FNSドキュメンタリー大賞
韓国が誇るミュージカル、演劇女優ユン・ソクファさんの公演を通して、
現代韓国文化を日本の人々に知ってもらい、心の交流を図りたいという韓国人留学生兄弟。
彼らの情熱と行動力を追い、日本の韓流ブームの実態を探る。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『韓流の行方〜若さで架ける交流の橋〜』

(制作:テレビ大分)

<11月13日(月)深夜2時29分〜3時24分>

 韓国が誇るミュージカル、演劇女優ユン・ソクファさんの公演を通して、現代韓国文化を日本の人々に知ってもらい、心の交流を図りたいという韓国人留学生兄弟。11月13日(月)放送の第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『韓流の行方〜若さで架ける交流の橋〜』(制作:テレビ大分)<深夜2時29分〜3時24分>では兄弟の情熱と行動力を追い、日本の韓流ブームの実態を探る。
  シン・ホシックさん(26歳)とシン・ウーさん(24歳)はともに別府市にある立命館アジア太平洋大学の韓国人留学生で、文化交流のために別府に来たという。二人は若さと行動力ではユンさんの公演予定にまでこぎつけるが、直前になって公演中止が決定される。  二人を取り巻く家族や恩師、また支援者の人々の行動が、失敗を通してまた一つ大きくまとまることになる。韓流とは何か、両国の相互理解、ことに日本人の韓国理解が単に一過性のブームに終わるのかどうかの分岐点ともいえよう。

(内 容)

 韓流ブームはいまや頂点を迎え、俳優や歌手などを中心に韓国のタレント人気はまだ衰えることを知らない。
 日韓交流や相互理解を考えると日本にとってかなり有益だが、今後、一過性に終わる心配はないだろうか。韓国側からの日本文化の理解、また、真の日韓交流に結びついていくのかどうかはまだ未知数である。
  大分県別府市は温泉や観光地などが人気で、韓国からの観光宿泊者数は年間12万人にものぼる。韓国人海外旅行人気スポットの上位にランクされている場所だ。これには30年に及ぶ行政や観光業界の誘致PR活動があった。もちろん、市民や大分県民も韓国に寄せる関心は高く、それだけ韓流ブームには敏感な土地柄でもある。

 その別府市にあるAPU立命館アジア太平洋大学は学生の半数、約1900人が外国からの留学生というユニークな大学だ。別府市自体も人口の約3パーセントが外国人という、人口比率からみて国内でも外国人が多い町のひとつである。
  現在、APU4年のシン・ホシック(申豪G)さん(26歳)はソウル市内の大学から、先に弟のシン・ウー(申宇)さんが入学していたAPUに編入留学してきた。ホシックさんが留学してきたきっかけは、弟が在学しているということだけでなく、本国にいたときから舞台公演文化交流を通じた日韓親善関係推進を夢見ていたからで、日本語や日常生活の経験を積み、その上で去年3月、新Brothersという企画会社を弟のウーさんと立ち上げた。
  そして、その第一の企画としてとり上げたのが韓国最高の人気舞台俳優ユン・ソクファの日本初公演であった。
  最近のドラマや映画が韓流ブームの火付け役となっているが、本当の韓流の根幹はテレビや映画など画面の上で展開されるものではなく、舞台でじかに観客と接する公演芸術文化にある、というのが彼ら兄弟の思いだ。真の意味での韓国文化を理解してもらうには韓国人が最も愛し、尊敬しているユン・ソクファさんの公演しかないと決心したからだという。

 ユン・ソクファ(尹石花)さんはソウル生まれの50歳。19歳で歌手デビューを果たしたもののアメリカに留学し、初めて本格的なミュージカルを韓国で上演したことで韓国民に認められた。
 以後、演劇にミュージカルに歌にと活動の場を広げ、今や韓国の最高の舞台女優としての名を不動のものとしている。さらに、公演のプロデュースや芸術雑誌の編集発行者として活躍する一方で、孤児を養子にして育てるなど社会活動の分野でも心を砕き、現在、韓国の第一級の文化人として韓国内では知らない人はほとんどいないといわれる著名人だ。
 韓国の若手芸能人で、いわゆる韓流スターと呼ばれる人々もユンさんの指導や影響を受け、師として尊敬している。
 ただ、映画やドラマに出演しているわけではなく、舞台中心の活動のため、日本国内でユンさんのことを知っている人は少ない。

