FNSドキュメンタリー大賞
松山市にある精神障害者グループホーム「ゆーほーむ」。
統合失調症に苦しむ5人が自立に向け共同生活を送っている。
長い闘病生活を経て、新たな一歩を踏み出した入居者たちの姿を通して、
地域での暮らしに取り組む精神障害者のひたむきな思いを描く。

第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
フツーに生きたい 「ゆーほーむ」からのメッセージ

(テレビ愛媛制作)

<11月15日(火)深夜2時33分〜3時28分放送>

 松山市にある精神障害者グループホーム「ゆーほーむ」。統合失調症に苦しむ5人が自立に向け共同生活を送っている。精神障害者は継続して飲まなければならない薬の影響で疲れやすいことなどから、働ける場は限られているが、福祉的な就労を続けながら社会復帰を目指している。
 家族の高齢化や社会復帰支援施設の不足などで、退院できるのに帰れない「社会的入院」が指摘される中、グループホームは重要な存在だが、全国的にまだ大幅に不足している。
 11月15日(火)放送の第14回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『フツーに生きたい 「ゆーほーむ」からのメッセージ』(テレビ愛媛制作)<深夜2時33分〜3時28分>では、長い闘病生活を経て、新たな一歩を踏み出した入居者たちの姿を通して、地域での暮らしに取り組む精神障害者のひたむきな思いを描く。

<内容>

 精神障害者のグループホーム。不勉強な私(ディレクター・村口敏也)がその存在を初めて知ったのは2004年の春でした。それまで高齢者のグループホームは何度も取材した経験がありましたが、精神障害者が共同生活を送っているところがあるというのは、新鮮な驚きだったのです。「大丈夫なんだろうか…」。まずそう思った私には、まぎれもなく、精神障害者に対する先入観や偏見がありました。
 初めてホームを訪れた日、“恐る恐る”部屋に入った私を迎えてくれたのは、入居者たちの笑顔と明るい言葉でした。こちらをやさしく見つめる眼差しに接した瞬間、私は思わず心の中で叫んでいました。「なんだ、フツーじゃないか!」。本当にこの人たちが入居者(すなわち精神障害者)なのかと疑ってしまったほどでした。
 それから何時間も、私は夢中になって話し込んでいました。彼らは少しも飾ることなく、自らについて語ってくれました。発病した時のこと、以前「精神分裂病」と呼ばれていた病気であること…。こちらがとても質問できないようなつらい思い出をごく自然に話してくれるのです。そこには、長い闘病生活を経て自立に向け歩み始めた、ひたむきな姿がありました。
 フツーに生きようと頑張るこの人たちの思いを伝えたい…。
 「皆さんを取材して、放送してもいいですか?」
 祈るような気持ちで聞いた私に、彼らは変わらずやさしい表情で答えました。
 「いいですよ。自分たちが出ることで少しでも理解が進むのなら」
 こうして精神障害者グループホーム「ゆーほーむ」の取材は始まりました。しかし、いざテレビカメラが持ち込まれると、不安そうな言葉が漏れます。「まだ病気のことを言っていない知人がいるんですけど」「モザイクとかにしてもらえるんでしょうか」…。彼らは病気のことで家族や周囲の人たちに大変な迷惑をかけているという“負い目”を強く感じているのです。
 懸命に社会復帰を目指す人たちがどうして顔を隠さなければならないのか。私はその“壁”を越えることにこだわりました。何度も何度も話し合い、本音の気持ちをぶつけ合う中で“隠さないこと”がいかに重要であるかという意識を共有できるようになりました。
 「ゆーほーむ」には5人の統合失調症患者が入居し、ソーシャルワーカー「精神保健福祉士」の資格を持つスタッフらが1日4時間詰めています。身の回りのことはすべて自分たちでするのが原則で、スタッフは入居者の社会復帰に向けた活動を支援します。「メンバーさん」と呼ばれる入居者は、障害者の家族会が運営する作業所などで働いたり、病院のデイケアに通っています。精神障害者は継続して飲まなければならない薬の影響で疲れやすいことなどから、一般的な就労が難しく、働ける場は限られています。しかし、たとえわずかであっても収入を得る努力を続け、次のステップを切り拓こうと取り組んでいるのです。
 精神科の入院患者は全国で約33万人。このうち約7万人は、退院できるのに帰れない「社会的入院」といわれます。家族が高齢化し受け入れられなかったり、社会復帰支援施設が足りないことなどから“出られない”のです。「ゆーほーむ」のメンバー5人は、さまざまな事情から家族と離れて暮らしています。帰るところのない患者が地域で自立するためにグループホームは重要な存在ですが、その数は全国的にまだ大幅に不足しています。
 では、グループホームで暮らす5人の日常や就労、地域とのふれ合い、そして、障害者による人材センターという新たな試みなどを紹介しています。そこには、ゆっくりとしたペースではありますが、自立に向けた確かな歩みが刻まれています。彼らの一言一言、おだやかな表情、和気あいあいとした雰囲気の中に、いくつもの壁を越えて未来を見つめる強い意志を感じずにはいられません。
 「彼らといると心がなごみます」
 1年余り接してきて、私が抱く率直な感想です。やさしくて、繊細で、真面目。これは支えるスタッフたちも等しく感じていることです。幻覚や妄想などの症状に苦しむ精神障害者には、とかく「危険」というイメージがつきまといます。特に症状の重い人を見ると、そう感じるのは無理からぬことかもしれません。
 今回、勇気をもって顔を出した患者たち。そのありのままの姿と真剣な思いに触れ、今一度、精神障害者について、そして彼らを取り巻く環境について見つめ直すきっかけになればと願っています。


スタッフ

 プロデューサー 大出知典(テレビ愛媛 報道部)
 ディレクター 村口敏也(テレビ愛媛 報道部)
 構成 村口敏也(テレビ愛媛 報道部)
 撮影 立川 純
 編集 村口敏也(テレビ愛媛 報道部)
 ナレーター 小山茉美

2005年10月25日発行「パブペパNo.05-363」 フジテレビ広報部