FNSドキュメンタリー大賞
野球弱小の地、新潟に誕生したプロ野球チーム「新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」を通じて、企業から地域へと担い手が移りかわるプロスポーツの将来像に迫るドキュメンタリー。

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『プロ野球 はじめました』

(制作:新潟総合テレビ)

<2007年9月26日(水) 深夜2時25分〜3時20分放送>

<野球弱小県、そしてプロスポーツ先進県・新潟>

 2006年5月、新潟市で北信越地域(新潟・富山・石川・長野)の4県による野球独立リーグ・北信越ベースボール・チャレンジリーグの構想が発表された。
 すでに先行のリーグとして四国アイランドリーグが存在するが、日本海側に位置し冬場は荒天が続く北信越は、いずれも野球強豪県とは言い難い。特に新潟は甲子園での勝率が47都道府県で最も低く、全国で二つしかない県立の野球場がない県の一つだ。
 一方で新潟はプロスポーツの分野で全国でも類を見ない成功を収めている。サッカーの「アルビレックス新潟」は、年間65万人を超すJリーグ有数の観客動員を誇り、地方都市でもプロスポーツクラブ経営が可能なことを立証した。
 新潟に誕生したプロ野球チームの名前は「新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」。
 サッカー・クラブと同じ名を冠した野球チームで、右も左もわからないスポーツ・ビジネスの世界に飛び込んだ球団スタッフが、地域の人々の野球への情熱に支えられ、挫折を味わいながらも開幕を迎えるまでに密着し、NPB(日本プロ野球機構)、実業団、大学に次ぐ、新たな選手たちのプレーの場として独立リーグが持つ可能性、そして地域が担い手となる新たなプロスポーツチームのあり方について取材した。

<地域密着の原動力=後援会>

 サッカーの「アルビレックス新潟」が設立から10年あまりでJリーグトップレベルの観客動員を実現した要因の一つが、県内各地域に設立された地区後援会だった。地域の商工会、町内会、スポーツ少年団などで構成された地区後援会は、県内各地からの観客動員を押し上げるだけにとどまらず、その会費による収入はチームに年間1億円近い財政支援をもたらしている。設立間もない『新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ』も、県内各地で試合の開催をサポートする後援会組織の立ち上げをサッカー同様に目指していた。
 後援会事務局長の肩書きを持つ長谷川正(31)。広い新潟県をほぼ一人で担当している。彼は8年間勤めたスポーツ用品店から、新球団のフロントスタッフに転職した。設立したばかりの球団。給料も減った。二人目の子供を身ごもっている妻は当然反対した。
 自らハンドルを握り県内を駆け回る彼の目標は、チームを物心両面で支える後援会を築くこと。そして「これはパパがつくったんだ」と、妻と5歳になる息子、まだ見ぬ長女に4月の開幕戦を見せることだった。

 長谷川が後援会設立に取り掛かったのは新潟県の西端、人口約5万人の小都市・糸魚川。県内でも野球熱が高い街として知られている。
 後援会長はすぐに決まったものの、協力をあおいだ地元の経営者たちからは長谷川のプランに対して厳しい意見が噴出した。「全県一律で毎年1万円の会費は高すぎる」、「地域の現状を見ていない」、「独自の活動費を認めてほしい」…
 人口減少、高齢化、地方経済が厳しい状況におかれる中で商売を続ける経営者たちの願いは野球を通じた町おこしだった。

<月給15万円のプロ野球選手たち>

 一方、「新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ」は、18歳から33歳までの25人の選手がプレーする。彼らは月給15万円から20万円の個人事業主として、球団と契約するプロ野球選手。彼らのほとんどは高校や大学を卒業した後、野球を続ける場がなかった選手たちだ。選手兼任コーチの根鈴雄次(33)は大学を卒業してから8年間世界5ヵ国のリーグをバット一本で渡り歩いてきた。彼は「プロの門は狭く、社会人野球も縮小に向かう中、本気で野球をやりたい選手たちがプレーする場がどんどん失われている」と語る。
 独立リーグは、本気で上を目指す選手たちの最後の挑戦の場でもある。

<地域が担うプロスポーツの将来像>

 いま、この国のスポーツの担い手は企業から地域へと変わろうとしている。サッカー、バスケットボールでプロチームを成功させた新潟はその先進地。アルビレックスはその象徴だ。しかし、当然その成功も最初から約束されたものではなかった。
 一番の原動力は、新潟の人々の郷土を愛する気持ち、スポーツを通じてまちを盛り上げたいという熱だった。

<ディレクター 大矢光徳のコメント>

 新潟の野球は弱い。なにしろ長い歴史を持つ選抜高校野球で初勝利をあげたのが2006年のこと。設備の整った球場もろくにないし、プロ野球の地方遠征が新潟を素通りするようになって久しい。そんな現状を私も含めた県民は「雪国のハンデ」などと言って、半ばあきらめていた。しかし甲子園で北海道や東北の高校が勝ち進むようになり、そんな言い訳も通じなくなってきたなと誰もが感じていた。
 ところが新潟には全国有数の規模の草野球大会があり、「ドカベン」や「あぶさん」など野球マンガの第一人者・水島新司さん出身地であるなど、草の根レベルでの野球熱は非常に高い。実際に取材の過程で情熱にあふれる多くの野球人に出会うことができた。この新球団に集った選手、スタッフもどうしようもない野球バカばかりだった。真剣に野球がしたくて、野球で新潟を盛り上げたいと考えている人たちばかりだった。
 彼らの発する熱こそが、曲がり角を迎えている日本の野球界、スポーツ界の未来を開くヒントに違いない。
 取材を通して多くの人が口にしていた言葉がある。
「好きなことで飯が食えるのは幸せなことだ」。
本当にそう思う。


<番組概要>

 ◆番組タイトル 第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『プロ野球 はじめました』
 ◆放送日時 2007年9月26日(水) 深夜2時25分〜3時20分 放送
 ◆スタッフ
  プロデューサー 青山道夫
  ディレクター 大矢光徳
  ナレーター 徳山靖彦(青二プロダクション)
  構成 高橋 修
  撮影 尾田 博
山田龍太郎
中島茂雄
韮澤由紀夫
  CG 小西香澄
平岩佳恵
  編集 渡辺 誠
佐藤誠二
  音響効果 相田恵美子(サウンドリング)
  MA 大竹雄一(スタジオヴェルト)

2007年9月14日発行「パブペパNo.07-276」 フジテレビ広報部