アナマガ

どちらかというと シッカリ書きたい人のためのコーナー 10年以上の渡り、続いてきたアナルームニュースの中で 好例の連載企画を「コラム」という形で集めました。 個性あふれるラインアップ!ブログとはひと味違う魅力をお楽しみください!

アナルームニュース 2009年04月07日号

吉崎アナの「2008年・演劇てんこてん」

編集員 モモンガ【編集員 モモンガ】
アナマガ+plusのブログ【きょうのぬかどこ】で、2年にわたり季節感あふれる
素敵な文章を書いてくれている吉崎アナ(通称:てんこさん)♪
大のお芝居好きであるのは、もう周知の事実ですよね。(^^)/
それでは、恒例 吉崎アナ『てんこてん2008年版』をどうぞ!

10位 「幸せ最高ありがとうマジで!」 (11・8 パルコ劇場)
 本谷有希子作・演出の舞台、初めて見ました。遅いよ!・・・・・と一人突っ込むわたくし。永作博美いいですねえ。顔ちっちゃくて、足細くて。「華奢」って彼女のような女優さんのためにあるようなことば。再確認しておきますが、女優という仕事は、一般人と、著しく容姿が差別化されていることが大切です。
 さて、ストーリーはといいますと、新聞販売所に突然「愛人」と名乗ってやってきた女 (永作)をめぐり、販売所一家の隠された秘密が次々と明らかに・・・・。
所長夫人の広岡由里子いい!うまい!どこにでもいそうな普通のオバサン風の容貌に潜む狂気は、このひとピカイチです!そして、所長の梶原善。崩れ方がこれまたいい。
本谷有希子の経験してきた「狂気」。そしてその狂気との折り合いのつけ方、劇的表現は、相当に面白かった。これは、関連書物を読んで書いたものではなく、彼女が経験したものだと確信しているのですが、いかがなものでしょうか。
9位 「表と裏と、その向こう」 イキウメ (7・2 紀伊国屋ホール)
作・演出 前川知大
 作者は、理科系頭脳タイプなのだろうか。設定は、ユビキタス特区に住む人間たちを描いている。ID認証で完全に管理されている怖い町。舞台装置の不安定な角度が不確実さと未来へのつながりを感じさせる。主人公の恋人役の女子大生が自殺してしまうことによって、かすかに見えてきた将来への期待を、断ち切られてしまった感があり、そこに残念な思いが残る。意欲作であることや、新世代を実感させる作者の存在感は大きい。次回作に期待したい。
8位 「GOOD NIGHT SLEEP TIGHT」 (12・14 パルコ劇場)

 舞台に、たったふたつのベッドが置かれた二人芝居。この装置が、くっついたり離れたりしながらその時々の距離感を表しつつ、夫婦の30年間を描く作品。戸田恵子・中井貴一という抜群にうまい役者さんが演じるものだから、もう休憩なしの二時間はあっという間。作者の三谷幸喜が描く夫婦は、男が情けなくてウエッティで、女は、きっぱりしっかり骨太に生きていくタイプ。これは三谷氏の実生活が、かなり反映しているのではないでしょうか?きっとカップルで見た人たちは(うちもだけど)ああ、うちとはここが違う、あそこは共感する、などと感じるのだろうなあ。
 さて、リクガメ。夫婦が飼うペットとして、舞台にリクガメ(おもちゃ)が登場する。わが夫の友人で、このストーリーのように、家でリクガメを飼っている夫婦がいる。もしかすると、彼らと三谷さんが知り合いなのかと疑い、パンフを購入したら、実際に飼っているのは、俳優の佐藤浩市であり、数々のエピソードはここから生まれたらしいことが判明。世の中に、他にもこんな人がいるのか、と二度びっくり!いずれも買ったときは5、6センチであったのに、いつの間にか30センチを超えるサイズになったそうである。友人夫婦は、何頭ものカメが食べるオオバコの葉をつむために、毎日公園に出かけるそうだ。手がかからないと思って飼い始めたカメが、意外と大変なことになってしまったと、それでも嬉しそうに目を細めながら語っていたのが印象的だった。気持ちがほとんど伝わらない(らしい)カメ、夫婦の鎹(かすがい)にもならない(らしい)カメ、飼ってみないことには、その魅力は、とうてい分からないのかもしれない・・・・。

