原爆が投下されて65年が経過した2010年。広島市は、現在の被爆者の精神的な状態に関する大規模な調査報告を発表した。それは、現在も被爆者の1~3%が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えているというものだった。
被爆者の白石多美子さん71歳は、原爆資料館で館内ガイドをしているボランティアの一人。ガイド歴10年のベテランだが、 ガイド中に強烈な「匂い」に突然襲われることがある。白石さんだけが感じる「匂い」とは、一体何か。白石さんは言う、「この匂いは65年前の原爆投下直後、爆心地で祖母を探していた時に嗅いだ、すべての生物と、建物や土が焼き尽くされた匂い」だと…。臨床心理士による検査の結果、白石さんは軽度のPTSDで、「匂いの再来」は、フラッシュバック症状のひとつだとされた。熱線で皮膚が垂れ下がった人々、 水を求めて死んでいった人という悲惨な光景、そしてその場の「匂い」は、当時6歳だった少女の脳裏に強烈なトラウマとして刻みつけられたのだった。
番組ではほかに、逃げる自分を追いかける「キノコ雲」のフラッシュバックに怯え続ける72歳の男性の苦しみや、悪夢を恐れ、睡眠薬を飲み続ける84歳の女性など、被爆後65年が経過してもなお、当時の惨状の記憶に苦しむ被爆者たちを取材。