![]() |
![]() |
![]() |
- 小室:
- こんばんは小室哲哉です。えぇとですね、いろんなゲストの方を御招きしてますが、取り合わせ的には最も濃い取り合わせじゃないかと思うんですが。今日のゲストは松山千春さんです。
- 松山:
- どうも。
- 小室:
- はじめまして。
- 松山:
- こんばんは。
- 小室:
- まずちょっと、ビジュアルからもう圧倒されてるんですけど。
- 松山:
- いや、ビジュアルからっていうよりもよ、よくお前、俺を呼ぶ気になったなぁ。
- 小室:
- いや、僕が「ぜひ千春さん」って言ったわけではなくて、うちのスタッフもいろいろミーティングして、いつもゲストの方を決めているんですけども。決まってたんですよ、今回は。
- 松山:
- いや、俺を呼ぶということは非常に危険性があるよなぁ。
- 小室:
- 今日、この時間を迎えるまで、久々に緊張しました。
- 松山:
- いやいや、緊張っていうんじゃなくってさ。だってほら、俺たちだいぶ違うじゃないか。なぁ? 音楽的に。
- 小室:
- かなり違いますね。
- 松山:
- かなり違うよな。だって俺が例えば小室と一緒に歌うとかいったらさ、歌う曲ねぇだろ。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- お前、演歌ダメだろ?
- 小室:
- ダメですね。
- 松山:
- な。じゃあ、歌謡曲っていったらどれぐらいまで?
- 小室:
- 僕、千春さんベストテンとか出てたの見てましたよ。普通にアマチュアで。だから、あの頃のは大丈夫です。ああいうフォークというか、あの時代の全部だいたい聴いてますから。
- 松山:
- だから、今回、俺もびっくりしたよ。
- 小室:
- そうですか。
- 松山:
- 「ええ? 小室と喋ることあるかな?」みたいな。
- 小室:
- そうですよね。
- 松山:
- 「ひょっとしたら女の趣味は似てるかもしんねぇなぁ」みたいなな。
- 小室:
- そうですかね?
- 松山:
- うん。いや、あれ、けっこう好きよ、小室ファミリー。けっこう好きよ。
- 小室:
- ありがとうございます。
- 松山:
- いや、女はだぞ。
- 小室:
- はいはい。
- 松山:
- 浜田は嫌い。
- 小室:
- 一応、リサーチでこのあいだ浜ちゃんに「千春さんどうだった?」って聞いといたんですけどね。
- 松山:
- けど、浜田に作ったあの歌はいい歌だよな。
- 小室:
- ありがとうございます。
- 松山:
- 本当にな。俺、小室のプロデュースした曲ももちろんいっぱい聴いたけど、やっぱり俺が決めたらな、俺が決めるんだったらあの歌が一番いい歌かなっていう感じがするな。
- 小室:
- それは嬉しいです。
- 松山:
- あとはtrfとか安室とかは…。
- 小室:
- trf?
- 松山:
- うん。
- 小室:
- なんか千春さんからそういう…。
- 松山:
- なによ? あれか? 俺は「村田英男さんに作られた曲は」って言ったか?
- 小室:
- いえ。
- 松山:
- 安室が歌ってる歌の中にもな、そこそこのはあるけど。けど、これといってズバ抜けたっていうな、まだまだ発展途上だから。
- 小室:
- まだ青いですか?
- 松山:
- 青いとかそういうんじゃなくて、なんていうのかな? 可能性が充分あるじゃない。な、小室の音楽にはさ。可能性が充分あるんだけど、その可能性を果たして突破できるのかな? みたいな。そういう目ではまあ、注目してるっていうかな。だから、いろんな奴に聞かれんじゃん。な、ほれ、俺ぜんぜん違ったタイプの音楽だからさ。例えば「小室さんのプロデュースした音楽をどう思いますか?」とか。
- 小室:
- はいはい。
- 松山:
- だから、それはいいものはいいし。これはちょっとなかすったなぁと思うものも中にはあるだろうし。そして、確かに売れてることは事実だし。学校やなんかでも、中高校生たちがな、「今日はテレビあんなこと出てたな」とかそうやって話題にしてるわけだし。「今度こういうCDが出るんだね」とか。そういう意味ではすごいみんなに注目されてるし、売れてるのももちろんだし、そういう意味ではやっぱり成功したんだから、賞賛するべきだよ。な。もうみんなで拍手。「よかったじゃん」「小室、立派じゃん」みたいなな。ただ問題は、その賞賛が果たして尊敬に変わるかどうかだよな。だから、賞賛までは誰でもされるわけよ。ある程度売れたとかそういうふうな観点から見れば。あとは問題は音楽的に尊敬されたり、それとか彼の音楽の哲学を尊敬したりとか。だから、そこまでいくミュージシャンってなかなか日本似いないじゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- 今まで賞賛浴びていなくなったやつはたくさんいるんだけど、尊敬されていなくなったっていうのは美空ひばりさんぐらいじゃないか? あとはほとんどの人間が、特に曲を書いたりする人間の中では、なかなかそこまでなやつはいないよな。そういう意味では小室たちはまだ可能性を充分秘めてるし、俺はそうなってもらいたいの。本当に。だって、そうだな、まあ俺は俺なりな活動があるし、小室たちも小室たちなりの活動があるし。多少なりとも若い子たちであれ、お年寄りであれ、影響を与えられているわけじゃない。な。
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- 音楽ということで。
- 小室:
- はい。
- 松山:
- その影響に対してどうやって責任を取っていけるかだよな。正直言って、まだお前が考える必要はないと思うの。
- 小室:
- そうですかね?