7位 「だるま」カムカムミニキーナ公演 (7・25 シアターアプル)
 いままで過去何度も見てきているが、一番分かり易いカムカムミニキーナの公演だった。
孫悟空時代の中国から始まり、戦国時代の日本、さらに近代の鴻池財閥にまで時空を自在に飛ぶ松村武作品。ただただ、その荒唐無稽ぶりに脱帽!です。
結成18年め、カムカムミニキーナのオールスター・キャストが魅せてくれました。
松村武・八嶋智人・山崎樹範を始めとして女優プリタ・藤田記子がはじけた存在感で魅力を振りまきます。このくらい作品が理解できると、劇場出るときに満足感に浸れるんですよねえ。
6位 桟敷童子公演「黄金の猿」 (12・2 ベニサンピット)
 これで、¥3,000は安すぎ!
差別されている集落を描き続けてきた東憲司の一大傑作が生まれた。「うみわたり」と「やまわたり」と設定されている差別の民が呼び合い、生き抜いていく力強さ。本水(ほんみず)を使って、これでもかこれでもか!とベニサンピットの小屋がうなりまくる。夏ならともかく、冬でこれでは、役者もさぞかし消耗するだろう・・・・と、思わず心配になる。
芝居小屋のベニサンピットもこれでラスト公演らしい。桟敷童子とベニサンピット。こんなに相性が感じられる組み合わせも無いのに、なんとも残念・・・・。
 女優・鈴木めぐみは、相変わらず少年のような頭。五分刈りだった。そのヘアスタイルに象徴される、潔さと女優魂が感じられ、役者としてのステージが、さらにあがった感がある。
5位 ナイロン100℃「シャープさんフラットさん」 (10・1 本多劇場)
 下北沢の居酒屋さんで知り合った女優の杉山薫さんを頼って、ホワイトチームのチケットをお願いしました。ケラリーノ・サンドロヴィッチの新作書き下ろし。タイトルの由来は、人間のなかには、どうも不器用だったり、変わっていたりして他の人と同じ旋律を奏でられない人間がいる。その旋律は、半音高かったり、低かったり。そういう人の事を「シャープさん」もしくは「フラットさん」と作者は呼ぶ。
 登場人物のなかに、普通の人が出てこない。主人公ケムリ(三宅弘城)の母(村岡希美)は父の目を盗んで男と密会する、ペットのインコを握りつぶす・・・・・などやりたい放題。ケムリはそんなつらい現実から逃避しようと空想の笑いの世界に遊ぶようになり、いつのまにか、それが生業に。妻の美果は、ケムリの手ひどいDVの被害者。女優なのに、階段から突き落とされ、顔に消えない痣を刻まれる。ケムリが逃げ込んだサナトリウムも、現実世界と折り合いをつけられない人ばかりが集まっている。作者ケラの「実体験」かと思わせるような具体的な描写、心象風景にだんだん胸が詰まる。ラストシーンもふくめ、救いの無い結末だが、妙なリアリティに心が惹かれる。必ず何か起きるに違いない・・・と予感させ、ちゃんと現実に起きてしまう。そのひりひりした絶望感が悲しい。私が好きだったのは、三宅と松永玲子の掛け合い漫才のような笑えるシーン。それから村岡演じる園田春奈と、往年のお笑い芸人園田研々との心温まるシーン。芸達者揃いで、安心感&満足感があふれた。
4位 「志の輔らくご ひとり大劇場] (8・16 国立劇場)
 “初心者向きで、何かイイ演目ありませんかね~?”と、あべちよちゃんに付きまとっていたらこんなプラチナチケットを、入手してくれました!「生まれ変わり」「三方一両損」「中村仲蔵」の三席でした。
セクシーな“だみ声”の志の輔さん、さすがにうまい!
「中村仲蔵」は号泣しました。落語ってこんなに涙が出るものなのかと思い、びっくりしました。落語にはまりそうな予感がします!
3位 「SISTERS」 (7・9 PARCO劇場)
 パルコでの長塚圭史作・演出においては、「マイ・ロックンロール・スター」「ラストショウ」につづく3作品め。家族のつながりを追い求めてきた長塚圭史作品のなかで本作は、グロテスクな部分が少なくなってきている。出演者が素晴らしい。松たか子と鈴木杏の姉妹、存在感の濃さと滑舌のよさに舌を巻くし、田中哲司の色気、吉田鋼太郎の常識を超えた現役感、梅沢昌代の変人ぶり、中村まことのダークな小市民ぽさ・・・・と一筋縄ではいかない俳優陣が大いに魅力的。
 近親相姦、と一言では済ませられない「ダブルの多層構造」が絡み合う中、ほぼ予想通りの結末が展開する。観客のなかに作品同様の経験を持つ人がいたら、きっと泣かずにはいられないだろう。しかし、少々気になるのは「性的虐待を受けた子供」に関する心理学の本を読んだかのごとく、教科書どおりの結末がやや表層的か?とても面白かったのですが、過去の長塚作品に比べると、破綻度が小さくて、残念。(私は、何を期待しているのだろう・・・・?)
