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- 小室:
- はい、今週からですね、1ヶ月間、こういったスタイル、近田春男さんと二人でですね、この真ん中のコーナーをちょっとやりたいと思うんですが。えぇと、じつは前回、半年ぐらいですかね?
- 近田:
- そうだね。
- 小室:
- 半年ぐらいお世話になっちゃってですね。
- 近田:
- いえいえ、とんでもない。
- 小室:
- いろいろ面白いトークをしていただいたんですけども。あの、帰りの、いつも行きとか飛行機で、週刊誌でたまにパラパラと読むんですけど、近田さんの読んでて、「会いたいな、会いたいな」とずっと思ってて。
- 近田:
- 本当? 頭に来てたりしたんじゃないの? そんなことない?
- 小室:
- いや、ぜんぜん逆です。
- 近田:
- あ、本当? 良かった。
- 小室:
- まったく逆です。
- 近田:
- 当たってたとこもあった?
- 小室:
- 「すっげぇ! 当たり、当たり、当たり」で。
- 近田:
- 本当? おぉ、やった、やった。
- 小室:
- 全部、丸付けてですね、っていうぐらいでですね。これはもうお会いして、絶対まず一回「当たってます」っていうのだけ一言でも言わないとと思って。今回短かったんですけど、滞在は。その間に会えるかな? と思ってて。で、こう実現したんで良かったんですけども。
- 近田:
- 僕もなんかね、いつも曲聴いててさ、何か感じることがすごいあって。ほら、人の作ってる曲ってさ、なんか時々わかる時ってあるじゃない。でも、まったくわかんない人もあるんだけど、「なんか、これってすごい魂の叫びなんじゃないかな?」っていつも思ってて、それがすごい気になってたんだ。
- 小室:
- まず、間接的に時々は聴いてくれてるっていう話はね、聞いたことあったんですけど。でも、まさかね、ちゃんと聴いてもらってるとは思ってなかったですよ。まず、邦楽、洋楽っていうこともありますけど、そんなに日本のもので自分のプロデュースされてるものであったりとか、その関連のはね、聴かれると思いますけど。まったく関係ないので、「あ、こんなに聴いてくれてるんだ」って、それはまずびっくりしたんですけども。それから、さらにプラスここまで読んでくれるかっていうのがあったんで、すごい面白かったですね。
- 近田:
- あ、そうか。
- 小室:
- だんだん外の世界というか、自分のクリエイトの場所からの外の部分からの意見とか。意見とまではいかないですけど、単純な話、感想とか聞く機会は、もう本当少なくなってますから。
- 近田:
- そうだろうね、それはね。
- 小室:
- どんどんどんどん中に入っちゃってますから。よく「マーケットリサーチがどうのこうの」っていうようなコメントをですね、受けることもあるんですけど。まあでも、ほとんど僕の場合そういうことない。バーチャルっていうよりは、もう勝手な自分の内向的な世界ですからね。
- 近田:
- そうだと思うんだ。なんか本当にどんどんスケールが大きくなってって、もう作ってる部分ってすげぇ個人的なことなんだろうなと思って。そこんとこにね、やっぱりすごい興味があったんだよね。「どんな感じなんだろうな?」と思って。
- 小室:
- どんどん個人的なことになってきますね、そういうのはね。個人的なことプラス、さらに思い出すっていうか。なんか、なんて言ったらいいのかな? 去年、globeのビデオを撮影した時に、アリゾナ行って、崖の上にピアノを置いて、一人で弾くシーンがあったんですけど、ヘリコプターがエンジントラブルで、40分、迎えが来なかった時があるんですよ。で、200km四方、人が一人もいない状況で。だから、ピアノと俺だけっていう状況が一回あって。その時に考えた時に、やっぱりいろいろ思い出す感覚っていうのが。「そういえば、あの時こうだったな、ああだったな」っていう時に、ピアノしかないんで、遊ぶものが。時計も無かったですし。その時、「あ、今の詞の作り方、こういうふうに作ってるのかな?」って自分で確認した時があったんですけど。何となく今、全体的にいつもそうで。まあ、刺激求めるとしたら、まあ近くにいるマークとかに、逆に「ちょっと遊んできなよ」とかいって、それで話聞いたりとか、そんな感じぐらいで。
- 近田:
- でも、あれでしょ? 小さい頃からさ、詞を作ろうっていうことで音楽やってたわけじゃないわけでしょ? どっちかっていうとキーボードっていうかさ。
- 小室:
- ぜんぜん夢にも思わなかったですね。
- 近田:
- でも、最初に詞を書いた時っていうのは、どういったことで?
- 小室:
- えぇと、最初は、まあ簡単に書く人が周りにやっぱりいなかった。
- 近田:
- いないっていう。やっぱりそこだろうね。それ、わかるんだ。結局なんか、人に書いてもらっても、どうしてもしっくりこないとか、そういうことがあったんじゃないですか?
- 小室:
- そうですね。バンドをやってても、やっぱりみんなギタリストやドラムやヴォーカルやみんな。ヴォーカルの人も、そんななんか後回しでしたよね。なんか洋楽がみんな好きですから。
- 近田:
- ああ、みんな僕らって、結局そういうとこから入ってるからね。
- 小室:
- 「まず、詞だろう」っていうフォークの人たちとは、ちょっと違って。まず、詞の中味を考えるよりは、ロンドンブーツの高さをどうするとかっていうほうが大事で。
- 近田:
- あと、音のカッコ良さとかね。
- 小室:
- もう、当日まで詞なんか無いことたくさんあったし。どうせお皿というか、形に残ることってあんまり考えてなかったですから。ステージのことだけだったんで、まあ、なんか歌えばいいやっていう。すごいそこらへんは後回しになってましたから。結局それがそのまま来ちゃって。いざ「売らなきゃ」とかっていう時に、詞は大事なんだっていうのを、そこで初めてディレクターの方であったりとか、レコード会社の人たちにやっとそこで「詞はどうすんの?」って聞かれて。それからですね。
- 近田:
- そうだよね。ちょっと前までそういう洋楽的なものって、詞は本当に後回しな時代がずっとあったもんね。だけど、そうやってさ、最初はそういう形でスタートしても、やっぱり僕から見ると音楽もさることながら、やっぱりその詞の面白さっていうのがね、小室哲哉っていうものの魅力の中の核になってると思うんだけど。自分でもやっぱり、そこらへんっていうのは、あるところからけっこう重要に意識するようになったんでしょ?
- 小室:
- あるところから、そうですね。TMやってる頃は、自分が詞を書くとしたら、せいぜいそれこそアーサー・C・クラークとか、ああいったSFの世界、せいぜい中学生の時に読んでた本ってSFばっかりだったんで。
- 近田:
- あ、SF好きだったんだ。
- 小室:
- SF好きだったんです。SFオタクですから、ほとんどSFばっかりで。
- 近田:
- 俺もけっこう好きだったな。
- 小室:
- そういう世界をきっとシンセの音と合う世界っていうのを日本語で考えたら、そういうとこなんだろうなと思ってて。そういうのを得意にしようとか、なんか勝手に踏んで決めてたんですね。で、ある時からですね。やっぱり華原やりだしてからですかね。
- 近田:
- え? そこらへんからなんだ?
- 小室:
- ええ、だと思いますけど。
- 近田:
- あ、そうなんだ。
- 小室:
- TRFの途中でもありますけど、TRFの途中でも「みんながカラオケとか歌う時に、なんか一言二言覚えてもらっときたいな」っていう言葉っていうのはあったりして。何曲かはあります。篠原涼子であったり、TRFの何曲かであったりっていうのはありますけど。本格的に詞をちゃんと完璧に、聴く女の子が最初から終りまでわかってもらうように考え出したのは、やっぱり朋美くらいからですね。
- 近田:
- ああ、そうなんだ。それは意外だったな。俺は、もっとなんか、もうちょっと前ぐらいから、そこの部分にすごいカッチリしたものがあるのかと思ってたんだけど。
- 小室:
- まだTRFであったり、そこらへんとかの時は、それは今お話した洋楽のエッセンスをどこまでなんて言うんですかね? 届くようにしとくかっていうか。全くなくなっちゃうと、やっぱりやってる意味がなくて、自分の中に。といって、あんまりそこまで歌詞考えちゃうとっていう、その戦いがあったんで。まあ、とにかく1〜2行、1〜2フレーズ残ればいいっていう感じだったんですけど。意外と吹っ切れたのは、そうですね、やっぱり朋美の作り出してからですね。
- 近田:
- じゃあ、そこらへんからバンバンいけるようになっちゃったんだ。
- 小室:
- そっからはもう、なんか完璧に女言葉で。最初からもう、1行目から「私はね」みたいに書けるように。
- 近田:
- あ、それまでは、やっぱり照れがそこらへんに?