- 松山:
- うん。まだ小室はいいと思うの、考えなくて。まだジャカジャカ曲を作ってればいいと思うの。ただ問題は、ある程度いった時に「自分は果たして、自分の音楽に対して、またはやってきた行動に対して、どれだけの責任が取れるだろうか。その影響力に対して自分はどうやって答えていったらいいんだろうか」そうやって考える時期が来ると思う。それはちょっと音楽とは違った部分でそういう時期がやがて来るんじゃないかなとな。だから、その時が楽しみなわけ。
- 小室:
- ああ、なるほどね。
- 松山:
- その時に小室が果たしてどういう音楽をやってるか。相変わらず若いネーチャン連れてきて踊らせてるのかどうか。そこが非常に楽しみな部分だな。
- 小室:
- そうですね。今まだ進行中な感じしますね、自分でもね。
- 松山:
- そうだろ。
- 小室:
- 止まることも今は出来ないんですよ。
- 松山:
- うん。いや、もうこれは俺ももちろんそういう時期があったけど、今は何をやってもいいわけよ。な。正直いって小室は何やってもいいわけ。だから、もちろん俺にもそういう時期があった。ただステージに立って、まだ歌ってもいないのにギター構えてるだけでワァーキャー言われてだぞ、「最高」とか言われてだぞ、そういう時にはさ、もう何やってもいいし。で、ましてそれを止める気にもならないし。まあ「自分なりの歌を歌うしかないな」と、そういう感じでやってたんだけど、俺がその時に考えていたのは、「早く売れなくなりたいな」と思ってたのな、その時。フッと。で、売れなくなった時に果たしてステージで、ひょっとしたらお客さんもいないかもしれない。数が少なくなってるかもしれない。そんな中でいったい自分はどんな歌を、音楽を歌っていけるんだろうか、とそういうことをフッと考えてた時があったな。だから、その、わずらわしいとか、そういう意味じゃないんだぞ。な。多分、小室もそうだと思うんだけど、べつにわずらわしいことはないと思うの。今はキャーって言われてて。ただ、あの、「果たして冷静に自分の音楽っていうのは捉えられているかなぁ?」とか、「ちゃんと伝わってるかなぁ?」とかって考えた時にフッと思うことが俺の場合はな、そういう時あったわな。
- 小室:
- なるほどね。削ぎ落として削ぎ落として、いろんな売れるっていうことの山谷ありますよね。それでどこか最終的に行き付くようなとこですかね? 落ち着くような場所ですかね? 山谷越えてみないと、やっぱそこいかないじゃないですか。
- 松山:
- うん。例えば俺の先輩…、俺なんかまあな、自分ではフォークシンガーって自分で言うんだけど。どだいフォークシンガーがさ、こんな赤い服着てさ、サングラスかけてるっていうのがおかしいんだけど。
- 小室:
- フォークシンガーには見えないですよね。
- 松山:
- まあ、ビジュアル的に見えないよな。どう見ても見えないよな。けど、フォークシンガーって俺は自分で言ってるんだけど、先輩たちがさ、だらしないばっかりにさ、もうほとんどフォークなんて言葉は死語になりつつあるわけだよ。あと、自分たちのせいなのかもしれないけど、次に来てくれる若手もいないわけだよ。な。言ってみればもう、伝統芸能を守り続けてる後継者のいない、そういう職人さんみたいな状況でさ。そういう意味でもっともっと自分の活動範囲も拡げていかなくてはならないなぁとかね。そういう気持ちはある。で、そういう時にやっぱり対象となるのは、もちろん売れる売れないっていうのも当然あるんだけど、この売れる売れないっていうのは、あくまでも他人が与えてくれた評価なんだよ。例えば「小室がプロデュースした誰々が歌った歌が200万枚突破しました」。それはあくまでもお客さんが与えてくれた評価であって、その歌の評価っていうのは小室がどうやって評価してるかだよな。
- 小室:
- はい。
- 松山:
- それと同じように、「出しました、ぜんぜん売れませんでした、廃盤になって返ってきました」けど自分では高い評価を与えている曲、音楽、そういうのもあるわけだよな。だから、俺はどっちを大切にしたいかっていったら、あくまでも自分の評価は自分でしたいわけ。で、お客さんの評価っていうのはもちろんある意味では大切な要因の一つなんだけど、それに頼ってしまったらな、客にイニシアティブをとられるわけじゃない。