 シン兄弟とユンさんとは、兄のホシックが兵役や大学時代を通じてユンさんの元に通い、親しく教えを受けたことから始まった。
 彼らの「文化交流を通じた両国間の明るい未来を築き上げるという使命感」はユン・ソクファさんを動かし、兄弟の情熱に感動して、もし準備ができれば別府で公演することを快諾した。

 APU留学後、ホシックは別府や大分に出て一年間に100人以上の人々と会い、ユンさんの業績や日韓文化交流への思いを聞いてもらったが、兄弟の公演実現への道は実に難しく、多くの日本人や韓国人からは「絶対に無理だ」といわれつづけた。
 そんな兄弟の思いを受け止めてくれたのが別府市日韓親善協会のメンバーで、親善協会のメンバーを中心とする実行委員会をつくり、事務所を設置して公演を開催する準備に入った。
 別府公演は2006年3月16日、17日の両日。舞台はユン・ソクファが初めて演じ、世界各国でも演じられるようになった一人芝居「娘に送る手紙」。
 当日は、ユンさんを慕うイ・ヨンエやチェ・ジュウなどいわゆる韓流スターもユンさんに敬意を表して、別府に挨拶にくる手配もされようとした。

 しかし、「韓流スターが別府に来る」という話が一人歩きをはじめ、その結果、彼女たちの所属事務所などからクレームが入り、韓流スターが別府に来ることは白紙となった。
 この連絡を受けた実行委員会は別府公演の中止をユンさん側に通告した。結局、実行委員会も韓流スターに依拠していたのだ。
 この連絡に一時ユンさんは大きなショックを受けたが、申兄弟の直接謝罪やユンさんの人柄を慕う大分の人々からの手紙などで納得し、再び日本公演を前向きに考えてくれるようになった。
 そこで、新たな活動が始まった。大分、別府の市民十数人が、今回のケースを教訓に、活動のスタートを切った。あらためて一歩一歩、韓国の舞台芸術とは何かから周りの人々に理解を求め、その上でユンさんの舞台を大分で実現させようという取り組みだ。

 文化交流ということばは美しいが、実際の相互理解は難しい。純粋な夢を推進する中で、大きな挫折を乗り越え、兄弟の情熱的な活動とそれを支える市民とのスクラムなどを追いながら「韓流の行方」を見定めていきたい。

<制作者コメント>

 APUという大学の学生はきわめてユニークである。学生自身の自立性を最重視し、さまざまな文化活動も展開している。
 そんなAPUの韓国からの留学生シン・ホシックに私が初めて会ったのは2005年の10月、公演が本決まりとなり事務所を立ち上げようとする頃だった。
 それ以来、兄弟と幾度となく会い、食事をしたり夢を聞いたり悩みを聞いたりしながら今年を迎えた。
 彼らには3人のお母さんがいるという。実の母親と、文化というものに目を向けるきっかけを作ってくれた中学時代の恩師コー先生、それにユン・ソクファさんで、20数年の人生にもかかわらず、人生の目標や理解、家族というものに確たる信念を持って生活していることに驚いた。
 実際にソウルに行って、3人にお会いすることができたが、それぞれの方が魅力的で、シン兄弟が、あそこまでの信念を持つことができるのも十二分にうなずけた。
 取材を続けるうちに公演実施が妙な方向に動き始めた。結局、ゲストとして来る予定だった韓流スターたちが来ることができなくなり、公演中止の決定に至る。
 ユン・ソクファさん自身の素晴らしさは認識していたものの、興業としては韓流スターに依拠していたということで、取材を始めた当初から韓流ということばの日本人の理解の実態とはどういうことなのか、兄弟の信念や情熱の根源を中心にドキュメンタリーとして伝えたいという私たちの意図には揺るぎはなかったものの、当の兄弟やユンさんの落胆や失望には、身近にいたものとして大きな責任も感じた。
 ふたたび、日数をかけて、原点からユンさんの公演を、二人の夢を実現する動きがスタートしたことに光明はある。彼ら二人の若さと行動力には、今の日本人にはない、国と民族、家族に誇りを持った情熱があり学ぶべきことが多い。


<制作スタッフ>

 制作 渡辺隆司
 プロデューサー 岩尾保次
 ナレーター 野島亜樹(テレビ大分)
 取材・構成 岩尾保次(テレビ大分)
 撮影・編集 佐藤賢一郎(映像新社)
 撮影 照屋 勉(メディクスコリア)
 MA 板井雅也(映像新社)
 制作 テレビ大分

2006年11月6日発行「パブペパNo.06-377」 フジテレビ広報部