるを得ない。それでもここまで回復した彼は障害を理由に可能性の芽を摘みたくないと周りがすすめる養護学校ではなくあえて普通高校への進学を選択。母親と一緒に登校し、一緒に授業を受けるという母親と息子の二人三脚での高校生活をスタートさせた。
しかし重い障害を抱えながらの普通高校での生活は想像以上に厳しかった。同級生からの心ない言葉、孤独感。彼自身もどうしても「障害」という運命を受け入れることができない。
そんな彼の心を解きほぐしてくれたのは親友と呼べる友だちとの出会いだった。学校でつきっきりだった母親も徐々に離れ、クラスメートが彼を介助。生徒会活動への参加や修学旅行、友だちとの関わりが失いかけていた自信や笑顔を取り戻すきっかけとなっていった。
高校生活も終わりを告げようとする中、再び大きな壁が彼の前に立ちはだかる。将来の進路。彼にとって進路を決めるということは「障害」という現実と向き合わなければならないことでもあった。不安に押しつぶされそうになり、もがき苦しむ。幾度となく母親ともぶつかる。
彼は初めて「生きること」に真正面から向き合った。
番組では日々ニュースで絶えず伝えられる「命の使い捨て」、そんな中「生きること」に真正面から向きあいもがき苦しむ内面的な心の叫びと乗り越えようと葛藤する姿をありのままに描きながら私たちが何げなく当たり前と考える「命」「生きる」とは何かを見つめる。
2005年4月、熊本県立高校の入学式でひとりの車いすの少年を取材したのをきっかけに3年間の取材がスタートした。
当時は大けがを負ってまだ2年弱。にも関わらず養護学校ではなく普通高校を自ら希望して入学してきたのだからどうやって障害を乗り越えてきたのか、また、どうやって手足が全く動かないという重い障害を持ちながら高校生活を過ごすのだろうとかと興味を持ち取材を始めた。
しかし、実際の高校生活はそう簡単なものではなかった。それは取材者として描いていた“障害を持つ少年の美談”的なストーリーとも違っていた。
自らの障害に対して恥ずかしいという思い、どうしても受け入れられない自分との葛藤。同級生からの心ない言葉と孤独感。将来への不安…。彼は「生きること」に懸命に向き合っていた。
取材を重ねるうちに、彼の内面的な心の叫びをとらえたいと思うようになってきた。
折しも、年々増加する少年犯罪や安易な自殺、また、熊本県では全国で初めて「赤ちゃんポスト」が設置されるなど、日々絶えず伝えられる“命の使い捨て”。今、私たちは「命」「生きること」を当たり前と安易に考えすぎているのではないか。
彼の高校生活3年間を追いながら見えてきた、自らのハンディに向き合い、乗り越えようと葛藤する心の変化、成長を何げない日常を描くことで、「命」とは、「生きる」とは何かを見つめたかった。
第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『Life〜いきるということ〜』
2008年11月1日(土)深夜2時35分〜3時30分放送
2008年10月31日発行「パブペパNo.08-312」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。