新作映画をフランスで撮影 是枝監督に聞く日・仏の女優の違いとは?

7月20日(土)21時~23時30分放送『万引き家族』

是枝裕和監督

第71回カンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)を受賞、第42回日本アカデミー賞最優秀賞最多8部門受賞、第91回アカデミー賞(R)外国語映画賞にもノミネートされるなど、世界中で絶賛された是枝裕和監督の『万引き家族』が、このたび地上波で初めて放送となる。

是枝監督といえば、『そして父になる』、『海街diary』、『海よりもまだ深く』、『三度目の殺人』など、“家族”をテーマに多くの作品を描いてきたが、本作は、“家族を越えた絆”を描いた衝撃の感動作だ。

(C)2018 フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

キャストには、息子に教えられることは万引きくらいしかないという、甲斐性なしの父を演じるリリー・フランキー、家族が転がり込んだ平屋の家主である祖母を、是枝作品には不可欠な樹木希林が演じ、唯一無二の存在感をみせる。

(C)2018 フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

さらに母・信代役を安藤サクラ、信代の妹・亜紀役を松岡茉優が演じ、オーディションで選出された子役の城桧吏と佐々木みゆが無垢なオーラを放つ。特に安藤サクラは、その迫真の演技を、カンヌ審査員長のケイト・ブランシェットが絶賛するほどの演技力をみせた。

(C)2018 フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

今回、マスカットでは是枝監督にインタビュー取材を敢行、『万引き家族』誕生のエピソード、樹木、安藤など女優陣に対する思い、またカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらが出演し、10月11日に公開となる新作『真実』についても聞いた。

<是枝裕和監督インタビュー>

Q.『万引き家族』が地上波初放送ということで、あの家族がどのようにして生まれたのか、お聞かせください。

「年金不正受給」という実際にあった話を基にストーリーを考えたのですが、キャストはプロットの段階から樹木希林さんとリリー・フランキーさんを母と息子に想定して書いていました。母親役は無条件に希林さんしかいない、と思っていましたし、リリーさんに関しては、平気な顔でちょっと悪いことをやってのけるちゃっかりした小悪党、みたいな役がうまくて似合うなぁと以前から感じていたので…。決してご本人自身がそういう方、というわけではなく、役柄の話ですよ(笑)。

安藤サクラさんは、ある日、偶然街でバッタリお会いして少しお話をして別れた後に、リリーさんの奥さん役にどうだろう?とひらめきました。当初はもっと年上の女優さんを考えていたんですが、リリーさんの横に安藤さんがいるのを想像してみたらすごくしっくり来たんですよね。松岡茉優さんの役は、最初はもっと地味で平凡なキャラクターでしたが、彼女を起用したことでどんどん幅が広がって、最終的にまったく違う、印象深い役柄へと脚本が書き替えられることになりました。

C・ドヌーヴの出演OKに「ビックリしました(笑)」

Q.日本の下町が舞台の『万引き家族』から一転、10月11日に公開となる新作『真実』は、パリを舞台に、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークが出演するということですが―。

実は、以前から僕の作品がフランスで公開されるたびに、いろいろな方々にフランスでの撮影のお誘いをいただいていたんです。ビノシュさんとは2011年に日本で開催したトークイベントで意気投合して、その後、京都に一緒に行ったりする中で『ぜひ一緒に映画を』という話になって。それならば…と、もともと日本を舞台にして書いていた脚本をフランスの母と娘の話にアレンジする形で『真実』を書きあげました。

そして、フランスで撮るなら、一番フランスで愛されている伝説的女優にダメもとでトライしてみよう、とドヌーヴさんにお声がけしたんです。ですから、OKをもらってビックリしました(笑)。本当に幸運だったと思います。

フランスは大女優でも付き人やマネージャーの同行はなく…

Q.撮影の際に感じた、日仏の女優さんの違いや共通点といえばどんなところでしょうか?

