FNSドキュメンタリー大賞
長野県岡谷市出身の報道カメラマン・中村梧郎さん(66)は、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤被害の実態を30年にわたって追い続けている。番組では枯れ葉剤被害の実態を取材。また、今年2月からニューヨークで開かれている中村さんの写真展にも同行取材し、中村さんの活動と、今も残る戦争の傷跡をさぐる。

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『枯れ葉剤被害は終わらない〜報道写真家・中村梧郎の30年〜』

(制作:長野放送)

<2007年6月9日(土)深夜3時55分〜4時50分>

 長野県岡谷市出身の報道カメラマン・中村梧郎さん(66)は、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤被害の実態を30年にわたって追い続けている。
 ベトナム戦争で、米国は10年間にわたって枯れ葉作戦を展開。大量の枯れ葉剤をベトナム全土に散布し、広大なジャングルや田畑を枯らした。被害は環境破壊だけにとどまらなかった。枯れ葉剤に含まれていたダイオキシンの影響とみられる病気や障害で、ベトナム人だけでなく、当時参戦した米、韓の兵士たちも多数、被害を受けた。ベトナムでは今なお結合双生児など先天性の障害を持った子どもが生まれている。
 第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『枯れ葉剤被害は終わらない〜報道写真家・中村梧郎の30年〜』(制作:長野放送)では、枯れ葉剤被害の実態を取材。また、今年2月からニューヨークで開かれている中村さんの写真展にも同行取材し、中村さんの活動と、今も残る戦争の傷跡をさぐる。


<内容>
 ベトナム戦争(1960−1975)で米軍は大量の枯れ葉剤をベトナム全土にまいた。「枯れ葉作戦」は広大なジャングルや田畑を破壊しただけではなかった。枯れ葉剤に含まれていた猛毒の化学物質、ダイオキシンの影響とみられる人体被害が広範囲に発生した。ベトナムの兵士、民衆はもとより、米韓の兵士たちも皮膚炎やガンなど、さまざまな病気を発症した。さらにダイオキシン汚染は親から子、子から孫へと継承される可能性がある。ベトナムでは今も結合双生児など先天的な障害を背負った子どもたちが数多く生まれている。戦争が残した傷跡は今なお多くの人々を苦しめている。

 長野県岡谷市出身の報道カメラマン・中村梧郎さん(66)は、枯れ葉剤の被害を30年間にわたって見つめつづけている。
 中村さんは20代でカメラマンとなり、ベトナムやカンボジアなどの戦場を駆け巡った。中村さんが枯れ葉剤の被害を初めて目にしたのは1976年、ベトナム戦争終結からちょうど1年後のことだった。戦争の結果、自然環境が薬物で枯らされ、動植物が死に絶えた光景に衝撃を受け、「人間に影響が出ないはずはない。これはほっとけない、きちんと追及しなければいけない問題だ」と直感した。
 以来30年間、中村さんは被害者たちを訪ねて、ベトナムをはじめアメリカ、韓国などを取材し、その実態をカメラに記録している。
 去年の11月、ベトナムの最南端、カマウで新たな結合双生児が誕生したという情報を得て、中村さんは現地に向かった。結合双生児では、ベトちゃん・ドクちゃんのケースが日本でもよく知られているが、ベトナムでこれまでに行われた分離手術は30件にのぼるという。新たに生まれた結合双生児の分離手術は1年後に予定されている。
 戦後30年余りも経っているのに、なぜ障害を背負った子どもたちが生まれるのか。散布地域に住んでいる人たちには魚介類など食べ物を通じてダイオキシン汚染が広がり、今も生殖障害という形で現れていると中村さんはみる。
「枯れ葉剤の問題を取材してきて、こんな結果を引き起こしているんだと一番強く知らせたいのはアメリカの人たちに対してだった」――アメリカで写真展を開きたいという中村さんの長年の願いが今年2月、ようやくかなった。写真展はニューヨーク市立大学のひとつ、ジョン・ジェイ大学が主催する形で実現した。枯れ葉剤を散布した、いわば加害国であるアメリカで、写真がどう受け止められるか、懸念もあったが、9.11同時テロ以降、戦争の惨禍を見つめようとの空気が米国内に強まり、大学の全面的支援もあって開催にこぎつけた。会場は大学の学長室前ギャラリー。畳一枚ほどもある大きな作品を含めて計26点を展示した。
 ベトナムの人たちが枯れ葉剤によってどんな被害を受けてきたのか、米国内のメディアはこれまでほとんど報道してこなかった。中村さんの写真でその実態を初めて知った学生たちは「こんな悲劇があったとは…」と言葉を詰まらせた。写真展は6月まで4ヵ月間にわたるロングラン。その後、アメリカ各地を巡回し、多くの人たちに被害の実態をみてもらう。
 ベトナム戦争後も、アフガニスタンやイラクなど世界各地で戦火が絶えない。ニューヨークを訪れた中村さんは「テロも、戦争で無差別に民衆を殺すのもいけない」と語り、6年前、3000人近くが犠牲となったグラウンド・ゼロにカメラを向けた。


<制作担当者のコメント>

 ひとつのテーマを長期にわたって執拗に追及し続ける中で、くっきりと見えてくるものがあります。それを明らかにするのはジャーナリズムの主要な役割のひとつです。それを果たすために、中村梧郎さんは写真という手段を使って、枯れ葉剤問題の実態を世に提示し続けてきました。この30年、フリーのカメラマンである中村さんの活動は、カメラが切り取った事実だけが頼りの“孤独な戦い”であったに違いありません。
 中村さんは、枯れ葉剤で障害を持った人たちにカメラを向けるとき、「もしも自分が、この人の家族だったらどう撮られたいか」と思いながら写すといいます。障害部分をクローズアップで強調したり、感情的にとらえたりはしません。冷静で温かみのある視線に加えて、綿密な調査による科学的な裏づけが備わっているからこそ、中村さんの写真は説得力があり、見る者の心に強く響いてくるのだと思います。この番組づくりを通して、ジャーナリストが持つべき大切なものを教えられました。
(ディレクター・プロデューサー 宮尾哲雄)

<制作スタッフ>

ナレーター 上小牧忠道(NBSアナウンサー)
撮影 山岸賢一
桜井幸紀
前田浩伸
音響効果 福島雄一郎
編集 梨子田 眞
タイトル 竹中元章
取材 内山純一
構成 宮尾哲雄
ディレクター・プロデューサー 宮尾哲雄
制作著作 長野放送

2007年6月6日発行「パブペパNo.07-160」 フジテレビ広報部