- 小室:
- あって。
- 近田:
- 最初はあるよね、詞ってね。人に見せるの嫌だもんね、最初。
- 小室:
- そうですね。それでもう、まさにこのあいだの週刊文春とかもそうで、安室とかやっぱりイントロがきて、一発目の言葉で「私」って書けないところっていうのがあって。そこの葛藤っていうか、戦いはずっとありましたから。
- 近田:
- 今はもう無いんでしょ?
- 小室:
- 今は、分けてますね。
- 近田:
- あ、分けてる。その感じはすごくわかるよね。
- 小室:
- すごくはっきり分けてますね。それで、その役割分担っていうか、そういうとこでは「朋ちゃんはこういうことやってもらおう」「奈美恵ちゃんにはこういうのやってもらおう」とかっていうのは、自分の中で、詞の世界ですけど、それは、分けさせてもらってて。
- 近田:
- でも、一曲の詞を作るのって、けっこうパッと出来ちゃうんでしょ? 今。
- 小室:
- うーん? テーマが出来てれば。
- 近田:
- よくテーマが見つかるよね、パッとね。そこにいつも感心しちゃうんだよ。
- 小室:
- テーマはでも、そうですね、だんだん減ってますけどね、もちろん。
- 近田:
- まあ、減るだろうけど。それにしてもさ、詞ってさ、テーマが見つかればさ、あとはけっこう何とかいくでしょ。
- 小室:
- そうですね。
- 近田:
- そこのだから、まずはそこの一言っていうか。これは何についての歌なんだっていうのを、パッといつも本当にウマくつかんでるなって思って。
- 小室:
- このあいだのglobeのアルバムの時とかは、すごくテーマをまず探しといて。で、詞を書くの楽しみだったんですよ。テーマを探しといたんで。「あ、これは絶対にプリクラの詞にしよう」とか「これは煙草の曲にしよう」とかっていうので、もう幾つも決めといたんで、すごく楽っていうか、それを埋めてく作業はすごい楽しかったですね。そういう意味では楽ですけど、逆に奈美恵ちゃんの今回のアルバムとかっていうのは、そういうのは。あの子の場合はそういうの難しいんですよ。
- 近田:
- 安室奈美恵の場合は、どういうとこですか?
- 小室:
- 彼女自身、「何に凝ってんの?」って、最近の言い方でいうとマイブームですか、っていうのはすごくない人だから、これといって。
- 近田:
- やっぱり本人にいろいろリサーチはするんだ、そうやって。
- 小室:
- 軽くはやってるんですけど。でも、べつにこれといってっていう感じだから。仕事がっていうか、エンターテイメントが好きな人ですからね。すごい同化しちゃってて、私的なことっていうを探すのがすごい難しいんですよ。
- 近田:
- そういう場合は、想像して作ってる?
- 小室:
- そういう場合は、「じゃあ、どうせ同化しちゃってるんだったら、あなたも個人もパフォーマーっていうか、エンターテイナーになっちゃいましょう」みたいなところからなんでね。
- 近田:
- やっぱりそのアーティストのイメージっていうものがまずあって?
- 小室:
- そうですね。すごくそういったプライベートであったり、パーソナルな部分が出たほうが、その人が光る場合と、ぜんぜん「これくらい読んでも私、わかんないです」っていう人もいますからね。
- 近田:
- あ、そういう場合もあるんだ。
- 小室:
- そういう場合もありますからね。
- 近田:
- そういう場合でも、それは強引にプロデューサー的に「大丈夫だから」っていうほうが多いの? それとも「ああ、そうか。じゃあマズいな。やめようか」っていう?
- 小室:
- そうですね。まずやっぱりそこは確認を取りますね。「きっとこういうことって経験ないと思うんだけどさ」って。
- 近田:
- あ、そうか、そうか。先に振っとくわけね。
- 小室:
- 「多分、こういうことはしないと思うんだけど」とか。
- 近田:
- そういう一言があるとないとじゃ、ずいぶん違うだろうね。
- 小室:
- そうですね。そこでは「女優さんみたいに」とか、「俳優さんみたいに」ってなりますよね。「今回、この曲を演じますか?」っていう感じなんですけどね。まあでも、そうですね、それもありますけど、まずそれよりも自分の中で勝手にテーマを探す作業がやっぱり先でしょう。
- 近田:
- じゃあ、そういうテーマ探しっていうのは、普段の日常でもけっこう休まずに何となく考えちゃうっていうことなのかな?
- 小室:
- テーマを探してるか、幸いハプニングがけっこう起きてくれるっていうか、いろいろあるから、それで助かってるところはあると思うんですけどね。「今日も一日、平和に過ぎたなぁ」っていう日がないですからね。
- 近田:
- まあ、それはそうだろうね。だから、あれだよね、例えばそういう小室哲哉ぐらいになると、その日常自体が普通の人にとっては、多分もう非日常みたいなもんだと思うんだよ。だから、言ってみればあれだよね、日記を付けてけば、それがもう詞になるようなとこまできてるよね。
- 小室:
- もう全くその通りですね。
- 近田:
- だから、そこがね、僕らなんか見てて楽しみっていうかさ。楽しみって言っちゃ悪いんだけどさ、これからどうなるんだろう? っていうのが常にさ、僕なんか好奇心としてね、もってて。自分ではどうですか? これからそういう意味で。ネタがさっきちょっと、少しは減ってきてるって言ってたけども。
- 小室:
- 減ってきてるとは思うんですけどね。
- 近田:
- あと、だんだんほら、だんだん年を取ってくるわけだから、そこらへんの関係っていうのは、詞に何かやっぱり影響がこれから。
- 小室:
- 影響あるでしょうね。で、ギリギリ今は小学生の子でも何となくわかる部分もあって。で、僕より上のオジさんたちにもわかる部分があるんで、ギリギリ助かってますけどね。どっかでまず、一段落するんでしょうね、まずは。もうちょっとだと思うんですけどね、自分の中では。とりあえずどっかでまとまらないと。このまま続かないと思ってるんで、なんか世界観みたいのがね。あ、まとめますか? あ、じゃあ、今月じゃないや、今週はこのぐらいで。来週になります。
- 近田:
- あ、じゃあ、また楽しみにしてます。
- 小室:
- 多分、服は一緒ですけど。
- 近田:
- そうですね。
- 小室:
- はい、えぇと、近田さんも基本的にはキーボードを。
- 近田:
- 元々そうだよね。
- 小室:
- ですよね。でも多分、僕よりも鍵盤のこだわりの部分の、まずとりあえず置いといて。サンプリングであったりとか、まあ、打ち込みもそうかもしれないですけど、とかに旅立たれたのは先だと思うですよね、ぜんぜん。
- 近田:
- それは俺のが年上だからね。
- 小室:
- 僕は、案外こだわりがずっと残ってて。
- 近田:
- あ、弾くっていうことに?
