FNSドキュメンタリー大賞
許可量の13倍を超えるゴミが違法搬入された福井県敦賀市の民間最終処分場。
県の黙認が発覚して5年後、業者との生々しいやりとりがつづられた内部書類が出てきた。
県が「存在しない」としてきた業務日誌だ。
「密室行政」の危うさと情報公開による難問解決への可能性を検証する。

第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『匿された日誌〜密室ゴミ行政の果て〜』

(制作:福井テレビ)

<11月4日(土)深夜3時45分〜4時40分放送>

 許可量の13倍を超えるゴミが違法搬入された福井県敦賀市の民間最終処分場。県の黙認が発覚して5年後、業者との生々しいやりとりがつづられた内部書類が出てきた。県が「存在しない」としてきた業務日誌だ。業者の背後に暴力団の影がちらつき、地元住民や県議会が口を閉ざす中、密室でのやりとりが繰り返されていく。
 11月4日(土)放送第15回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『匿された日誌〜密室ゴミ行政の果て〜』(制作:福井テレビ)<深夜3時45分〜4時40分>では「密室行政」の危うさと情報公開による難問解決への可能性を検証した。

〔番組企画意図〕

 許可量(9万立方メートル)の13倍もの廃棄物が違法に持ち込まれた民間のゴミ最終処分場が福井県敦賀市にある。その量は119万立方メートル。東京ドーム1個分である。汚水が周辺に漏れ出し環境への影響が懸念されている。驚くことに県は違法搬入を6年間にわたり黙認してきた。そこには一体何があったのか。
 その真相は静かに闇に消えようとしていたが、去年、おでん屋の女将が情報公開請求で入手した県の「業務日誌」によって、住民不在のゴミ行政の実態が浮き彫りとなった。「存在しない」とされてきた県の「業務日誌」には担当課と業者の生々しいやりとりが記されていた。業者に揺さぶられ、最後には違法状態を追認するところまで譲歩する県。違法な搬入を容認し、管理責任を放棄した行政の姿があった。問題の処分場はコンクリートの壁で覆い漏水対策などを講じることが決まったが、費用は141億円と莫大である。巨大なゴミ山は消えることなく、「負」の遺産は市民に押し付けられた。
 この番組では密室で行われたゴミ行政を検証することで、行政の持つ情報は一体、誰のものであるかを考え、行政をチェックする「情報」の扉がいまだ閉ざされている現状を問う。

【敦賀ゴミ問題の年表】

平成3年ごろ 増設計画(18万立方メートル)に反対運動広がる。
平成4年3月 計画を半分(18万立方メートル⇒9万立方メートル)にすることで地元が了解
⇒県が業者に「指導文書」(将来の増設を確約?)
平成4年12月 廃棄物の搬入開始(許可量=9万立方メートル)
⇒事業計画では「385日」で満杯の予定
平成8年11月 「指導文書」を持って、増設意向を伝える。
*違法搬入に拍車かかる…
*しかし、県は「立ち入り」せず放置
平成12年6月 119万立方メートルの違法搬入について県が公表
平成18年4月 141億円の対策を決定

【処分場を巡る流れ】

キンキクリーンセンターは平成2〜3年ごろに18万立方メートルの増設計画を持ち出したが、地元の反対運動にあった。

仲介に入った県は増設量を計画の半分の9万立方メートルとすることで地元の了解を取り付け、業者に従うことを指導した。

ここで後々、問題となる「指導文書」が県から業者に渡された。

業者が県の指導に応じたのは、県が定める指導要綱が「地元同意」を求めているため。
しかし、県の要綱には法律上の拘束力はない。そのため、県の指導を受け入れた業者は、将来の増設について県に「指導文書」を書かせた。(平成4年)

平成8年、業者は「指導文書」を持ち出し、増設について便宜を求める。

県にとっては、「借り」となった部分もあって業者に譲歩し、最後には違法状態を追認。立ち入りを行って「現状把握」を行うこともなく、ズルズルと搬入量は119万立方メートルまで膨らんでしまった。

【密室を暴く業務日誌】

 県は、業者や関係部署との協議を記した「業務日誌」の存在を否定していた。「なぜ県は見過ごしたのか?」。「本当にわからなかったのか?」。そうした素朴な疑問にも県は答えず、真相は静かに闇の中に眠ろうとしていた。しかし、矛先を変えた情報公開によって、「不存在」とされた「業務日誌」が白日のものとなった。その日誌を入手したのは敦賀市でおでん屋を営む今大地晴美さん(55)。処分場に関する裁判記録を求めたところ、密室のゴミ行政の実態を記した72枚の文書が出てきた。
 処分場の許可量は9万立方メートル。業者の計画では1年あまりで(385日)で満杯になる予定だった。しかし、1年が過ぎ2年が過ぎてもダンプの列は消えなかった。県は「違法な状態であることがわからなかった」と苦しい説明をしているが、業務日誌の記述からは、許可量を超えていたことを認識していたばかりでなく、業者に詰め寄られると、便宜を図ることを検討し、どんどん譲歩していく責任放棄の行政の顛末が記録されていた。

【暴力団の影】

 違法搬入に気づいていたのは行政だけではなかった。住民たちも「異常」に気がついていたが口にすることをためらった。それは業者の背後に強い恐怖心を抱いていたからである。当時、反対運動の先頭に立っていた男性は暴力団の組長を名乗る男から「身の回りに危害が及ぶ」と脅された。今大地さんは、店の玄関に人糞を置かれたほか、放火などの嫌がらせを受けた。地区の人たちにとってこの問題に触れることはタブーとなっていた。口を閉ざしたのは住民ばかりではなかった。市民の声を反映する県議会にもアウトローの暗い影が落ちていた。違法搬入を県が公表する前に、この問題を議会で取り上げられることはほとんどなかった。地元に住む元県議会の重鎮は「相手が悪かった」と証言する。

【負の遺産】

 問題が発覚から6年が経った今年4月、ようやく県の対策が決まった。巨大な廃棄物の山をコンクリート壁で囲い込み、浄化を図っていく計画である。その対策には141億円がつぎ込まれる。しかし、巨大なゴミ山は動かない。負の遺産を地域が抱えることになった。行政が毅然と対応していればこんなことにはならなかった。その責任はだれが取るのか。いつも行政の失態の犠牲になるのは市民である。

<制作者コメント>

 ディレクター 横山康浩

 この最終処分場問題は地元ではタブー視されていました。だからといって業者の経営破綻を理由に141億円という対策費を税金投入で行うという理不尽さを見過ごしていいのか。取材は葛藤の中でスタートしました。しかし、取材を始めると「黒い影」に怯えてか、取材拒否の連続…。
 そんな中で、おでん屋の女将である今大地晴美さんが、凜として問題を追及している姿に刺激を受け、なんとか番組化することができました。
 最後に…普段は行政マンや議員から情報を聞き出して記者活動を展開していますが、情報公開請求という手段をもっと利用しなくては、と思いました。


プロデューサー 山田耕太郎
ディレクター 横山康浩
ナレーター 井川比佐志
米本千珠
構成 高橋 修
撮影・編集 加藤英一
MA 村松勝弘
音効 関口政孔

2006年10月20日発行「パブペパNo.06-364」 フジテレビ広報部