アナマガ

どちらかというと シッカリ書きたい人のためのコーナー 10年以上の渡り、続いてきたアナルームニュースの中で 好例の連載企画を「コラム」という形で集めました。 個性あふれるラインアップ!ブログとはひと味違う魅力をお楽しみください!
アナルームニュース 2007年12月18日号

みなさま 大変ご無沙汰しておりました。
いい加減書かないと、バックナンバー自体が削除されそうだったので(?)、自称待ちに待った新作です。
タイトルは「僕は平日何をやっているのか?その、馬編」です。
だから、今回も馬のハナシです。
舞台は茨城県の「日本中央競馬会 美浦トレーニングセンター」。通称、美浦トレセン。

土浦駅からタクシーで実に5000円以上、霞ヶ浦にも近いこの広々とした地に馬のトレーニング施設が出来たのが、昭和50年代初め。それ以前は、東京競馬場とか、中山競馬場のすぐ脇に馬と人は暮らしていたのです。(今でも、東京モノレールに乗ると「大井競馬場前」駅付近に、似たような景色を見ることができます。)
ここが一番にぎやかになるのが、水曜日の朝。週末にレースに出る馬のほとんどが、この日に「追いきり」=本番前の一番強い調教を行うのです。この様子を見るために記者が一番多く集まるのが水曜日なんですね。僕も何回、ここに通ったことか。「うまなりクン」(むか~し土曜深夜放送)では、トレセン通いづめってニックネームがついていたこともありました…。

そうそう、茨城県ではありますが、このトレセンの近所には牧場がいっぱいあるの、ご存知ですか?これらの牧場は、生産はしません。つまり子馬やお母さん馬や種馬はいないのです。いるのは、トレセンに入るのが間近、あるいはレースを終えてちょっと外で休む現役馬ばかり。
簡単に仕組みを説明しますが、トレセン内は何軒もの「厩舎」が並んでいて、調教師という、厩舎の経営者がそれぞれにいます。そして、一軒あたりの馬房=馬が入る部屋の数が決められています。
だいたい18から24馬房。
調教師は、豊富に駒を揃えておきたい。例えばある馬が体調を崩してレースにしばらく出られない、なんてことがあった時、代わりに走ってくれる馬がいたほうがいいですよね。ゆえに馬房の数よりも多い数の馬をいろいろな馬主から預かり、管理しています。調教師によっては馬房数24に対して70頭くらい持つ場合も。
一方で、レースに出るには、当日トレセンの馬房から出発するのがルール。北海道の牧場から馬運車で直接競馬場に乗り付け、G1レースに出るなんていうのは、認められません。
となると、トレセンに置いておくべき馬は、臨戦態勢にある馬だけ、ということになります。ちょっと休んでまたレースに出られそうな馬は、近くの牧場に預けておいて、その間に別の馬が牧場からトレセンに入り、レースに出て、それが終わるとまた放牧に出て、さっきの馬がトレセンに戻る…このような、限られた数の馬房をいかに有効利用するか=馬の入れ替えの成否が、馬や厩舎の成績に大きく関係するのが、現代の競馬です。

まずはそうした入れ替え先のひとつ、ある牧場をご紹介しましょう。競馬用語では「放牧」と呼びますが、のんびり草を食べるなんてこと、許されません。そもそも足元に草なんて生えておらず、牧歌的な雰囲気ゼロ。トレセンにいる時同様の体を維持するためのトレーニングを続けて、調教師からお呼びがかかるのを待つ場所ですから。体力維持に欠かせないのがウォーキングマシンとよばれるこの機械。


衝立が風車のごとく、くるくる回っていきます。衝立を仕切りとして、最大で8頭ほどが一度に鍛えられるのですが、結構速い。人間なら、かなりの早足で進まないと後ろから衝立が追ってくる…。

これを午前午後、それぞれ一時間とかやってるんですよ、お馬さんは。でも、こんな馬もいました。
今年ダービーで6着にがんばった「ゴールデンダリア」。9月に一度レースに出たあと、ここから動くことができません。実はひづめを…

爪が傷んでいるだけに見えますが、これが大事(おおごと)なんです。古くからの格言に、こういうのもあるんですよ。
「ひづめ無ければ馬無し」。
いかに大事な部分かわかるでしょ。動けないのに食欲はある。寝藁(ねわら)まで食べちゃおうとするから、口にこんなものも着けられちゃってます。彼の復帰はかなり時間がかかりそう。様子を見て北海道に移し、じっくり治すそうです。

さて、話をトレセンに戻しましょう。
記者は前夜から泊まって、翌朝の取材に備えます。今は冬時間で7時調教開始ですが、真夏はなんと5時開始!駅からの距離も考えると、冬でも泊まらないとダメなんです。JRAの施設「筑波寮」。トレセンから道一本隔てたところにあるキレイな建物。ちゃんと一人部屋です。


さて、翌朝。不正行為防止のため、写真つきの入構証を見せないと敷地内には入れません。また、馬が最大4000頭暮らすので、動きが多い時間帯は車が入るのを制限して事故を防ぎます。

馬場は2つ、北と南に分かれていて、それぞれ何重にもコースが区切られていて、その間に厩舎がびっしり並んでいます。


開場に合わせて馬が門に殺到!