- 小室:
- 弾くっていうことに。
- 近田:
- 今でもちゃんと弾いてるもんね、だって。
- 小室:
- 今でも弾いて。打ち込み自体も、ドラムなんかにしても、未だに鍵盤で弾いてるんですよ、全部。
- 近田:
- ああ、鍵盤に音をアサインしてそれをやってって。
- 小室:
- パッドとかは使わないで、もう未だにほとんど。で、ループも鍵盤に全部アサインっていうか。全部ティンバーのっけて作って、ディスクごとに。一個の鍵盤でこれって入れて、全部、鍵盤なんですよ。で、べつに僕、クラシックでピアノ習ってたわけじゃないんですけど、こだわりがあるんで。多分、近田さんのほうがそこらへんは、それを離れてっていうのが出来てると思うんですけどね。
- 近田:
- そうだね。僕は、やっぱり自分でピアノ弾くっていうことにね、もう限界を最初に感じちゃったからね。それで、すごい僕、若い頃はまだほら、今みたいなそういうシークェンサーとか無い頃だから、なんでも手弾きでやらなきゃいけない時代ってあったでしょ。そうすると、レコーディングされたものを聴くとひどわけよ、自分のパートが。もう、自分て一番わかるじゃない。だから、「これはもう絶対に音楽は無理だな」って思ってた時代もあって。そういうことがあったから、打ち込みとかそういうことが可能になっちゃったら、「あ、これはもう証拠が残んないからいいや」と思ってね、もうそっちに切り替えちゃったんだけど。だけど、やっぱり僕もね、ドラムなんかも結局は鍵盤でやるし。結局その鍵盤でやるほうが、便利はずっと慣れちゃってるから便利だからね。そこは僕も同じだね。
- 小室:
- そうですか。なんかそうですね、待ってる最中、ラックに入ってるね、あれの状態で待ってるのが僕なんかダメで、けっこう。ずっと音が鍵盤押せば鳴ってるような状態じゃないと出てこないんですよ。それで、ずっとラックいじってっていうのはダメでね。
- 近田:
- 音作りも自分でやったりするんでしょ?
- 小室:
- 自分でもやるんですけど、鍵盤に付いてるシンセじゃないとけっこうダメで。
- 近田:
- いわゆるラックのやつは、全部嫌いなんだ?
- 小室:
- あんまりダメなんですよ。
- 近田:
- 僕も基本的にはそうだよ。僕もね、だからね、わりとね、オール・イン・ワンのシンセっていうか、中にシークェンサーの入ってるやつあるじゃない。あのシークェンサーで作っちゃうこと多いんだ。
- 小室:
- あ、本当に?
- 近田:
- 僕だって、Macとか使わないもん。
- 小室:
- あ、そうですか。
- 近田:
- 僕ね、基本的にどこの会社のでも大体16トラックぐらいのさ、入ってるでしょ。全部それでだいたい済ますようにしちゃってるの。
- 小室:
- あ、じゃあ似てますね、ほとんど。僕の場合もそうです。最終的には、スタッフが。
- 近田:
- 打ち変えるんだ。
- 小室:
- 打ち変えっていうか、「お願いですから、まとめさせといて下さい」って。
- 近田:
- あ、それは言うよね。
- 小室:
- 後で言われて。「あれ? どうしたっけ? あのデータ」って言って探せないんで。だから一回、どこでもいいんですけど、RolandならRolandの何でもいですね、XPでも何でもそのシークェンサーで僕が勝手に弾いて。それでそのデータを最終的にスタッフが後で流し込んどいて、まとめとくっていう感じで。
- 近田:
- あ、じゃあ、最初の作り方は一緒だね。
- 小室:
- そうですね。
- 近田:
- 今はじゃあ、そのメインの鍵盤って何を使ってるの? XP?
- 小室:
- ここんとこはそうですね、RolandのSPとか、JPとかが。その前はもうJDがずっとで。まあ2〜3年、ここ何年かの自分のヒット曲って、ほとんどJD800です。
- 近田:
- JD800で作ってたんだ。
- 小室:
- ほとんどそうですね。
- 近田:
- あ、そうなんだ。
- 小室:
- それとあと、トリニティ。……すごいマニアックですね。
- 近田:
- ああ、僕はね、ずっとENSONIQ使ってたんだ。
- 小室:
- あ、ENSONIQも使ってますよ。それとドラムはSR。
- 近田:
- SRって?
- 小室:
- あ、ENSONIQの。
- 近田:
- あ、ENSONIQのSR。ああ、あれか。
- 小室:
- サンプリング系のですけど。
- 近田:
- あれはラックのやつだよね。
- 小室:
- いや、あれも鍵盤のを探してて。
- 近田:
- 鍵盤のを使ってるんだ。それは珍しい人だね。あれはだいたいね、あれはラックのほうを使うもんね。
- 小室:
- 未だにだから僕のスタジオ、鍵盤は最低でも12台ぐらいは並んでますよ。
- 近田:
- それがすぐに弾けるようになってんだ?
- 小室:
- 全部。もうリック・ウェイクマン状態ですね。
- 近田:
- それが本当言うと、いちばん理想なんだよね。ただな、俺のとこ、そんなに広くないから。やっぱりしょうがないからさ、「この鍵盤を使いたいんだけど、これは片付けなきゃいけないな」とかさ、けっこう悩みがあるんだけどさ。
- 小室:
- で、もうザーッと鍵盤を並べて、本当もうイシバシ楽器状態ですよ、昔の。全部並んだまんまですよ。で、全部鳴って、それで全部MIDIでマージするのも嫌いなんですよ。
- 近田:
- ああ、わかる、それは。わかる。
- 小室:
- これを弾けば、これがこのデータにそのまま行くようにっていうふうにして。
- 近田:
- それが一番わかりやすいもんね、自分ではね。
- 小室:
- 本当はね、わかりやすいんですけど。それもスタッフ的には苦労するんで。
- 近田:
- 他人は困るよね。本人はわかっててもね。
- 小室:
- 「とにかく、まとめさせて下さい」ってまとめてるんですけれど。だから、そうですね、基本的にはそういうところで、まだ古いタイプなのかもしれないですけど。
- 近田:
- やっぱり最初に覚えた頃の時代っていうのが、関係あるんじゃないかね。今の子たちって、最初からもっとコンピューターから入ってくるんじゃないのかね。
- 小室:
- どうなんですかね。まあ、それはやり方それで。でも、そのスタイルは、面白がられるっちゃあ、今また面白がられてて。「へぇー」っていうふうに思われるような状況はありますね。
- 近田:
- 僕、思うんだけどさ、こういうシークェンサーとかコンピューター使う音楽って、やっぱりどれだけ独特にその人のスタイルかっていうことがね、けっこう重要な時代になってきてるんじゃないかと思うんだ。だから、逆にそういう鍵盤楽器の中に入ってるシークェンサー使う人ってあんまりいないでしょ。
- 小室:
- いないでしょうね。
- 近田:
- でも、そうじゃないと出来ない、ある種なんて言うんだろう? スピード感みたいなものって、すごくあるような気がして。僕はなんかね、そういうところが日本のミュージシャンってわりと細かいことが得意でしょ。でもって、大雑把なところでね、ボンボンやれば、ああいうものが作る音楽って、これからもうちょっと出てくるんじゃないかなと思うんだ。
- 小室:
- 傾向はそうだと思いますよ。何でしたっけ? MPCでしたっけ? AKAIの。とか、アメリカの人は、欧米の人は多いですよね、未だにね。
- 近田:
- MPC、便利だよね。MPCも使う?
- 小室:
- MPCもまあ、たまに使います。あれはシークェンサーとしててですけど、使いますけど。あれも多分、みんなもやっぱり叩きながらどんどん増えてって、見えてくから楽なんだと思うんですよね、きっと。
- 近田:
- そうなんだよね。簡単だからね。
- 小室:
- 「まず、これが」って置いといて、っていうふうなことじゃなくて、どんどん耳で見えてくからだと思うんですよ。
- 近田:
- そうだね。そこが重要だよね。だけどあれでしょ? 全体を作った後さ、さっきチラッとなんか回ってない時に話したけどさ、編集でけっこう曲が、そうは言いながら最後には作ってくじゃない。そこは自分でやったりするんですか?
- 小室:
- いや、それはもう自分でやらないです。
- 近田:
- 「こうして」って言って?
- 小室:
- それはもうプロデュースでもなんでも、ディスプレイを見てやる人間にやってもらって。その間に、唯一そこですね。せいぜい飯食ったりとか、ちょっと話したりとかっていうことですね。
- 近田:
- じゃあ、編集に関しては「こうやっといて」って言って、出来たの聴いてやることもあるんだ?