- 小室:
- そうですね、はい。
- 松山:
- 自分の音楽でさ、人にイニシアティブをとられるなんて、こんな馬鹿なことないじゃない。俺はいつでも、やっぱり自分でイニシアティブをとっていたいから。だから、さして売れるとか売れないとか、客が入る入らないとか、それよりも自分でできる範囲の中で精一杯のことをやってみたいなぁって思うしな。だから俺たちの世界の中にもやっぱり、過去の栄光を引きずって歌ってるやつもいるし。で、売れたいと思いながらな、一生懸命頑張ってるやつらもいるし。しかも、それも先輩でいるわけだからさ。ああいうの見たらちょっと俺としては情けないなぁと。例えば「俺はあなたたちが歌ってた歌を聴きながら育ってきたんですよ」と。「そのあなたたちがね、今なんでそういう音楽するの?」みたいな。「そういう姿勢になってしまうの?」みたいなな。そういう先輩たちがすごい多いわけ。だから、そういう意味では、もっともっと自分で自分自身を磨いて次の世代っていうかな、そういう連中も俺たちの音楽みたいのもあるんだっていうのを目指してくれるような音楽をやってみたいよな。
- 小室:
- じゃあ、千春さんの場合、ファンの人でまあ「千春さん、あの曲いいですよ」って言ったときに「おお、おお。俺もあれが好きなんだよ」っていう感じのコミュニケーションが一番いい、理想ですかね?
- 松山:
- そうだな。うん。
- 小室:
- 「合ったね、おまえと」みたいな。自分の曲に対して。
- 松山:
- うん。俺さ、その、基本的に俺、小室と大きな違い何かって言われたらさ、俺はステージなんだよな。まるで生のステージなわけ。
- 小室:
- はい。
- 松山:
- そこで何ができるかっていうことなんだよな。だからまあ、やってる音楽はな、確かにみんなから聞いたら「ぜんぜん違うじゃん」て思うかもしれないけど、それよりも何よりもやっぱり俺はステージに懸けてるし、ステージでどれだけのものが歌えるか。で、お客さんとコミュニケーションとりながら。だから、「あの歌よかったですね」って言われるよりも、「1996年何月何日のあそこでのステージは最高でしたね」って言われるミュージシャンになりたいわけ。
- 小室:
- なるほど、そうですか。その瞬間を切り取ったとこでいてくれた人ですよね、そこにね。
- 松山:
- そう。だからすごいステージを大切にしたいし。小室にはなかなかこういう気持ちわからないだろ?
- 小室:
- そうですね。僕はあんまり好きじゃないですからね、ステージ。
- 松山:
- な。そうだろ。うん。そう思うもん。だから、もちろん俺とはぜんぜん違うんだけど、俺はそういうものを目指すよ。な。例えばやっぱりボブ・ディランがやったどこどこでのステージは最高だったとか。そういう評価されるように俺も「松山千春が何年にやったあそこでのステージは最高だったね」って、そういう形で俺はたぶん音楽をやっていくだろうし。逆に小室の場合はそういう形じゃなくて、「あの楽曲は最高だね」「あの楽曲は世界を席巻するような楽曲だね」っていう、やっぱりどっちかっていうとやっぱりそっちのほういってるんじゃないかなって感じがすんだな。そいう意味で基本的に音楽のスタイルが俺たちはな、多分ぜんぜん違うんだろうな。
- 小室:
- そうですね、それは。まあ、さっきもそうなんですけど、基本的にすごいわがままって言われるんですよ。で、だから自分で全部なんでもやるんだろっていうのはよく言われるんですけども。スタジオでだからまあ、基本的には一人で積み重ねていくレコーディング方法ですよね、僕なんかの。だからほとんど自分で目が届かないと気が済まないからそういうふうになってっちゃうんですけど。千春さんの場合はもちろんライヴですけど、でもそういうところあります? 自分の世界が守られないと嫌ですか? それはないでか?
- 松山:
- 俺はぜんぜん構わない。
- 小室:
- あ、そうなんですか?
