FNSドキュメンタリー大賞
佐伯康人さん、恵さん夫妻が地域のボランティアに支えられながら、
重い障害を持った三つ子を懸命に育てる姿を追ったドキュメンタリー

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『素晴・宇宙・主人公 佐伯さんちの三つ子ちゃん』

(制作:テレビ愛媛)

<2006年12月14日(木)深夜3時10分〜4時5分>

 2000年6月、松山市の佐伯康人さん、恵さん夫婦の間に三つ子が誕生した。不妊治療の末にやっと授かった赤ちゃんだったが、出産時に酸欠状態に陥ったことから3人とも脳性まひを起こした。生まれながらに重い障害を持った子どもたちに両親が付けた名前は素晴(すばる)、宇宙(こすも)、主人公(ひーろー)。それぞれの未来への熱い祈りが込められていた。日々欠かせないリハビリを支援するため地域のボランティアが支える会を結成。少子高齢化が進むまちの人たちにとって、三つ子は孫のような存在になった。地域で育てていきたいと願う両親は3人を療育施設ではなく、近くの公立幼稚園に進ませた。
 12月14日(木)放送の第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『素晴・宇宙・主人公 佐伯さんちの三つ子ちゃん』<深夜3時10分〜4時5分>(制作:テレビ愛媛)では、新しい未来を見つめる佐伯家のひたむきな挑戦を描く。

(内容)

 素晴(すばる)、宇宙(こすも)、主人公(ひーろー)。印象的な名前には、両親の熱い思いが込められている。不妊治療を経てようやく生まれた子どもが3人とも脳性まひになるという悲しい現実を乗り越え、家族はしっかりと前を向いた。
 3人とも歩けず、特に障害の重い宇宙君ははうことしかできない状態。日々欠かせないリハビリは家族だけでは難しく、両親の呼びかけに応じた地域の人たちが「三つ子ちゃんを支える会」を結成した。
 核家族化や少子高齢化が進むまちの人たちにとって、三つ子ちゃんはいつしか孫のような存在になり、リハビリのサポート活動を通して地域の結び付きも強くなった。3人への支援は「してあげている」というものではなく、大切な「日課」となったのだ。
 健常の子どもと同じ環境で育てていきたいと願う両親は、3人そろって地元の公立幼稚園に進ませる。教育委員会は宇宙君だけは専門の療育施設に入れるべきだと指摘するが、「より自然な刺激」を求める両親は幼稚園にこだわった。幼稚園には広く園全体をサポートする幼児教育支援員は配置されるが、障害児専属のスタッフはいない。このため宇宙君には家族が付き添うことが入園の条件となった。そこまでして地域の幼稚園を選んだ両親も不安を抱きながらのスタートだったが、子どもたちはたくましく育っていった。
 人気バンドのボーカルだった父親の康人さんは、三つ子の障害児を育てる中で福祉の道に進む。障害者をサポートする仕事は康人さんにとって、自らの子どもたちの将来を学べる貴重な機会。障害者の自立に向け、作業所や授産施設の製品の販路拡大など、障害者が安定した収入を得られる環境づくりも始めた。康人さんと恵さんは言う。「子どもが生まれる前は障害者には何の関心もなく、偏見すらあったが、自分がその親になったことで世界が広がった…」。
 日本の障害児教育では、未就学期には療育施設、義務教育以降は一般学校の特殊学級、盲学校・聾(ろう)学校・養護学校などが設置されている。多くの障害児はこうした専門施設に進むが、佐伯さんのように地域の学校を選択するケースも増えてきた。番組では佐伯家の他に二つの家族を紹介していく。一つは三つ子ちゃんの未来の姿と重なる岩木君。もう一つは佐伯さんとは異なる選択をした安原さんだ。
 岩木君は教育委員会から養護学校に該当する障害と指摘されたが、本人の強い希望で地域の小・中学校に通い続けた。「みんな普通に行ってるから、普通に行きたかった…」。この短い言葉に岩木君の思いが表れている。母親のかね子さんは、車いすの子どもがいることで周囲の児童・生徒にもいい影響があったと感じている。佐伯さんが考える、障害児と健常児が小さい時からずっと一緒に過ごしていくことの効用をまさに実体験したわけで、それがまた岩木君の9年間を支える原動力になった。しかし、義務教育とは環境が変わる高校入試になると、受け入れに難色を示す学校が相次ぐという局面にぶつかる。希望する高校に進めない現実は、障害児を地域の学校で育てていくことの限界点とも言え、本人や家族にとって新たな試練となった。
 2人の自閉症児を持つ安原さんは、子どもたちを地域の幼稚園ではなく、専門の療育施設に通わせた。自閉症という周囲に理解されにくい障害のある子どもが健常児の中で過ごせるのか、両親には大きな不安があったのだ。とはいえ地域の学校で育てたいと願う気持ちは強く、今年4月の進学を機に上の男の子を地元の小学校の特殊学級に進ませた。たとえ、特殊学級でも健常の子どもと接する機会の多いところに通わせたいとの思いからだ。しかし、将来の就労を考えると、障害に応じた職能訓練や職場のあっせんをしてくれる養護学校にいずれは移らなければならないのではと考える。「地域の学校にいて、働くことの心配がない社会になれば夢のよう…」と安原さんが言うように、障害児を切り離して教育する構造が確立されている中で、地域の学校に通わせ続けることは大変なエネルギーを必要とする。
 脳性まひから股関節の脱臼を起こした佐伯素晴ちゃんは、7時間に及ぶ手術を受けて脱臼を直した。筋肉や骨を切る手術は術後の痛みが激しく、麻酔が切れた後はまさに地獄の苦しみだった。12キロしかない小さな体の負担を考え、両足を同時に手術することはできず、今年の秋にもう一方の手術を受けるが、本人はそれを心待ちにしている。幼稚園で健常の子どもたちと過ごす中で、自分も歩きたいと思う気持ちがふくらみ、苦しい手術やリハビリを乗り越える勇気が生まれたのだ。
 三つ子ちゃんは、来年の春、進学という大きな節目を迎える。義務教育では文部科学省が定める就学基準による検討が行われ、障害の程度によって特殊学級や養護学校など、就学先を教育委員会が判断する。地域の小・中学校の普通学級に通い続けた岩木君のように本人サイドの希望も勘案されるが、佐伯さんの場合は同時に3人ということで、学校側の受け入れ体制が焦点となる。学校生活支援員も予算の関係で潤沢に配置されているわけではなく、カバーしきれない部分は親が付き添わなければならない。より大きな集団生活になり、移動する距離も長くなる小学校で、3人をケアしていくのは容易ではない。果たして、どういう選択がベストなのか、その答えはまだ見つかっていない。本当の「正解」は子どもたちが社会に出るその時にようやくわかるのかもしれない。不透明な未来を両親は懸命に見つめている。