- 小室:
- でも、まあ、向こうの奴らは「TKがフェードしろよ」とか、「やってよ」とかってやらされますけど、それは。レベル見たりはするけど。まあ、いちおう繋ぐことはやったりしますね。
- 近田:
- じゃあ、けっこう本当に、さっきたまたま「How to be a girl」で話したけどさ、けっこうそうやって編集で、ずいぶんいろいろ変えてる曲って多いわけなんだ?
- 小室:
- そうですね。まずだから、エクステンデッドヴァージョンみたいな感じで、だいたい6分から7分を目処で作って。で、最終的に「シングルはしょうがないね」っていうんで4分ぐらいにまとめて。
- 近田:
- いろいろ抜いたりして。
- 小室:
- 抜いてますね。ほとんど抜いてますね。
- 近田:
- っていうことは、最初っから例えばパート、パートで別に作ってて、後から寄せる曲とかっていうのもあるの?
- 小室:
- こともありますけど、だいたい逆で。イントロからエンディングまで、普通にDJスタイルなのかな。だんだんだんだん盛り上がるようにして、勝手に作っといて、リズム鳴りっ放しにしといて。で、後で切ってくっていうか。それこそ、それもあの近田さんが言ってたように、詞が「ここは無理だよ、作れないよ」っていうとこは、もうズボーンと抜いちゃって。
- 近田:
- あ、やっぱり。それってあるよね。
- 小室:
- サビ4回出てきちゃって、「4回もサビ作れないよ」って2回にしちゃって。で、2回分の詞でOKとかっていうことはありますね。
- 近田:
- そういう意味では、今の時代、本当に便利になったよね。
- 小室:
- そうですね、そこらへんは。だから、ある程度までCD買ってくれる人が、作るほうの考え方っていうか、作り方っていうのを読んでるところまで、ある程度までは来たんですけど。またここんとこ、またガァーンと許容範囲、想像範囲を超えられるテクノロジーって出てきたと思うんですよね。
- 近田:
- そうだね。
- 小室:
- 「どうせああやって、こうやって作ってんだよ」って、けっこう近いところまで来たんですよ、ある時期。読まれるっていうか。
- 近田:
- ああ、お客さんのほうでね。
- 小室:
- お客さんのほうで。「どうせこうやって、こうやって」っていう。で、ある程度ちょっと聞きかじりの話でも、「小室哲哉は、いろいろなところから寄せ集めコンピューターに全部入ってるんだよ。入ってて、これとこれを組み合わせれば出来るようになってるんだよ」っていう、なんか案外同じようなことわかっててるなって。またこっからね、今、急にバァーンとまた。
- 近田:
- そこって重要だよね。やっぱりさ、俺ね、昔ヒップホップにすごい興味があった頃っていうのは、どうやってあの音楽作ってるかわかんないところがあったんだよ。でも、なんかそれがわかっちゃったら、急に興味なくなっちゃったみたいなさ。こういう音楽って、そういうとこってすごい重要なんだろうね、きっとね。
- 小室:
- そうですね。けっこうそうですね。そういった解明するっていうのは、自分たちのほうが先に解明したいっていうのがあって。で、それがまたお客さんたちがわかり出したら、また次の謎のほうに入りたいっていうのあるから。
- 近田:
- それがいつまで続けられるかっていう、一つの競争っていうか、それはあるよね。
- 小室:
- あります、あります。それはありますね。
- 近田:
- だんだんしかも年取ると、ちょっとずつ億劫になってくることが多いじゃない。そこでやっぱりでもなんか、そこで次のこと見つけられる時ってさ、なんかすごく嬉しいからさ。だから、たまたまやれてるんだと思うんだけど。それはそうと、前から聴きたかったんだけど、ダンスミュージックっていうことにね、興味を最初に持ち出した頃っていうのは、何が一番大きな理由だったわけ?
- 小室:
- 僕は、えぇと、いちおう高校の時はけっこう箱バンとかバイトでやってたんで。
- 近田:
- あ、箱やってたの?
- 小室:
- ええ。
- 近田:
- うわ! 珍しいね、その年で。俺が最後ぐらいかと思ってたよ。どこでやってたの?
- 小室:
- 新宿もやってましたけど、どっちかっていうと下町のほうですね。
- 近田:
- 箱やってたんだ。
- 小室:
- もう本当に有名なとこじゃないですけど。
- 近田:
- どんな曲の頃?
- 小室:
- もう完璧にモータウンです。
- 近田:
- モータウンやってたんだ。
- 小室:
- コモドアーズとか、クール&ザ・ギャングとか。
- 近田:
- あ、そういうのやってたんだ。
- 小室:
- アースは弾けませんでしたから。
- 近田:
- あ、そうか、そうか。
- 小室:
- だし、歌う奴もブラスも、全部何もかも全員出来なかったから。どっちかっていうとコモドアーズやクール&ザ・ギャングや。あと、単発のあそこらへんの。
- 近田:
- いわゆるディスコヒットという。
- 小室:
- ディスコヒットのボニーMとか。ボニーMぐらいから「あれ?」と思って。「これ、ちょっと違うな」と。僕なんかはわかんなかったんで、一緒だと思ってたんですよ。ボニーMなんかもモータウンだと思ってたんですよ。
- 近田:
- あ、その時に。
- 小室:
- その時に。それにしちゃあ、なんかリズムがやけにウマいっていうか、キッチリ叩いてるなぁとかって思ったら、「いや、これ機械だよ」って言われて。「え!? 機械なの? これ」っていう感じで。
- 近田:
- あ、あの頃やっとそうだよね。いわゆるなんかミュンヘン・サウンドとか、ああいう。
- 小室:
- ミュンヘン・サウンドですね。それで、それぐらいから、もうモータウンより、そっちのが興味持ち出しちゃったんですよ。それでジョルジォ・モルダー、まあ、ドナ・サマーですよね。それとかそこらへんに興味持ち出して。で、コモドアーズやるから、「マシンガン」やるから小室、シンセ一台持ってるでしょ、って言って呼ばれだしたような感じだったんで。シンセっていうのは、ああいう音の、ポルタメントができるような。
- 近田:
- いわゆるシンセっぽい音だね、あの時代の。
- 小室:
- あれのために呼ばれたりとかしてたんですけど。そこらへんのボニーMだったり、打ち込みがあってから、やっとシンセって違うことが出来るんだっていうのがね、思い出したんで、そうだね。からですね。
- 近田:
- じゃあ、あれなんだね、シンセっていうよりもシークェンサーっていうか、そこに惹かれたんだろうね。
- 小室:
- そこでやっとシークェンサーの存在を知りましたからね。
- 近田:
- ああ、それは僕と似てるなぁ。
- 小室:
- プログレとは、また。プログレの時にシークェンサーっていうのがもちろんあったのは知ってましたけど。
- 近田:
- あ、そのタンジェリン・ドリーム的に。
- 小室:
- あれと、ディスコサウンドっていうか、そっちのモータウンと結び付くまでは時間かかりましたからね。すごい時間かかって。「なんだ、一緒の器材なんだ」っていうの、そこでやっとわかりましたから。
- 近田:
- じゃあ、それはちょうどその時に好きなものの二つっていうものが、考えてみると今の時代の音楽にさ、すごい役立ってるっていうことだよね、それは。
- 小室:
- そうですね。両方なかったら今の形では出来なかったですね、ぜんぜんね。
- 近田:
- なるほどね。
- 小室:
- 両方だったんで良かったですけど。それで何だっけなぁ? Rolandの101でしたっけ? 100シリーズっていうんですか?
- 近田:
- SH-101?
- 小室:
- 101じゃないですね。いちおうユニットになってるシークェンサーの。
- 近田:
- シークェンサーの?
- 小室:
- ピンでね、差して。
- 近田:
- あ、あったね。ちょっと名前は思い出せないけど。
- 小室:
- 16音しか動かないやつなんですけど、あれだけなんとか買って。で、シークェンサーのリズムパターンだけはそれで作りだしたのが初めてですね。そしたらやっとヤオヤ(TR-808)が出てきたんですよ。で、ヤオヤでやっとシンクロの信号が出せるようにやっとなったんで。それぐらいからですね。
- 近田:
- そうとう歴史あるよね。
- 小室:
- そうとう古いですね、歴史的には。
- 近田:
- だけど、その箱やってた頃って、すごい子供だったわけだよね?