- 松山:
- ぜんぜん構わない。
- 小室:
- じゃあ、やっぱりバンドももちろん当然いるわけですね。
- 松山:
- うん。それでバンドのやつらには、「もう好きなように弾いてくれ」と。
- 小室:
- あ、そうなんですか。
- 松山:
- な。で、基本的にプロなんだから、平均点以下のことはするなと。おまえたちは俺がお金払ってプレイしてもらってるんだから、だから最低限のことはしなさい。その最低限のミスをした場合には俺は怒るだろう。けど、何かにトライしようとして「これがやりたい」と思ってトライして失敗したなら、そのミスは咎めない。それはおまえが何か新しいことをやろうとしてミスしたんだから、ぜんぜんそれは咎めない。それで、ステージ上ではあくまでもキーボードであれ、エレキであれ、サックスであれ、おれも一人の楽器だと。ヴォーカルという楽器の担当だと。だから、お互い相乗効果でいいものを出していこうと。だから、もちろんそれはヴォーカルがガァーンと前に出る時もあるだろうし、逆にエレキギターがドォーンと前に出てくる時もあるだろうし。その時俺は邪魔しないよと。ピアノが綺麗なメロディ弾いてる時に、俺ももちろんな、どっちかっていったら小さな声で歌ってるわけだけど、その時はピアノと融和できるような、そういう歌い方をするよと。そういう関係がすごい俺の場合どっちかっていったら好きかなって感じで。だから、レコーディング方法がまったく違うって。俺、みんなに言われるもん、「もっと真面目にやれば」って。
- 小室:
- 「真面目に」ですか?
- 松山:
- うん。小田和正にも言われたな。こうせつにも言われたな。「千春、もっと真剣にレコーディングやれば」って。だって俺、もう嫌いでさ。おまえ大丈夫だろ? ああいうスタジオの中で篭ってやってるの。
- 小室:
- ええ、それが一番もう落ち着きますね。嫌いですか?
- 松山:
- な。俺はさ、どっちかっていったらアウトドア派だから。だから、どうしても天気もわからない、今が何時だかもわからないと、そういう中でジッとしてるのって苦手なんだよ。だからもうレコーディングっていっても、パパーッとすぐ終わってしまいたいっていう。
- 小室:
- じゃあもうテイクとかすごい少ないんですね。
- 松山:
- ああ、少ない少ない。それで歌ももう一回でよければ「もうこれでいい。これ以上の歌は出来ない。ダーメ」もうそれですぐやめる。
- 小室:
- でもあれじゃないですか。歌手じゃないから全部作られるわけだから、最初にやっぱり最初はデモテープですか? 作りますよね。
- 松山:
- うん、デモテープ録るだろ。で、それもうアレンジャーに渡しちゃうわけ。
- 小室:
- あ、デモテープで弾き語りもたいな形で。
- 松山:
- うん。それでアレンジャーに渡して「あとはアレンジャーがどうぞやってください」と。「べつに文句は言いませんよ」。まあ、多少な、例えばいざレコーディングの時に「あ、ここはこうしてもらいたいな」って部分はな、俺にも一応、多少なりとも音楽性っていうのはあるからさ。
- 小室:
- もうそれはもちろん。
- 松山:
- 小室、思ってねぇだろ。
- 小室:
- いや、思ってますよ。
- 松山:
- 本当に思ってる?
- 小室:
- 思ってます、思ってます。
- 松山:
- 多少なりともあるから。「ここはこうしてもらいたい」っていうのはあったりするけど。あとはほとんどアレンジャー任せ。「あとはもうお任せします。自分の曲ですけど、好き勝手に」。
- 小室:
- それもさっきのミュージシャンの方と一緒ですよね。「クォリティは守ってよ」っていうか。
- 松山:
- そう。だってやっぱりお互いプロとして一緒にやってるんだから、最低限のものはさ、信頼しとかないと。それ以下のものをやったらこの世界で食ってけないわけだろ。「そしたらいなくなりなさい」みたいな状態じゃないか。
- 小室:
- あの、ずいぶん遡っちゃいますけど、千春さんのヒット曲とかのアレンジとか聴いてるとすごいロック的なものもあるし、シンセとかも入ってるのもあるじゃないですか。だから、今の話ではちょっとわかりましたけど、基本はすごい弾き語りの方だなと思ってたんで。
- 松山:
- そう。基本は弾き語り。
- 小室:
- レコードとかああいう凝ったアレンジとかしてあるのは何でかなとは思ってたんですよ。
- 松山:
- あれはもうアレンジャーが勝手にやってくれるだけ。だから、自分としてはみんなにも言われるけど、「アレンジもしてみたら?」みたいな。けど、俺、アレンジする暇あったらな、ゴルフやったり女のケツ追っかけてたほうがいいなぁって、そういう人だから。だから逆に小室みたいのが羨ましいよ。楽しいんだろ?