<制作担当のコメント>

 障害児教育に関する報道(特集や特別番組)は、とかく取材対象、すなわち当事者の考え方を一方的に描いてしまいがちです。そのほうが取材もやりやすく、一貫した主張を展開できるからです。しかし、一口に障害児といっても、障害の種類や状態、さらには家族の考え方もまちまちです。佐伯さんのように地域の学校でずっと歩ませたいと思う親がいる一方で、療育施設や養護学校を進んで選択する人たちも多いのです。地域の学校で頑張ることが正しくて、専門施設に通わせることが間違っているわけでは決してありません。
 このことは佐伯さんの両親も等しく認識しています。取材をする中でいつも「これはあくまでウチの選択。いろんな考え方のご家庭があるし、どれも正しいと思う」と話していました。佐伯さんにとって、三つ子ちゃんを地域で育てていくことは「美談」ではなく、常に悩みながらの「懸命の挑戦」なのです。
 これを念頭に置き、番組は佐伯家の姿を淡々と描きながら、さまざまな視点を織り交ぜ、見た人それぞれに考えてもらえるように構成しました。大上段に障害児教育のあり方を振りかざすのではなく、三つ子ちゃんを核に見えてくる現状と課題を感じられるようにしたつもりです。
 「ユニークな名前の三つ子の障害児がいる」という興味本位なとらえ方ではなく、一家のひたむきな取り組みを通して、障害児教育への関心や議論が高まるきっかけになればと願っています。(ディレクター 村口敏也)

<スタッフ>

プロデューサー 大出知典
ディレクター 村口敏也
撮影 立川 純
ナレーション 小林咲夏

2006年12月7日発行「パブペパNo.06-432」 フジテレビ広報部