- 小室:
- そうですね。
- 近田:
- だって、俺もその頃、箱やってて。俺、20幾つで。25ぐらいだったから。10歳ぐらい違うでしょ。だから、十代でしょ。15〜6でしょ?
- 小室:
- 16〜17で「マシンガン」とか弾いてましたから。
- 近田:
- 俺もちょうど「マシンガン」が流行った頃は、ちょうど銀座のディスコで箱やってたんだよ。で、ちょうどさ、クラヴィネットとかがさ、けっこう高くて。でも欲しくて。どうしてもあの音しか出ないから買ったとか、そういう時代だったからなぁ。
- 小室:
- クラヴィネットは弾けなかったですからね。あのタッチがわからなくて、ぜんぜんやっぱり。
- 近田:
- その時のシンセは何使ってたの?
- 小室:
- その時はRolandですね。SHシリーズで。SH-3とかSH-1000、SH-5っていうのもそろそろ出たかもしれないですね。
- 近田:
- ああ、なるほどね。
- 小室:
- あと、KORGのなんかと。あとはYAMAHAのコンボオルガンですね。ただの普通の薄っぺらい。
- 近田:
- YCなんとかってやつ?
- 小室:
- そうです。
- 近田:
- あんまいい音しないやつね。
- 小室:
- そのぐらいですね、器材っていったら。もうそれで充分っていう感じで。
- 近田:
- そうか。僕はちょうどね、TMネットワークを解散するかしないかの頃に、けっこうレイヴのパーティーとかやってたでしょ。
- 小室:
- ええ。
- 近田:
- あの頃からね、妙に興味があったんだよ。
- 小室:
- そうですか?
- 近田:
- 「おお、けっこう渋いことやってんなぁ」と思って。で、そうこうしてるうちにTRFとかだんだん安定してきて。たまたまほら、僕はSAMと友達だったからね。
- 小室:
- あ、そうですか。
- 近田:
- だから「おお、渋い人選するなぁ」と思って。
- 小室:
- SAMを説得するの大変でしたよ、最初。
- 近田:
- あ、そう。嫌がったの? 最初は。
- 小室:
- 「この速さ、無理ですよ」ってまず言われて。
- 近田:
- まあ、そうだよね。ああいうヒップホップ系のテンポじゃないもんね。
- 小室:
- ええ。そしたら、じつはSAMって速いテンポって好きだったんですよね。
- 近田:
- あ、じつは。
- 小室:
- じつは。
- 近田:
- あ、そうなんだ。
- 小室:
- で、「EZ do Dance」って140なんですよ。で、「無理だ、無理だ、無理だ」って言ってて。で、それで「ビ・バップはやってるじゃない。あれ、幾つだか知ってるの? あれ、170ぐらいだよ。ヘタしたら200ぐらいだよ」とかって、ジャズダンス。「ぜんぜんそうですね」とかって感じで。
- 近田:
- あ、そうなんだ。それで急に。
- 小室:
- 「出来るよ。ステップぜんぜん踏めるじゃない」みたいな話もあって。そしたら案外ハマって。まあでも、あの頃からずっと、当分やっぱりニューヨークハウスみたいなほうに彼はやっぱりこだわってましたから。B.P.Mの問題はそれで解消されたんですけど。でも、そのテクノっていうことは、やっぱりすごい抵抗あったと思いますね。僕も抵抗ありましたし。
- 近田:
- テクノに対して?
- 小室:
- 自分が10年間ぐらいブランクありましたから、ぜんぜん。
- 近田:
- 箱の時から?
- 小室:
- 箱の時、もしくはYMO前ですよね、僕ら。YMO前で一度終っちゃってますから、僕の場合は、打ち込みというか。それでまたテクノっていうのが来てっていうんで。で、「いいの? こんな不響和音で」なんていうぐらいのことを思ってたぐらいで。そしたら結局、考えたらYMOのその頃もう一回聴き出したんですよ、「YMO聴いてみようかな」と思って。そしたらすげぇ、5度7度とか、もうメチャメチャ入ってて。で、「あ、これはやっぱり流石だな」って。そこで初めてなんですよ。そこでもう一回、「坂本龍一ってすごいこと考えてたなぁ」って。それから一回その後会って。
- 近田:
- 俺、テレビで見たよ、なんか。
- 小室:
- 「すごいカッコいいですね。これはやっぱり、ちゃんとした音楽理論かなんかやって、それをぶち壊そうと。まず一回、音楽理論全部わかって、ぶち壊そうと思うパワーがある人じゃないと考えないことだな」とか思って、やけに感心しちゃって、そこで。それから和音とかが、もうぜんぜんコードがサンプリングとかで動いちゃうじゃないですか。
- 近田:
- あ、平行移動しちゃう。
- 小室:
- 平行移動しちゃうじゃないですか。「もう、いいんだ」って、「もう、どうでもいいんだ」って思うようになって。
- 近田:
- どうでもいいんだよね、本当にね。
- 小室:
- そこからですね。やっと。だから、ぜんぜんヨーロッパ系のテクノの人とか、ああいう人たちが「あ、動いちゃった」って言って作っちゃってるのとは違う意味で、僕もやっとそこで割り切れたっていうか。
- 近田:
- それってなまじさ、ずっとキーボードやってるとさ、ちょっと抵抗があるんだよね。
- 小室:
- 抵抗があるんですよ。
- 近田:
- でも、それを乗り越えちゃうと、そのことがすごい楽しくなっちゃうよね。
- 小室:
- そう思いますね。
- 近田:
- それはすごいわかるよ。
- 小室:
- コードがあって、このまま手が動いたらいけないと思ったから。
- 近田:
- そう、だからついつい癖で直しちゃうもんね。
- 小室:
- 直しちゃうっていうのがあったんで。そこでだんだん、全くそういった音楽理論関係なくて、そういうツマミから入っていった人と、音楽から入ってきた人と、音楽なんとかそれをなんとかぶち壊そうとしてる教授みたいな人たちがいて。というわけで、だんだん一点に。
- 近田:
- なんか同じとろに。
- 小室:
- 行こうとしたんでしょうね。
- 近田:
- ね。アプローチは違うんだけど、行くところ一緒の感じだよね、そこはね。
- 小室:
- 行こうと思ってたと思うんですよ。本当それでやっとですよ、ここ何年か。1〜2年で、やっとみんな行こうとしてるところがわかってきてて。全員が気持ちよくなってきましたね、そのキーボーディストと言おうか、その機械屋の人たちで向かってる方向が。
- 近田:
- 本当にここ1〜2年で、すごく変ったよね。例えばちょっと前までだったらさ、本当に1シークェンスで音楽ずっとやってると、やっぱり退屈する人のがきっと多かったんだと思うんだけど。
- 小室:
- 多かったですよね。
- 近田:
- 今さ、普通にああいうゴアとかのパーティー行くと、若い子たちがぜんぜん、それこそどうやって情報をゲットするのかわかんないようなパーティーにさ、夜中に何百人も集まって、そういう本当にずっと繰り返しの音楽で楽しむような時代って、3年ぐらい前は無かったような気がするんだよね。なんかだから、ここ1年ぐらい、そういういい形で音楽に対する人々の質が上がってるような気がするんだ。
- 小室:
- そうですね。すごい楽になってきたっていうか、僕も嫌だったと思うんですよ、きっと前は。「ねぇ、もう変ろうよ、そろそろ。ここ、展開しようよ」みたいなのが、僕もそれよりは少し早めになくなってて。で、やっとお客さんもそうなってきて。いい感じにはなってきたと。
- 小室:
- はい。えぇと、でも思うんですけど、こういう機械の話と、一回目に話した詞の世界みたいなのと、両方話せる人ってすごい少ないですよ。
- 近田:
- あ、僕もそう思うんだ。
- 小室:
- すごいね、少ないんじゃないかと思いますね。
- 近田:
- 僕もまさに、その点ですごく興味があるんだと思うんだ。
- 小室:
- まあ、どっちかだけということはないですけど、ある程度重なってる人が、もちろん今の日本でプロデュースとかでちゃんと成立してる人だと思うんですけどもね。でも、両方に詳しい人っていうのは、なかなか少ないんでね。お話してて楽ですけどね、すごい。
- 近田:
- 俺もなんか、初めて会ったのにすごく楽なんだ。
- 小室:
- 話は楽ですね。何にも考えなくていいですね。
- 近田:
- そう。いちいち「こんなこと言ってもわかんないかな?」っていうのがお互いにないっていうのは楽だよね。
- 小室:
- 楽ですね。そういうのはすごい助かるんですけど。あの、先週のちょっと続きなんですけど、音がね、収束していくっていうか、ある程度は一方向に。
- 近田:
- ある方向性に行く。
- 小室:
- ええ、行くので。すごいわかり易すぎる話なんですけど、1ヶ月ぐらい前かな? ビルボードでプロディジーがね、アルバムで初登場1位になったんですよ。僕は、はっきり言ってね、「20位ぐらいかな?」とかって思ってたんですよ、何となく。出る出るで、マドンナとか、ビデオクリップの分だったりとか、いろんなことで話題が先行してたんで、間違いなく売れるなとは思ったんですけど。
- 近田:
- 1位とは思わなかった?