 本水を使ったプールのような舞台装置が印象に残る。これは羊水を象徴しているのね。本水だから透明で澄んでいるが、以前の彼だったら、色をつけて濁らせたのではないかと思える。ラストシーンは、私としては“希望“を強く感じました。本作後、ロンドン留学で一年日本を離れるそう。帰国後にさらに期待しましょう。
2位 シス・カンパニー公演「人形の家」 (9・21 シアターコクーン)
 130年も前に書かれた、とても有名なこの戯曲。お嬢さん育ちのノラが、封建的な環境の中で、自立する女になる、あの話ね・・・・くらいに考えていた。ところが、現代の夫婦の問題と何ら変わることのない、普遍的なテーマだと、見終わってしみじみ感じる。
「うちはちゃんと夫婦で向き合って、会話しているかしら?」「もし、私がノラだったら、あんなに強くなれる?あの勇気をもって行動できるかしら?」人形のようなつまらない女=ノラという、ノラに対して持っていたイメージが、180度変わってしまいました。確かに、父の人形であったノラは、愛情やお金を手に入れるには「人形」のように可愛くふるまうのが早道と本能で理解していた。夫に対しても最初はそうしていたのだが、本来のノラはもっと勇敢で賢くて行動的。夫を救うために取った自分の果敢な行動が、夫に理解してもらえると確信していたのに、夫はまるで彼女を子ども扱いし、あろうことか問題から逃げるという卑怯な手段を用い、彼女をひとりの人間としてきちんと見ることは無かったのだ。
 人間関係において、特に夫婦間においては、想像力が一番大切。気づかない振りをせず、想像力を働かせて生きていきましょう。そうでないと、怖いことになります・・・・。 この戯曲、一種のホラーなんですから。
 宮沢りえの変幻自在な演技、とくに魅惑的なタランチュラ・ダンスに目を奪われる。 堤真一の無神経な夫ぶりにもあきれつつ、その存在感の格好よさに、ついクラクラ。シアターコクーンにおいては、藤原竜也の「ハムレット」以来の四方囲みの舞台装置も斬新だった。新鮮なキモチで、130年の時を越えることができました。。
1位 「夏祭浪花鑑」 (6・22 渋谷コクーン歌舞伎)
 見る前から期待度は高まるばかりでした。何といっても「2004 てんこてん・殿堂入り」の演目なんですから。2008年は、歌舞伎の演目では、ほかにも浅草寺境内での「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」や「法界坊」など傑作揃いで、どれもが拮抗する素晴らしい出来でした。
 今までに、コクーンで2回、大阪で1回、ニューヨークで2回見ていて、これで6回目なんですよね。今回はドイツ・ルーマニア凱旋公演。ベルリンでは3時間半、シビュウでは2時間という公演時間が、今回のコクーンは過去最短の2時間半バージョン。毎回進化していく過程を見てきた中で、本作は過去最高と思われます。短くなったことで、ストーリーにパンチが効いて、非常に分かり易くなった。
 主人公・団七九郎兵衛の喧嘩っ早い、でも義理と人情に厚い情熱的なキャラクターがさらに浮き彫りになりました。同時に徳兵衛の、一回会ったきりで義兄弟の契りを交わす嗅覚のよさと、まっしぐらな性格も分かり易かった。七之助のお辰には、まったく涙が出た。顔の綺麗な女性が、逆コンプレックスに苦悩し、自らの存在意義を顔に焼け鉄弓をあてて証明する、という究極の選択。「美人はいいよね、得だしさ~」というくらいの表面的な見方しか出来ない思想は、貧相。みんなで反省しましょう。
 さて、泥場。わりと小ぶりの泥の池。しかし、その中にどっぷり浸かった笹野高史さんの細身の体は、悲しいほどに生命力をたたえ、切られても切られても、なお義理の息子の団七九郎兵衛にしがみついていく。黒子が役者の動きどおりに、面(つら)明かりを手に持って移動していく。その動きが何ともドラマチック。一幕目の最後に、いっせいに面明かりが炎を出して燃えて、一瞬のうちに闇から真昼の祭のシーンに変わるあの瞬間が一番好きだ。はしごの殺陣もミニチュアセットのシーンもコンパクト。勘太郎が、捕り手の役人役でキレの良いうごきを見せる。思わず「ひざは大丈夫なのか?」と気になる。
 ラストシーン。ベルリンの壁とベンツのパトカーは凱旋公演ならではの趣向。毎回毎回よう考えるわいなあ。カーテンコールで涙が止まらなかった。ここにいてよかった。これが見たかった。こんなキモチにしてくれる「夏祭」にあらためて感謝します!ありがとうございました!!!

編集員 モモンガ【編集員 モモンガ
てんこさんのベストテンだから、『てんこてん』
なんと この『てんこてん』も、数えること9回に!
・・・ということはっ!
てんこてんの Ten(10)th アニバーサリー♪も目前に迫ってきました~!
来年は・・・・てんこてんてん・・・あれ、てんが何回?