- 小室:
- まあそうですね。楽しいですね。
- 松山:
- そりゃ、たまには女を追っかけたりすることもあるだろうけどさ。でも音楽してるのがすごい楽しいわけだろ?
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- 俺は逆にその、スタジオワークよりもステージのほうが楽しいから、そっちに懸けちゃうっていう、そういうパターンだよな。
- 小室:
- あの、現在でもツアーっていうのはすごい数されてるんですか? コンサートの数っていうのは。
- 松山:
- そう。やってる。
- 小室:
- やってます?
- 松山:
- うん。もう毎年。デビューして俺、20年目に当たるんだけど、ツアーだけはもうずーっとやってきてる。やっぱりステージが楽しいんだろうな、やっぱり。一つの生き物だから。生物だから毎回毎回違うわけじゃない。東京で例えば3日間やっても3日ともぜんぜん違うわけだし。そういう楽しみ方っていうかな、俺はずっとしてきてるし。小室なんでおまえライヴ苦手なんだよ?
- 小室:
- 何でですかね? まあ、作り上げるまでやっぱりこういう仕事柄、参加しなきゃなんないしっていうのもあるから、ステージに立つまだにけっこう時間かかっちゃうじゃないですか。「はい、どうぞ」でパッと出るわけじゃないんで。それで疲れちゃうのもありますけど。あと、最初にプランとか出すでしょ。その時点で大体わかっちゃうと思っちゃうんですよね。今の千春さんみたいに、その瞬間でいろいろなことって起きないんですよ、僕たちのコンサートでは、あんまり。だから、3日やったらほとんど3日同じ反応っていうか。まあ、違うんだとは思うんですけど、本当は。ただ、そういうエンターティナーショウみたいなことになっちゃってるから、多分。もちろん生のバンドだけでやったりしたらまた変わると思いますけど。
- 松山:
- だろうな。
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- だから、俺はよくイベンターのやつからも言われるな、「千春はどうして平均点のコンサートをやってくれないの?」って言われる。例えばユーミンとかさ。
- 小室:
- あ、そういうことですね。
- 松山:
- ああ。ドリカムとかさ、やつらはね、やればちゃんと80点のコンサートしてくれるって言うわけ。ね。それで俺の場合は、「今日は30点だな」「今日は50点だな」って。
- 小室:
- 30点てあるんですか?
- 松山:
- ああ。赤点の時もある。でも、ある時は「150点だなぁ」みたいな。そういう出来る出叶いが激しい。でも、それもまあ俺なりのコンサートかなと思うし。
- 小室:
- 千春さんその30点ていうのはどんな感じになっちゃうんですか?
- 松山:
- やっぱり客を喜ばすことができなかった時。それはやっぱり自分の体調とか、いろんなものが加味されるんだけど。けど、いつでも俺は100%出してるわけよ。100%出してるけど、その日によってやっぱりな、ぜんぜん違うってこともあるじゃん。だから、体調が悪くてもいいコンサートが出来ることもあるし。だから俺いつも言うんだよ、100本コンサートやったらな、「やったな! 今日はいいコンサートやったな!」っていうのはな、2〜3本だって。
- 小室:
- 千春さんが思うのは。
- 松山:
- うん。あとの96〜7本はな、失敗のコンサートよ。だからまた来年もやりたいんだって。100本やってな、「100本とも最高のコンサートができた」ってなったらもう歌わなくていいんだよ。
- 小室:
- そうですね。お客さんもその3本に当たった人はいいですけどね。
- 松山:
- ラッキーよな。
- 小室:
- あとの97本はどうするんですか?
- 松山:
- そういうのに当たったやつは最悪だよな。
- 小室:
- またそれで来るんですかね、来年もって言ってね。こんどはその3本に当たるために。
- 松山:
- それもあるかもしれないよな。
- 小室:
- あれですか? 僕もちょっと見たことないんですけど、トークもやっぱりあるわけですよね。
- 松山:
- 俺の場合は喋ってるほうが長いんじゃないか?
- 小室:
- それの出来もありますね、じゃあね。
- 松山:
- うん。本当にトークの出来もあるよな。だって、俺、いつも言うんだもん、「曲聴くんだったらな、家帰ってCD聴きなさい」って。な。そしたら歌詞を間違えることもないしよ、バックの演奏も間違えないから。
- 小室:
- でも、ライヴで俺を観ろって言ってるじゃないですか。
- 松山:
- だから、曲を聴きたかったらCDをって。
- 小室:
- あ、曲を。なるほどね。
- 松山:
- 家で聴いてたほうがいい。けど、ライヴっていうのはぜんぜん別だから。その日によって歌い方も違うし。歌詞を間違えることもあるだろうし。
- 小室:
- その生な感触ですかね。
- 松山:
- そうそう、そう。
- 小室:
- それを観に来いって感じですね。
- 松山:
- うん、そういう部分だよ。だっていろんなミュージシャンいるじゃない。小室どっちよ? 例えばステージでCDとまったく同じパターンの音を聴かせたいか?