- 小室:
- 1位とは思わなかったんですよ。
- 近田:
- その時ってアメリカにいたの?
- 小室:
- ええ、いました。
- 近田:
- 僕はね、ずっと日本にいるから思うんだけど、「これは1位になるんじゃないかな?」って気が。なんか逆に「そういう時代だろうな」っていうか。アメリカもそうじゃないと今、ヤバいっていうか、なんて言うの? 古くなっちゃうなっていう気がしたから。
- 小室:
- 絶対そういう時代だと思ってたんですけど、その前のね、ケミカル・ブラザーズはもっといくと思ったんですよ。が、まあ、そこそこ。もちろん大ヒットなんですけど。で、僕もL.Aには見に行って。
- 近田:
- ケミカル・ブラザーズ?
- 小室:
- ええ、見に行ったんですけど。もうすごい盛り上がってて、「あ、きてるんだな」って思ってて。もうだいたい状況はわかってたんですけど、プロディジーでドーンと1位っていうのでね。「とうとうきちゃったな」とか思って。それで「どう?」っていうの向こうの人と話しして。「もう最高に気持ちいい」とか「カッコいい、カッコいい」とか「新しい」とか、もうぜんぜん日本と変らないような状況で。で、ロサンジェルスというか、まあハリウッドですよね。「とうとうここまで来たのかなぁ」と思ってて。なんか、ぜんぜん自分がやってきたわけじゃないのに、ここ何年か自分が思ってきたことが実現になってきて、逆にすごく感慨深げなとこがあって。
- 近田:
- なんかそういうのってさ、自分じゃなくても、誰かがやってくれても同じに嬉しいっていうのあるよね。
- 小室:
- すごくね、嬉しかったですけどね。
- 近田:
- 「やっぱり自分が考えてたことが合ってたんだ」とか思ったりする感じだもんね。
- 小室:
- そうですね。まあ、彼の場合、戦略もね、ビジュアルの部分とかっていうのもすごくあるとは思うんですけども。でも、音的には、けっこうやっぱりちゃんと凝ってるし。ニヤリとさせられるとこ、たくさんありましたからね。
- 近田:
- ね、面白いよね。確かにある種、子供向けっていえば子供向けなのかもしれないんだけど。でも、聴いてみるとやっぱりさ、ちゃんとわかって作ってるっていうか。さっきチラッと言ったけど、気持ち良さっていう、そこのところって今すごくさ、重要な要素になってるような気がして。そこの部分の押さえ方は、本当に見事だよね。
- 小室:
- そうですね。なんで、そう、そういうので今すごいロサンジェルス的には、僕なんかには居やすいところで。っていうのはね、自分はずっとやってきてたから、音なんかも「え? どうやって作ってんの?」って彼らから聞かれたりとかも。
- 近田:
- あ、そういうこともあるんだ。
- 小室:
- そういうこと多々ありますから。やっとここ1年ですね、「器材、何使ってんの?」ってよく聞かれますから。
- 近田:
- なんかじゃあ、小室哲哉としての秘密兵器っていうのは、実際はあったりするわけ?
- 小室:
- いや、実際はないですよ。
- 近田:
- 実際っていうのは、みんな多分さ、どういう人でも使ってる器材っていうのは、世界中ほとんど器材自体は変らないわけでしょ。
- 小室:
- ほとんどないし、もう残念ながらスタジオに来ちゃったら、みんな「あ、なに? これなんだ」って言って「明日、買いに行こう」って言われて。
- 近田:
- 普通に売ってるものなんでしょ。
- 小室:
- 買いに行っちゃいますからね、平気で。それはもう、ぜんぜんギターセンターとかで売ってますから、普通に。「これ、いくらなの? 1500ドル?」とか言って、「買ったよ」とかいって。カメラのディレクターとか、そういう奴らとかもみんな「買っちゃったよ」とか言って。
- 近田:
- だから、今あれだよね、普通にお小遣い程度で、それこそ、その人にセンスと才能があれば、普通にCDになってるような曲を作れる時代だよね。
- 小室:
- そうですね。出来ちゃうんですよね。もう本当、さっきの気持ち良さの、もう本当それのポイントの決め方だけですよね。どこに置くかによって。
- 近田:
- その気持ち良さっていうのって、けっこう作る作業の中では、けっこう具体的なこととして出てくるじゃない。何が一番これから重要になってくるかね?
- 小室:
- 何でしょうね?