しかも今日はこの冬一番の冷え込み!馬に乗る人は完全防寒スタイルでした。そして7時。いよいよ調教開始です。ここからが大忙し。
こちらが調教を見るためのスタンド。

1階は騎手など、馬に乗る人と、馬場に馬を送り出して様子を見守る厩務員さんの部屋。2階は調教師が見守る部屋。どのコースでどのくらいのスピードで追いきるか、指示はすべて調教師から出ます。

3階からがいよいよ記者席。ここの特徴は、馬関連のブルゾンを着た人がやたら多いこと。

大きいレースを勝つと、馬主や厩舎で記念に作ることが多いのですが、おすそわけに預かる記者が、私も含め多し。ちなみにこの「ブラックホーク」号ブルゾンを着ているのは…

スーパー競馬解説者・競馬エイト吉田均さん!
吉田さんはすごいです。何がって、この手さばき。

双眼鏡で馬を見ながら、その馬が追いきりを始めたと見るやストッブウォッチを押して、ラップ毎に書き込んでいきます。これを何十頭と連続してやるんですよ~。
もう一つ上に行ってみましょう、4階です。


ここはカメラマン、そしてわれわれテレビ関連。僕も学生の時買った「マイ双眼鏡」で馬をチェック!

…ってどれをどう見つけるか。

競馬場と違い、馬は名前が入ったゼッケンをつけていません。このゼッケン表を見て、名前を確かめてるのです。他にも厩舎の調教パターンとかで見分けることもありますが、それは毎週通わないとかなり辛い。
さて、調教を終えた馬たちが馬場から帰ってきました。

乗っているのは横山典弘騎手です。


ここから厩舎に帰る前に、バトンタッチ。
今度は厩務員さんが跨って引き上げていきます。
たいていの厩務員さんは2頭を担当、つまり一頭が調教し終わって体を洗って、飼い葉をあげたら、休み無く次の担当馬の調教の支度に入ります。

騎手は時間がダブらない限り何頭でも乗ります。若手だと5,6頭くらいの調教を次から次へとこなして元気をアピール。上手くいくと「じゃあレースも乗ってくれ」…と言うのは、騎手の世界はかなりシビア。調教に乗っただけで本番のレースは別の(トップクラスの)騎手が乗っていることも少なくありません。調教をつけることは営業も兼ねた仕事なのです。
この時分になると日もだいぶ高くなってきました。こちらの馬たちは第2陣、厩舎の中でゆっくり歩かせウォーミングアップ、この後馬場に入ります。
スタンドには食堂もあります。そばやうどんから、他におにぎりやサンドイッチもあり、みんな忙しい合間をぬってかき込みます。
でもレースに向けて減量が大変な騎手は、まだ週の半ばなのに「半盛り」にしたり、まったく食べなかったり…やっぱり大変な職業ですよ。


さて、ここまでお読みいただいて「あれ、お前番組に直結する取材はできているのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
ではインタビュー取材風景!大勢の記者にも囲まれ…
後藤浩輝騎手。この週のG1、人気馬アポロドルチェで臨むも結果は残念。いつも愛馬を熱く語ってくれるいい男です。
騎手だけではありません。馬を馬主さんから預かる調教師さんのところにも伺います。この日は、2週間後に迫った有馬記念で引退となる、ダイワメジャーについて。


この方、上原博之調教師も、こちらの不勉強な質問にいやな顔一つせず、いつも親切に応じていただきました。お馬さんは…

噛みついてくるほど至って元気。最後のレース、悔いのない走りをしてほしいですね。
馬場の解放はお昼まで。厩舎に帰って飼い葉を食べた馬たちは、しばし休憩。この後夕方にも「引き運動」~上に人は乗らず、厩舎の周りを引かれて歩くこと~をする場合もあります。

僕らテレビの取材は昼で終わる場合がほとんど。しかし競馬新聞の記者さんはまだまだ!馬を見た後は人に聞け!とばかりに厩舎スタッフに取材を続け、それを何軒もハシゴすると夕方になるときもあるそうです。まさにネタは足で稼ぐもの。ましてや競馬の場合は馬券=実収入に結びつく場合もあるわけですから、真剣度が違います…。そして翌日、木曜日は週末のレースのエントリー締め切り日でもあり、競馬記者はこの時点で◎や○をほぼ確定させているようです。
ちなみにこのトレセン、茨城のほかに滋賀県栗東市にもあります。どちらの厩舎に属するかによって「関東馬」「関西馬」と区別するのです。おなじみディープインパクトは栗東の調教師さんに預けられていたから、関西馬でした。
どうです?馬という動物を毎日管理するために、しっかりしたシステムの下で競馬は運営されているんですね。
こうやって取材をしていると、縁のあった馬を応援したくなるのは人の常。でも競馬は10何頭で争うもの。たとえ取材した馬が絶好調に見え、騎手や調教師が太鼓判を押していても、当日の展開や、相手関係で負けちゃうシーンも数多く見てきました。中には「追いきり日と今日は雰囲気が全然違ってた(=悪くなってた)んだよ~」なんてコメントで、負けたレースを振り返る騎手もいるんです。そのくらい馬は変わる。そして結果について思い悩むホースマンたち…こうした風景を見るのもじつは楽しかった。同時に競馬の奥深さを見る瞬間でもあったのです。これからも僕と馬は切り離せないでしょう。自分なりの「こだわり」を持って、競馬を見続けたいと思っています。