- 小室:
- うーん? 個人的には違うことやりたがり屋ですね、やっぱり。自分のね、まあミュージシャンだからっていうのもありますけど、ちょっと違うことやりたいですよね。
- 松山:
- そうだよな。
- 小室:
- まあ、基本はそうですね。ただでも、さっきの80点じゃないですけど、やっぱり絶対そういうのはも守らないといけないんで、ついつい同じことになっちゃうんいます。
- 松山:
- 変えたほうがいいよ。20点になっても構わないって、今のおまえなら。
- 小室:
- そうですかね?
- 松山:
- うん。あと5年経ったらわからないよ。5年経ったらわからないけど、今のおまえだったら20点でもお客さんはちゃんと着いてくるから。いや、もちろん本人はだぞ、最初っから20点やろうと思って20点やるわけじゃないからな。いつだも100点目指してさ、やろうとしてるわけだからさ。それがたまたま20点に当たってしまった、みたいな。だからやっぱり、小室の20点も見たいってやつもいるんじゃない?
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- なあ、もちろんおまえの100点以上も見たいしさ。けど、本当に20点もさ、やっぱり見せてあげるべきじゃないかなとな。それがやっぱりあれじゃないか? 生きた音楽っていうのかな。そういうもんにつながってくんじゃないかなと思うな。
- 小室:
- なるほどね。そうですか。千春さんのコンサートって男女比はどうなんですか?
- 松山:
- 俺? ひどいぜ、バラバラ。男もいっぱいいるしよ、オジさんもいるしよ。
- 小室:
- そう、年齢もありますよね。
- 松山:
- 本当にオバさんもいるしさ。オバさんを通り越してそろそろこれが見納めのコンサートかな? みたいなさ、そういう人もいるしさ。だからもう、ある意味で楽しいと言えば楽しいかな。まあ、デビューした当時はな、若い女の子たちばっかりでさ、キャーキャー言われたりなんかしてな。しまいにはあの頃まだ髪の毛があったからさ、「どぉも!」なんてやってたけどさ。おまえだってわからんぜ。そのうち出来なくなるかもしれないぞ、おまえ。俺だってそんなふうになるとは思ってなかったからさ。だから、今はもう本当にそういう意味じゃすごく面白い。ぜんぜんバラバラで。それで、音楽に興味あるやつもいれば、そういう音楽に興味なくてただ俺が何を喋るのかとか、そういうのに興味もってるやつもいるだろうし。
- 小室:
- でも、そういう若い女の子もいるんですか? 今も。
- 松山:
- 「いるんですか?」っておまえ、失礼な。
- 小室:
- 失礼ですよね。
- 松山:
- 馬鹿だね、おまえ。お袋さんがな、娘を連れて来るっていうパターンがあるじゃないか。いや、それと変な話、回帰っていうか、そういう意味じゃないんだけど。やっぱり若い子たちが例えばもちろん小室たちの音楽聴いてて、それもどんどん突き詰めてって「彼等の音楽のルーツはなんだろうか?」みたいな。そうやって辿ってくうちに俺たちのところにコンサートに来るっていう、そういうパターンもなけっこう多かったりするな。
- 小室:
- カラオケファンもいるんじゃないですか? きっと。カラオケファンっていうか、千春さんのヒット曲とか聴いて。
- 松山:
- カラオケファンはおまえのとこだろ。
- 小室:
- それはもちろん、今の旬ていう意味ではそうかもしれないですけど。
- 松山:
- お? 小室の口から「旬」という言葉が出たか。いや、これ、冗談抜きでさ、いろんな雑誌にしてもそういうテレビにしても、例えば「小室さんの音楽をどう思いますか?」とかよく聞かれるじゃない。多分あれじゃない、みんな俺がメチャクチャ言うと思ってさ。それでそういうふうに聞くんじゃないかなと思うんだけど。あの、俺、そんなメチャクチャな男じゃないから、だから、あれはあれで一生懸命頑張ってるし、もちろん良いものもあれば悪いものもあるし。全て聴いてるわけじゃない。ただ、これからまだ可能性があるから、今本当に旬だからみんなワイワイワ言ってるだけであって、だから、俺が一番危惧してる部分は、これは老婆心と言えば老婆心なんだけど、やっぱり小室哲哉がさ、流行歌になっちゃマズいわけだよ。な。果たして来年、再来年、おまえの作った作品がみんなの中でどんなふうに捉えられているか。だから、流行歌をプロデュースする単なるミュージシャンっていう形になってもらうのは嫌だと。ただ、今だったらその可能性が強いと。なる可能性が非常に強いと。あとはもう本人の能力と努力次第じゃないかと。だから、俺は「彼等のやってる音楽は賞賛されるべきだ」って。ここまで影響与えてるわけだし。ただ、好きか嫌いかと言われたら俺は嫌いだと。まあ、この好き嫌いはしょうがないだろ。