- 近田:
- 聞きたいね、それは。
- 小室:
- 僕も今のところは、口に出して言葉で「こういうことなんですよ」っていうのが、まだ結論としては出てないと思うんですよ。説明しにくいところで。で、自分で今度、機会があったら、安室の今度出た「Concentration」っていうアルバムの1曲目で「Concentration 20」っていう曲があるんですけど、それの一回バックトラックだけ聴いて欲しいんですけども。で、いちおうAメロっていうのかな、バースの部分に使ってる音は、今回そのアルバムの中で一番気に入ってる音なんですけど、自分でも「これ、コードなに?」っていったらわかんないんですよ。まったくコード感はなくて。僕のなかでは歴史的な音色なんですよ。
- 近田:
- あ、そうなんだ。それはぜひ聴いてみたいな。
- 小室:
- 「Concentration 20」のAメロの部分ですね。
- 近田:
- OK、OK。
- 小室:
- 奈美恵ちゃんは、普通に淡々とワンノートで歌ってるとこなんですけど。あの音色が、安室奈美恵っていう3ミリオンクラス売れるアーティストであるんだけど、Aメロにこの音を使っていいというふうにされる状況っていうのが自分でもすごく嬉しくて。
- 近田:
- そうだろうね。
- 小室:
- その音色だけでもいいんですけどね、ぜひ聴いて欲しいんですけど。それがなんか、唯一まだ僕が今、答えっていうか、口に出せる、「例えばこういうことなんだけど」っていう答えなんですよ。
- 近田:
- ああ、なるほどね。
- 小室:
- 口では言えなくて。
- 近田:
- でも、その音としては、そこが一つの。
- 小室:
- 音としては、例えば「これ、Aメロにこの音なんですよ。これでも今、OKになってるんですよ」っていうところが「気持ちいい」「いや、嫌だ」っていう、「良くない」「良い」って言ってくれるところのポイントで。で、もちろんその後サビになっちゃうと、いちおう、もう一回やっぱり従来のところまで、ある程度は降りるのか戻すのかっていう作業はしながらのプロデュース作業なんですけれども。ただ、そこの部分は、もしかしたらこのまま行き切っちゃってもいいのかと思える時代になって。
- 近田:
- なるほどね。
- 小室:
- それを僕なんかは、今回、彼女のアルバムなんかではずいぶんやらせてもらっちゃったんですけどね、個人的にね。
- 近田:
- そういう音色っていう問題と、もう一つ、テンポっていう問題ってすごくあると思うんだけど。例えばTRF始めた頃からね、ずっとTRF聴いていくと、だんだんやっぱり遅くなってる時期ってあったでしょ。ああいうやっぱりテンポと時代の関係っていうのも、すごくきっと敏感に意識してると思うんだけど、これからテンポに関しては? 今はまたちょっと早くなってるでしょ、時代的に。
- 小室:
- そうですね。
- 近田:
- あとだから、たまたまテレビに見た時に、ジャングルのリズムの構成について解説してた時に、君がね、二重構造になってるわけじゃない、テンポが。そういうことも含めて、人々が踊る、それから実際踊らないとしても心地よく身体を動かすとか、そういうこととテンポの問題って、時代とともにすごく変ってきてると思うんだけど、そこらへんの流れは、プロデューサーとしては、これからどう踏んどるかね? 踏んどるかね、とか言っちゃってるけど。
- 小室:
- うーん? 多分、簡単にも言えると思うし、難しくも言えると思うんですけど、いちおう人間のビート感に戻るんじゃないかなと思ってて。基本的にハートビートっていうか、心臓の鼓動がB.P.Mがあって。
- 近田:
- 詞でも書いてるよね、それ。
- 小室:
- ええ。で、あとはすごい自律神経っていうんですか? よくわからないですけど、細かい動きの神経のビートがあったりとか。あとはなんか、ディープブレス的なことが、すごい深呼吸みたいなすごいゆっくりな、そういうのがあって。
- 近田:
- 肉体とすごく直結してるいくつかのテンポっていうことなんだろうね。
- 小室:
- そういうシンクロが、もし10年20年なんて先のことまで「音楽どうなりますか?」とか「リズムどうなりますか?」っていったら、多分そういうことになっていくのかなと、やっと最近思い出してるんですよ。僕は、ここんとこやっとここ1〜2年、お医者さんとかドクターっていうか、医学系の人のお爺さんの友達が。お爺さんっていってもまだ60ぐらいのお友達とかやっとできて、そういう話とかがやっと聞けるようになったんですけども。なんか、けっこう密接なんですよね、そこらへんて、ビート感て。
- 近田:
- 俺も何となく最近になってさ、少しずつその感じって僕もね、同じような実感をすごくもっててるんだな。
- 小室:
- そうですか。
- 近田:
- 僕は特にそうだな、ああいういわゆるゴアトランスっていうかね、テクノみたいの中でもああいうトランス状態をさ、作り出すためり音楽ってものにすごく興味を持つようになってから、そういう肉体の心地良いっていうことと、音楽のテンポの関係って絶対に重要なんだなってね、ちょうど思うようになってきた頃だから。本当にそれがさっきのこういう話じゃないけど、みんなぜんぜん違うとこにいて、こうやって初めて会った人同士でも同じ様なことを感じてるっていうのは、すごい面白いなと思って、今。
- 小室:
- そうですね。その人は、まあ本当、外科の先生だったり元々するんですけど、どんどん医学のこと考えていったら、音楽のことも考えなきゃいけなくなったりして。で、僕の話とか聞きたいっていって。で、話してると、ぜんぜん用語はね、それこそさっき言った、そういうJP-8000がどうのだったりとか、PROTEUSとかっていうことで、こっち側ではまた「なんとか、なんとか、なんとかで」って。
- 近田:
- ぜんぜんわかんないわけだね。
- 小室:
- 医学用語がやたら出てくるんですよ。それと言ってることがけっこう同じだったりとかしてて。けっこうそういう、人間の波動だったり鼓動だったりとかっていうことに行くような。難しく言うと。これが今もしかしたら聴いてるお客さんたちは、「なんか難しそうだな」みたいな感じなんですけど、けっこうだんだんそれがわかるようなことになってくると思うんですよ。だから、B.P.Mっていうか、テンポ感は間違いなく身体に合った、シンクロしたものがいいと思いますし、絶対に。だから、こじつけになるかもしれないけど、だからダンスミュージックは止まれないというか。ハートビートある限り。だから、DJは繋げるんだ、みたいな。
- 近田:
- そう、だから、ダンスミュージックってさ、エンディングがないじゃん。
- 小室:
- ないですね。
- 近田:
- 全部、次に。絶対、本当にノンストップだもんね。だから、きっとそうやって永遠の命みたいなことをさ、なんか音楽に託してるんじゃないかなって気がちょっとするんだ。
- 小室:
- 間違いなくそうだと思います。DJの人のほうが、そういう難しい話はしなくてもわかってると思います。
- 近田:
- 本能的につかむんだろうね。
- 小室:
- DJ、僕すごくだから、お医者さんと似てると思いますね。緊急の、エマージェンシーの病棟、急患のお医者さんとすごい似てると思いますね。
- 近田:
- あ、DJが。
- 小室:
- ええ。
- 近田:
- それは画期的な説だな。ちょっと聞きたいね、それは。
- 小室:
- 止めちゃいけないっていう、心臓をね。
- 近田:
- あ、なるほど。
- 小室:
- とにかく生かさなきゃいけないっていう、急患のお医者さんって、そうらしいんですよ。だから、心臓まで絶対に止めちゃいけない、みたいなことで。で、DJの2分3分4分、次につないで音を絶対に、ビート止めちゃいけない。
- 近田:
- 止めたらクビになるもんね。昔ほら、箱バンもそうだったでしょ。音、止めちゃいけなかったんだもんね。
- 小室:
- そうですね。あの使命感っていうのは、DJの人と僕、すごい似てると思いましたね。
- 近田:
- なんか、その説明はすごくわかりやすいよ。
- 小室:
- それで、その人たちも、「いいんだよ。とにかく心臓動いてりゃ、後はどうにかなるんだから。まず一日これで休ませて、その間に体力付けさせてどうのこうの」って。それから手術するなりするって言ってて。「なんかじゃあ、DJと一緒じゃない」みたいな話をそこでしてて。
- 近田:
- なんかそれは、すごいわかるよ。だから多分、ますます音楽っていうのは、終らないことが重要になってきてるのかもしれないね。
- 小室:
- そう思いますね。だから、もう生まれさせちゃった生命と一緒なんですけど、「生んじゃったんだから、もう全部やめましょうって言うまでは止めないで」っていう感じなんじゃないかと思うんですよね、それはね。
- 近田:
- それって多分さ、昔から、それこそディスコが出来たくらいからね、薄々とあったことなんだろうけど、最近きっと意識的にその自覚をみんなミュージシャンがすごく持つように、ここ何年かでなってきたんだろうね。
- 小室:
- それはあるかもしれないですね。だから、もうそういうふうに当てはめれば、一日の、それこそもうリタイアしちゃった老夫婦の生活とかでも何でもいいんですけど、そういう人たちの一日にでも置き換えれば、ぜんぜん簡単で。「今日は、朝まず走って。ご飯食べて。少し元気にして。そしてクールダウンに散歩して」とか。で、「また少し盛り上がって、また寝て」とかっていう一日のサイクルみたいなことで、もうぜんぜん今のDJの人の。DJの人はいろんな展開をね、その日一晩考えると思うんですけど。似てると思いますから。
- 近田:
- DJって、ああ見えてハードな作業だから、自分に対して自然こと以外、結果的に出来なくなるから、ああいうふうに自然な流れを作れるっていうとこあるかもしれないよね。
- 小室:
- かもしれないですけどね。
- 近田:
- やっぱり自分がつまんなかったら、ただレコードかけてるなんてことは出来ないもんね。
- 小室:
- 出来ないですね。なんか、それは同じことをそのドクターも言ってましたね。「俺は一回だから、警察の、ポリスの救急の医者にもなったことがある」と。「やっぱりそれは刺激的なんだ」と。
- 近田:
- なるほどね。
- 小室:
- マフィア、ギャングがいて、いつ自分が撃たれるかわかんないとこに行って、そこでとりあえず心臓止めちゃいけないっていう。
- 近田:
- あ、それはアメリカなんだ。
- 小室:
- それはアメリカです。
- 近田:
- あ、びっくりした。
- 小室:
- アメリカなんですけど、それもなんか似てるなぁ、みたいな感じがすごいしてて。
- 近田:
- でも、それは本当に新鮮な意見だよね。
- 小室:
- 面白かったです。面白かったっていうか、本当にその機会あったらお話すると面白いと思うんですけど。
- 近田:
- それは本当に考え付かなかったけど、本当に言えてると思うよ、それ。
- 小室:
- だから、リズムに関しては、やっぱり最終的にはやっぱり人間のそういったビート感ですよね。
- 近田:
- そうだろうね。
- 小室:
- えぇと、あんまり時間もないんですけど。
- 近田:
- そうだね。話し込んじゃったね。
- 小室:
- 最後に、街ですか。都市感というか。それはどうですか?
