FNSドキュメンタリー大賞
知的障害者の表現力に魅せられ、「ボーダーレスアート(障害者と健常者の境界線がない芸術)」の実現を目指した一人の女性のドキュメンタリー

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『原初の衝動 〜ボーダーレスアートを目指して〜』

(制作:岩手めんこいテレビ)

<2007年8月3日(金)深夜3時20分〜4時15分放送>

 岩手県盛岡市玉山区に住む橋場あやさん(74)は岩手大学で美術を学ぶ。卒業後県内の中学校や高校で34年間美術教師をしながら制作活動を続ける。その作品は岩手芸術祭で数々の賞を受賞した。昭和40年に中学校の特殊学級を受け持ったことをきっかけに障害児教育にたずさわる。そして、知的障害者を対象にした岩手県内で最大規模の公募展、「いわて・きららアート協会」の会長を務めるなど、障害のある人たちと芸術活動に深く関わってきた。

 橋場さんの活動の場は広い。福祉作業所で障害者の描いた絵を使って商品を作るボランティア活動。知的障害者の作品を集めたシバ少年美術館の開設。盛岡市や花巻市の施設で障害者とのコラボレーション(共同制作)。そして、個展のための制作活動をするなど休む間もない生活を送っている。

 「なぜ、障害者に魅かれたのか?」という問いに橋場さんは「障害者とのバイオリズムが一致する」と答えた。さらに、「物を作る造形は最も原始的な仕事。知的障害者は“アートの源泉”を求めていく上で非常に豊かな力をもっていることにかなり前から気がついていた。自分はいままでかなり美術の勉強をしてきたが、その“アートの源泉”を追求する点においては自分の方が劣っている」という。橋場さんは今、障害者と一緒に絵を描くコラボレーション(共同制作)に取り組んでいる。そこには障害者を指導するのではなく、障害者から「教えてもらう」という姿勢があった。

 知的障害者を対象にした岩手県で最大の公募展「いわて・きららアートコレクション」が今年で10年を迎えた。およそ290点の作品。審査委員長は、はたよしこさん。絵本作家でもあり、自らも障害者と深く関わってきた人物である。審査をするはたさんを追いかけながら「何を基準に選んでいるのか」という疑問をぶつけてみた。「教育的配慮の香りがしないもの。本人の生の思いや感覚が感じられるもの」だという。つまり、周りの人から「こうすればいいよ」と指導を受けて描いたものは選ばれない。確かに大賞を受賞した作品「ボクのリズム」の作者の発想には度肝を抜かれる。

 どうして絵画の公募展や展示会は一般の人と障害者を区別するのか? この質問に橋場さんは、「それが間違いなんです」と答える。橋場さん自身、芸術に障害のある、ないは関係ないという考え方をもっている。障害者だけを対象にした公募展。大賞、奨励賞といった順番をつける意味はどこにあるのか。長い疑問に対する答えを出すため橋場さんは長年、会長を務めていた協会を去った。

 自分が目指しているのは「ボーダーレスアート(境界線のない芸術)」。障害者も健常者も分けへだてなく、絵を学び、展示ができるようなギャラリーをもつこと。その第一歩として盛岡市鉈屋町にギャラリー惣門がオープンした。そこには先生や生徒はいない。絵を描くという共通の目的をもった人たちが集まってくるだけである。健常者が障害者の面倒をみているといった様子もない。「こんな描き方があるのか」と、障害者の絵に刺激される人もいる。自分の好きな絵を描く。展示をする。ほしい人がいれば売る。ただそれだけのことがなぜ今までできなかったのか。

 障害者の芸術活動は「福祉」という視点で見られることがほとんどだ。絵を観る前にどんな人が描いたのかという先入観はある。有名な人、どこそこで賞を受賞した人などと聞くと、絵の良さは分からなくても「素晴らしい絵」ということを前提にして観てしまうものである。

 「障害者は自分と対等なひとりの制作者だ」という橋場さんの思いを伝えたい。


<番組概要>

 ◆番組タイトル 第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原初の衝動 〜ボーダーレスアートを目指して〜』
 ◆放送日時 2007年8月3日(金)深夜3時20分〜4時15分 放送
 ◆スタッフ
  プロデューサー 一戸俊行
  ディレクター 佐々木茂博
  ナレーション 千葉絢子(岩手めんこいテレビアナウンサー)
  撮影 佐々木茂博
遠藤隆憲
  音声 武蔵彰寿
  EED 佐々木 浩
  MA 山内智臣

2007年7月30日発行「パブペパNo.07-219」 フジテレビ広報部