FNSドキュメンタリー大賞
全国で相次ぐ夫婦間の殺人事件。このうち夫の暴力、DVをめぐる殺人は年間200件以上に上る。増え続けるDV―今、家族に何が起きているのか、DVの実態に迫る渾身のドキュメンタリー。

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『壊れた家族―DV被害女性たちの告白』

(制作:鹿児島テレビ放送)

<2007年11月24日(土)深夜2時55分〜3時50分放送>

 3年前、鹿児島で一人の女性が殺された。高木真紀子さん(31歳)。彼女は生前、多くの人に訴えていた。「私はきっと殺される」。その予告どおりに彼女はやがて夫から命を奪われた。全国で相次ぐ夫婦間の殺人事件。その数は全国で毎年、200件以上に上っている。最愛のはずの家族がなぜ互いの命を奪い合うのか。
 事件の背景にあるもの、それは夫からの暴力、「DV」だった。
 殴る夫、逃げる妻。家族に今、何が起きているのか。壊れ始めた家族の姿を追う取材が始まった。

 鹿児島県にある母子寮には夫の暴力、DVから命からがら逃げてきた20世帯の親子が暮らしている。夫に居場所がばれたら殺される。そんな恐怖を背負った親子は皆、自らの過去に堅く口をつぐむ。名前も場所も明かさない約束でその母子寮に特別にカメラを入れることを許された。寮に通い始めて数ヵ月後、一人の寮生が涙ながらに過去を少しずつ語り始めた。「嫉妬深い夫から軟禁状態を強いられ、殴られる日々でした。毎日どうやって夫を殺そうか考えていました。殺すか、殺されるかでした。」
 一緒に逃げてきた4人の子どもたちも虐待を受けていた。まだあどけなさが残る小学生の娘の日記にはこう記されている。「『お前、早く死ね。別に親がけがさせても虐待にならないから』と言っていました。わたしはとても泣きたかったです」
 DVや虐待に傷ついた家族は、世間では「夫婦げんかの延長」や「内輪もめ」と容易に片付けられがちだ。しかしその実態は、家庭という閉ざされた空間で被害者は長年抑圧され続け、逃げる気力を全て抜き取られ、次第に体も心も蝕まれていく。そうしたDVの実態に対して社会の無理解もまた、被害者たちを余計に孤立させ、地獄のような家庭に縛りつける要因となっている。

 母子寮に勤める一人の女性職員、山下真理子さん(仮名)は強い決意を持って話してくれた。「本当のDVを知ってほしい―」。彼女自身もかつて夫からサンドバッグのように殴られ、赤黒く腫れ上がった顔で寮に入ったDV被害者だ。殴られることに理由はなかった、と彼女は振り返る。結婚当初やさしかった夫はいつしか「ダメ女、馬鹿女」と妻を罵るようになり、暴言はいつしか激しい暴力へとエスカレートしていった。殴られ続け、朦朧とした頭の中で山下さんはぼんやりと思った。「私、逃げなきゃ」
 4年前、ボロボロの姿で母子寮にたどり着いた山下さんは、同じ境遇に苦しむ親子と寮生活を共にしながら徐々に自分を取り戻し、やがて寮の職員になった。あの日の自分のように苦しみの中にいる親子を助けたい。そんな彼女が3年前に出会ったのが、「私はきっと殺される」と恐怖に脅える高木さんだった。暴力を振るう夫の影に脅え、連日連夜続く脅迫電話に悩まされ、しかし高木さんの必死のSOSに警察や行政はこう答えた。「証拠がない」「あなたみたいな人はごまんといる」。SOSは結局、どこへも届かなかった。社会の無理解が高木さんを死へと追いやった、と山下さんは今でも悔やむ。その無念の思いを胸に山下さんはこの春、DV被害者であることを明かし、人前に立つことを決めた。「本当のDVの姿を分かって下さい―」

 顔を隠して、名前を隠して過去を語ってくれたDV被害女性たちの告白は、同じ境遇にいる女性たちを救いたい、決死の覚悟そのものである。彼女たちの小さな叫びは今、「壊れ始めた家族」の現実を突きつけている。

【制作担当(下前原章子ディレクター)のコメント】

 私とDV問題との出会い。それは、夫から殴られて青あざができた親友の顔にショックを受けた日からです。言いようのない怒りと悲しみが今回の取材の原点となりました。母子寮で出会った女性たちの告白は、受け止めることさえできないほどの重い現実でした。嫉妬深い夫から軟禁生活を強いられた女性。ダメ女と罵られ、サンドバッグのように殴られ続けた女性。ある2歳の子は男性を見ただけで目に涙を浮かべました。
 「DVは殴られる方にも責任がある」「嫌なら逃げればいい」。DVに対してよくそんな言葉を耳にします。しかし私たちはDVの現実に蓋をしてはいないでしょうか。殺された高木さんが残した日記。そこにはDVの底知れぬ恐怖と闘い、「助けて」と必死に叫びながら亡くなっていった無念の思いが滲んでいます。この番組を通してDVの現実に一人でも目を向けてほしい、そして家族とは何かを考えるきっかけになればと願っています。

<スタッフ>

 プロデューサー 山口修平
 ディレクター・
 構成・編集
下前原章子
 ナレーター 斉藤由貴
 撮影 平石健輔
 音声 有馬聖人
 MA 万善弘美
 美術 宝満龍輝

2007年11月26日発行「パブペパNo.07-356」 フジテレビ広報部