日本は女優さんの周りに人が多いというのはありますが(笑)、撮影に入ってしまえば、特に違いは無かったですね。日本でもフランスでも、その俳優さんの傾向というものがあるので、それを掴めば大丈夫というか。例えばビノシュさんは、何度もテイクを重ねて自分が納得するまでいろいろな演技をしてみるタイプ。対してドヌーヴさんは、一度OKが出たらもう同じシーンは繰り返しやりたくないという、いわば飽きっぽい人かな(笑)。

Q.素顔のドヌーヴやビノシュはどんな方たちでしたか?

ドヌーヴさんは、意外に時間を守らなかったり、セリフを覚えて来なかったりしたこともあったんですけど(笑)、チャーミングで現場を明るくする太陽のような人なので、誰もが彼女のことをすぐに大好きになりました。ビノシュさんは今回、とても複雑な感情を抱えた役柄なんですが、そのキャラクターの内面を一瞬にして表現する繊細な演技を見せてくれて圧倒されました。あちらの俳優さんたちは、みんな、付き人も無しで自分一人で撮影に来るんですよ。

Q.マネージャーもいないのですか?

そう、日本とはシステムが違うんですよね。みんな自立した大人で、成熟したプロフェッショナルという感じがしました。あ、ドヌーヴさんは犬を連れて来ていたので、そのお世話をする係の人がいましたけど(笑)。

日本の撮影の常識はパリでは通用しない!?

Q.今回はパリで10週間の撮影だったということですが、苦労されたことは?

柔軟なスタッフとキャストばかりでしたし、完璧な仕事をしてくれる日仏通訳の方がいたので特に苦労はなかったんですが、なかなか慣れなかったのは、あちらでは完全週休2日制の土日休みで、1日8時間しか撮影できないという決まりがあったことです。日本では撮れるだけどんどん撮ろう、という感じで撮影してしまうことが多いので、どうしても物足りなく感じてしまって。「まだ投げられるのに…」と100球制限された野球のピッチャーのような気持ちでしたね(笑)。

でも、日本のスタッフたちがいかに日頃、大変な思いをしているかが分かりました。僕自身は、働くことに何の疲れもストレスも感じないのでつい、いつまでも作業してしまいがちなんですが、僕が休まないとみんなも休めないんだから、と改めて反省しました。

Q.ここ数年、世界各国の名だたる映画監督たちが「好きな日本の監督」のトップに必ずと言っていいほど是枝監督の名前を挙げています。

優秀なスタッフたちが世界各地で僕の映画を上映できるように頑張ってくれているおかげで、ありがたいことです。でも、あまり僕の作品だけが日本代表のように注目されるのもどうかな…と。今、ヨーロッパなど海外で、日本映画が上映されるチャンスがすごく減ってきているんですよ。もっといろいろな監督の作品も広く観てもらえるようにならないといけないと思っています。

是枝作品“常連”樹木希林さんの存在

Q.そして、是枝監督作品と言えば樹木希林さんが欠かせない存在です。『万引き家族』など6本に出演されていますが、監督にとってどんな女優さんでしたか?

作品づくりに関して、とても厳しい方です。ですから、僕がちょっとでも手を抜いたら、すぐに見抜かれて、見離されてしまうなといつも思っていました。常に真剣勝負で仕事するためには、本当にありがたい存在でしたね。

Q.希林さんが今、お元気だったら『真実』をご覧になって何とおっしゃったでしょうか。

ああ、それは考えたことがなかったな…。何て言うだろう。「ドヌーヴさんはどんなだった?」なんて、ニヤッと笑うかも知れないね。

インタビュー:藤野貴子(映画ライター)

(C)2018 フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

番組概要

土曜プレミアム 映画『万引き家族』

<放送>

7月20日(土)21時~23時30分放送 ※20分拡大

<出演者>

リリー・フランキー 
安藤サクラ
松岡茉優 
池松壮亮 
城 桧吏 
佐々木みゆ 
緒形直人 
森口瑤子 
山田裕貴 
片山萌美
 ・
柄本 明
高良健吾
池脇千鶴
 ・
樹木希林

<スタッフ>

監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣

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