FNSドキュメンタリー大賞
移動動物園を続けながら、動物園の開園を夢見る園長の奮闘と「生きながらえる」動物たちをとおして、
命の尊さを見つめ直すドキュメンタリー!

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『ボクらはみんな生きている〜動物たちの歌が聞こえる〜』

(制作:関西テレビ)

<2007年5月21日(月)深夜3時〜3時55分>

 かつて終戦後の疲弊漂う時代から、子供たちに夢と希望を与えた動物園。その動物園は時代の移り変わりとともに影を潜め、企業が残した赤字とともに主役だった動物たちは真っ先に見捨て去られてきた。その中には処分されたものも少なくない。近年、動物園にとって代わるように盛り上がるペットブーム。その裏側でも、売り物にならないもの、障害を持ち、心ない飼い主に見捨てられたものなど、年間40万匹の犬や猫がガス室に送られている。そんな死と隣り合わせだった動物たちを引き取り続ける人がいた。決していいとはいえない飼育環境。増え続ける動物。
 5月21日(月)放送の第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ボクらはみんな生きている〜動物たちの歌が聞こえる〜』(制作:関西テレビ)では、移動動物園を続けながら、動物園の開園を夢見る園長の奮闘と「生きながらえる」動物たちを通して、命の尊さを見つめ直す。

<番組内容>

−琵琶湖にラクダ−

 湖畔から吹き付ける風にすっかりと山吹色に染められた琵琶湖のほとり。そのほとりに点在する住宅地の一角に四六時中、動物の鳴き声がする倉庫がある。サル、ピューマ、アライグマ、ワニ。かつて動物園で脚光を浴びた主役たちから障害をもったペットまで500を越える個体がひしめき合って暮らしている。「堀井移動動物園」。移動動物園で活躍する動物たちの住居である倉庫は、決して動物たちにとってオアシスとは呼べるものではない。馬と羊が身を寄せ合って暮らし、希少種のサル類や猛禽類が狭すぎる檻に閉じ込められるように暮らしている。

−トラ、ラクダ、柴犬−

 堀井動物園には動物園の開園を目指し、移動動物園で連れて行くことのできない大型の動物も田んぼの一角を借りて飼育している。人工保育で群れになじめなくなった牛の仲間、芸を覚えなかったチンパンジー。ほかにもシマウマ、ラクダ。動物園で見たことのある名だたる動物がひしめく中に1匹の柴犬がいる。この犬は人が近づくと牙をむき、堀井さんさえ近づけようとしない。この柴犬はガス室に送られる寸前だった。飼い主がペットとして念願の柴犬を手に入れたのも束の間、その子供たちが親の目の届かないところでバットや棒でおもちゃのようにいじめ続けていたのだ。人を寄せ付けなくなったペットの運命。保健所のガス室に連れられて行く寸前に堀井さんに引き取られることになった。動物を引き取るたびに動物が感じさせてくれることがあると堀井さんはいう。
 「いままで幸せだったかどうか、動物の表情やしぐさからわかる」
 堀井さんに命を救われた形になった柴犬は心を開くことなく、家族にさえ牙をむく。いつの日か心を開くときが来るのだろうか?

−園長の夢−

 園長の堀井嘉智さん。幼いころの堀井さんは動物好きから捨てられた犬や猫を拾い集め、やがて、けがや障害を抱えて薬殺寸前になった大型の動物を引き取るようになる。理由は「生きているから」。障害動物の集まる動物園がないことに疑問を持った少年はやがて大人になった今もすべての動物がのびのび暮らせる動物園の開園を夢みて、移動動物園を続けている。子供たちの喜ぶ顔に後押しされ、保育園や孤児院に動物園の出前にいそしみ、帰宅しては糞掃除とえさやりにあけくれた日々。そして23年間、ひとりで追い求めてきた夢がいよいよ実現しようとしている。借金は無理をしたものの、琵琶湖のほとりの造成地は次第に夢を形に変えていった。しかし、夢は目前で音を立てて崩れることになる。土地の用途の問題、住民からの反対などが原因だった。「近所からの文句がないのに、なぜ広いところに移すことに文句が出るのか」。人生最大の絶望だった。
 動物園の夢が現実味を帯びたのは今回が初めてではなかった。十数年前のバブル期に購入した山間の静かな700坪の土地。ここにはこれまで堀井さんが歩んできた歴史が詰まっていた。「28年間も水に入ることなく、よその移動動物園で連れまわされていたカバがうちに来た時どうしてもプールに入れてやりたくてね」。小さいながらもカバのプール、猛獣用の檻、さびついた装飾品などが残っている。今や資材置き場となったこの土地は、堀井さんにとっては捨てきれない思いと宝物のつまった大切な場所なのだ。
 「全部夢見て集めたもんですわ」
 県から動物園の許可が下りたのも束の間、これまた住民の反対によって断念せざるを得なかった。

−夢と現実−

 「動物が好き」「広いところへ移してやりたい」
 その思いとはうらはらに、飼育環境は改善されないまま集まった動物たちに苦労を強いる状態が続く。狭い檻の中では、動物たちにけがや事故が起こりやすく、獣医の往復と看病に時間が割かれる。また、高価な温度管理の設備もない環境では、寒暑で動物の命が奪われていくのも事実だ。愛護団体から批判も受けた。さらに、鳥インフルエンザなど動物を介した感染病のニュースが世間を騒がせ、移動動物園の営業にまで追い討ちをかける。残ったのは借金と家族、数え切れない動物たち。夜中に布団の中で泣き、すべての動物を殺してやめようとも思った。堀井さんにできるはずはなく、動物園の敷地を求めてさまようがごとく、幼稚園児に夢を運ぶ動物バスは今日もどこかを走り続ける。

−夢の続き−

 この冬、堀井さんは資材置き場から資材を集め、田んぼの一角にある大型動物の飼育場で工事を始めた。
 「夢や夢やと失敗ばかりしていても仕方がない。動物をいい環境にしてやるのは今しかない。小さくても少しは広い動物園を作るのは今しかない」と。


2007年5月16日発行「パブペパNo.07-134」 フジテレビ広報部