- 近田:
- 今、L.Aに住んでるんだよね?
- 小室:
- そうなんですよ。
- 近田:
- それは何か訳があって?
- 小室:
- は、もう自分のタイミング的に、そういった。向こうでは勝手に僕のこと「どういう音楽だと思うの?」って聞くと、「君はテクノとかインダストリアルだろう」って言うんですよ。そんなに決めてるわけじゃないけど、「雑誌のインタビューのライターだったりする人に聞きました」と、そういうふうに書くんですよ。「じゃあ、そうなんじゃないの?」っていう感じで。「だったらすごいわかりやすいかららいいや。やってたことだから」っていうことで。自分が無理してなくて作ってて「いいね」って言ってもらえる場所なんで今いるんですけども。
- 近田:
- 昔、ロンドンに住んでたことあったでしょ? チラッと。
- 小室:
- そうですね。ロンドンの時は、もう追いかけて追いかけて、追いっぱなしのまま逃げ切られちゃったっていう感じで。
- 近田:
- あ、ロンドン追っかけて追っかけて。
- 小室:
- ダメだったですね。
- 近田:
- あ、そう。
- 小室:
- ぜんぜん追い付かなかったです。
- 近田:
- それは、時代的なものなの?
- 小室:
- 時代的なものでしょうね。もうじつは僕が追っかけてる時期に、もう基本がドラムンベースなのか、そのままアシッドなのか、ジャズなのか、ハウスなのかわかんないですけど、もうそっちの息吹はとっくに生まれてた時期で。もう水面下では、みんなコツコツ打ち込んでた時期でしたから。とっても表面上、なんかいくらエアスタジオ行こうが、アビーロードスタジオ使おうが、そんなのぜんぜん関係なくて、ダメでしたけどね、その時期は。
- 近田:
- 今はそうすると、ロスっていうことだけれども、東京はそこから見てると? 僕は生まれてからずっと生まれてから、今は横浜に住んでるんだけど、基本的にずっと東京なんで、外国から見た感じってよくわかんないんだけれど。今、やっぱりロスから見た東京っていうのは、なんか住んでる時とは違う感じってある? 音楽的にでもいいんだけど。
- 小室:
- うーん? なんか、すごくおすまししてる感じっていうか。
- 近田:
- 東京のほうが?
- 小室:
- ええ。わかんないんですよ、ぜんぜん。余計に中に入り込んでないんで、わからないんですけど。そうやってけっこう盛り上がって出来上がって「あ、出来たの。見せてごらん」って、意外と「もう知ってるよ。わかってるよ。もうそんなのYMOの頃からわかってるんだから」っていうような感じで、「見せてごらん」っていうイメージがあって。だから、もうちょっとそういう感じが続くのかなと思うんですよ。これがやっぱりアメリカもそうですし、イギリスもそうですけど、さらにもっとイっちゃおうって思うっていうパワーは、まだ絶対にあると思うんで。その時に東京なんかの人たちは焦るのかなっていうか。「え? なんだっけ? これ」っていうんで、「知らない、知らないよ、これ」っていうようなのがくるのかなと思ってて。今はね、まだ気持ちいいとか、カッコいいと思って、普通にスッと輸入盤で買っていけると思うんですけど、なんとなく余裕があるというか。「なんだよ。あれでしょ? あれでしょ?」みたいな感じで。「ジャングルでしょ。ドラムンベースが基本なんでしょ。サンプリングでしょ」とか、いろんな意味で余裕がある感じがするんですけどね。
- 近田:
- っていうことは、あれだよ。これからそれが続いてくと、この街はさ、音楽的にヘタすると衰退していく可能性があるわけ?
- 小室:
- そういう気もします。だから、品が良くなってて。
- 近田:
- なんか僕はね、一つ思うのは、体力っていうのがすごく大きいような気がするんだよ。なんか、日本人って基本的な体力がない気がして。そこのところでなんかさ、洗練されていくこ以外にね、生きる道がないんじゃないかっていう気がして。君は丈夫でしょ? すごく。
- 小室:
- そうですね。
- 近田:
- 本質的に。
- 小室:
- 基本的には。
- 近田:
- だから、ずっとそうやってなんて言うんだろう? 強く好奇心を持ってやっていけるんだと思うんだけど。好奇心を持って、それに忠実に生きていくのって、体力が要ることだから。多分そこらへんで、今の日本人って、これからけっこう大変なんじゃないかなってね、気は何となく若い人たち見ててちょっと思う時があるな、俺は。
- 小室:
- そうですね。だから、若い子に、決して「知ったか振りしてるんじゃないの?」とかって言うんじゃなくて、何となく小学校ぐらいから、なんかテレビゲームとかも含めてわかってるから。
- 近田:
- そう、わかってるんだよね。
- 小室:
- なんか、安心しちゃってるところはすごく感じますね。いくら向こうから入ってきたりしてるのに、なんかすごく安心してて。
- 近田:
- そう、知ったか振りじゃないんだよね。本当にわかってるんだよね。
- 小室:
- わかってて。
- 近田:
- そこがだからね、俺なんかね、今までにない時代になっちゃったなと思って。
- 小室:
- なんで、「うわぁ、わかんないよ、これ」っていうような音は、確かにまだ上陸してないですよね。
- 近田:
- だから、それを作りたいよね、やっぱりね。
- 小室:
- そうですね。今度やっと今、僕はだから、今、一緒に作ってるっていう。ロサンジェルスで。やっと少し思えるようになってきたんで。本当、ここ1年ぐらいですけどね。なんで、彼らがどっかで「今日、こういうのやったんだけど」っていうのを持ってくる。それが東京に持ってくるんじゃなくて、近所から持ってくるような気がすごいしてるんですよ。「え? なに? これ。おまえ、こんなの考えちゃったの!?」っていうようなのが出てくる気がするんですけどね。
- 近田:
- 楽しみだよね、それ。
- 小室:
- それはすごい楽しみですね。だから、東京はまだ、ぜんぜんまだまだ余裕があるっていうか。それが今の小学生ぐらいが、まだ若いティーンエイジャーになるぐらいまで、まだ余裕持った顔できてるのかもしれないですけどね。でも、ちょっとわかんないですね、そこまでは。
- 近田:
- それは流石に小室哲哉でもわからない?
- 小室:
- ぜんぜんわからないです。
- 近田:
- わかんないから楽しいっていうのもあるかもしれないね。いつ出てくるか。
- 小室:
- まあ、それがハプニングだと思いますけど。
- 近田:
- でも、きっと出てくるね。
- 小室:
- ような気がするんですけどね、それはね。まだいろいろ話し足りないんですけれども。
- 近田:
- 本当になんか今日は、初めて会ったのにすごく僕も楽しかったです。
- 小室:
- めちゃくちゃコンプレッションしちゃって。ちょっとタイムコンプレッションしちゃってるんですけれども。ちょっと今日、これから香港に。
- 近田:
- あ、今から香港に行くんだ。
- 小室:
- ええ、香港に。
- 近田:
- 僕、今から横浜に帰ります。
- 小室:
- ぜひ、また今度。
- 近田:
- あ、じゃあ、ぜひまた。
- 小室:
- ありがとうございました。というわけでですね、1ヶ月、近田春男さんをゲストにですね、TKというコーナーをやりましたが。また翌月はどなたかとやるかもしれません。まあ、多分、次はロサンジェルスからお送りすると思います。では。