- 小室:
- そうですよね。
- 松山:
- けど、認める認めないはな、あくまでも音楽性として、それは認めるよと。けど、「好きですか? 嫌いですか?」っていったら、残念ながら「嫌いですよ」と。その嫌いの中には一つは、まず「自分があそこまでは出来ないだろう」っていう、そういう悔しさもあるんだろうな。おまえみたいにそこまでな、熱中して音楽に打ち込めるっていうさ。俺そういうタイプじゃないから、残念ながら。それともう一つはやっぱりそれを一つ一つ潰していくのはな、やっぱり自分たちの仕事だろうと。その潰すってそう変な意味じゃないんだけど、いわゆる対決していかなくてはならないと。そうしないと日本の音楽っていうのはますます幼稚化してしまうんじゃないかと。やっぱり日本の音楽をもっと世界の中でも「ああ、日本の音楽って素晴しい音楽がたくさんあるじゃない」って言われるためには、俺たちはやっぱり喧嘩しなくてはダメだと。な。「小室さんいいわね」とかな。「ミスチルいいよね」とかさ。そんなことやっててもな、しょうがねぇじゃねぇか。
- 小室:
- そうですよね。
- 松山:
- 喧嘩しろよと。な。その時に俺はぶっきらぼうに言うからあれだけどね。「小室の音楽? 嫌い」な。出てきなさい、いくらでも勝負してあげるから。な。そうやって勝負しないとさ、いいものを次に出せないじゃない。そうだろ? やっぱり日本の音楽の中からもな、やっぱり世界に愛されるようなそういう音楽を出したいじゃないか。な。未だにおまえ、坂本九さんの「スキヤキ」しかないんだろ?
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- そうだろ。さんざん日本が国際化だ国際化だっていってさ、な、久保田だってさ、向こういってウインナーかじってるだけなんだぜ。そうだろ? 向こう行きゃ偉いってもんじゃないんだぜ、おまえ。
- 小室:
- それはそうですけどね。
- 松山:
- そうだろ。しまいにはおまえ、一回いって失敗してだぞ、またな、他の外人とだぞ、寝ながら英語喋りながらだぞ、な、挑戦するっていうアイドル歌手もいるんだぞ。な。そんなもんさ、国際化でもなんでもねぇじゃねぇかてめえたち。なぁ。それよりも、もっともっ自分たちの地盤ていうのかな、しっかりして、そしてやっぱり音楽ってものを捉えてもらいたいな。だから、そのためにはやっぱり喧嘩しなきゃダメ。いい意味でのな。戦いをしなきゃダメ。そうだな、小室たちの音楽を支持してる人間たちはな、「松山千春の音楽? ダサいよ。冗談じゃねぇよ。フォーク? クセェよ」。だから、それはそれでいいわけ。「おぅ、クセェなら一回聴きに来てみろよ。そのクサさを充分に味わわせてやるよ。そしたらおまえ、小室なんて二度と聴けねぇぜ」っていうさ、お互いそういう気持ちでやらないとさ、新しいものって絶対に生まれてこないじゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- だから、俺はやっぱりそういう意味では自分で自分なりのな、そういう音楽ってものをやっぱりこれからも続けていきたいし。それでその中でやっぱり自分にも刺激になるわけじゃない。例えば小室の音楽が刺激になるわけじゃない。そしたら俺は「あいつの音楽は音楽じゃねぇ。ダセぇ」っていうことによって、俺は逆に自分にプレッシャーを与えるわけじゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- 「じゃあおまえ、小室よりいいもの作ってみろよ」って。「お任せ下さい」ってなるわけ。「自信はありますけど、結果はわかりません」。俺、いつもそういうタイプだから。自信はあります、しかし結果はわかりませんだから。
- 小室:
- なるほど。「ダセぇ」って言ったらそうですよね。自信がないとね、やっぱり。
- 松山:
- そりゃそうだろ。俺、音楽でもさ、なんでもそうなんだけど、日本人てさ、特に馬鹿だなと思うのはさ、まあ受験シーズンは終わっちゃったけど、例えば受験する時にさ、「小室おまえさ、自信ある? 今回」って言うとさ、「いや、ちょっと自信ないんだよ」って。自信なきゃ受けるな、このバカタレがっていうんだよ。な。「受かるんじゃないか?」「やれば出来るんじゃないか?」って、多少なりともそういう自信があるから受けるわけだろ? そうしたら「自信あります」って言えってんだよ。「自信ありますよ。でも結果はわかりません。結果は学校が判断しますから」ってな。「ただ、私には自信はあります」って。な。だから、何事にも自信持つべきだと思うぜ。音楽だってそうだと思うぜ。やっぱり人前で歌ったり演奏するわけだから、それはもう自信を持ってやっていくべきだと思うよな。売れたから自信があるとかさ、やっぱり売れる前から自信を持ってやらないと。
- 小室:
- そうですね。それはズルいですよね。わかってからだとね。
- 松山:
- だから俺は、さっき小室か言ってたけど、今、旬と呼ばれているミュージシャンがたくさんいるわけじゃない。やっぱりそいつらに対して「大丈夫、君たちに負けることはないから。僕、歌わせてくれたら誰にも負けないから」って、そういう自信はいつでも持ってるわけだよ。それは例え、スティービー・ワンダーにも負けないと思ってるわけだし。もちろんマイケル・ジャクソンにも負けるとは思ってないし。まあ、あの腰つきはちょっと…。それはおまえたちに任す。ヴォーカルっていう意味でな。まあ絶対負けることはないと、そんなふうにいつでも自信をもっていたいよな。やっぱり、そういう自信が過信にならない程度にな。自信がぶつかり合って新しい音楽を作って。
- 小室:
- その過信と自信の線は何処なんですかね? 千春さんなんかの場合は。過信はないと思いますけど。
- 松山:
- 自信と過信の違いはどこかと言うと、まあ、今見てる視聴者の方々にわかりやすく言わせてもらえば、「LOVE LOVE LOVE」と今出てる「7月7日、晴れ」、これの違いだよ。「LOVE LOVE LOVE」までは自信なんだよ。けど、「7月7日、晴れ」は過信。あれは歌の上手いやつがよく陥るんだけど。
- 小室:
- 陥るんですか?
- 松山:
- そうそう、そう。陥ってしまう。だから、おまえも気をつけたほうがいいよ。おまえの場合は歌じゃないんだけど。な。そのテクニック的なものに。
- 小室:
- はい。
- 松山:
- な。それに陥っちゃってるわけ。
- 小室:
- テクニックを使うっていうことですか?
- 松山:
- それで、歌を歌ってて、歌が上手いやつっていうのは、すごい気持ちいいわけ。それで自分で自分に酔ってしまうわけ。な。そうすると人に歌いかけるとか、「聴いて下さい」ってそういう気持ちよりも、自分の中にどんどん入ってとまうわけ。だから、「LOVE LOVE LOVE」まではまだ認めるよ。けどあいつがソロでアルバム出してんだけど、あれ聴いてたらもう過信以外のなんでもないのな。
- 小室:
- そうですか? 僕は聴いてないのでちょっとわかんないですけど。
- 松山:
- 聴いてみたらわかるよ。それが自信と過信の俺は違いじゃないかなと。
- 小室:
- そうですね、ヴォーカルの上手い人はやっぱり、例えばフェイクだろうが自由自在に出来るわけですよね。で、本当のメロディとその時によって変わるじゃないですか。あれもでも、自信もありますよね、「私はこういうのが出来るよ」っていう。「だから、絶対に満足してもらえる」っていうことで、そこで変えちゃうわけじゃないですか、基本のメロディを。
- 松山:
- うん、だから、表に向かっる時はいいわけ。それが自分の内に入ってきた時には過信になってしまうわけ。な。いわゆる自己満足になってしまうわけ。「ほら、こんな歌い方ができた」とか。「こういうことも出来るぞ」とか。そういうふうになってしまったら、どんどんどんどん自己満足になっていって、ある種の過信に近い部分が。だから、俺はこのごろ擦れ違うこともないけど、吉田美和に会ったら、そうやって言ってやろうかなって思ってんだよな。だって、今いないだろ、あいつにそういうこと言うやつ。
- 小室:
- そうでしょうね。
- 松山:
- 多分レコード会社のやつも言えねぇだろ。ましてあの、メンバーと称するあの男たちは言えねぇだろ。
- 小室:
- まあ、リーダーもいると思いますけどね。
- 松山:
- だから、「余計な御世話よ」と言われりゃぁな、余計な御世話なんだけど。けど、あいつ、田舎が一緒のほうだからな。
- 小室:
- あ、そうなんですか。
- 松山:
- みんな田舎が一緒のほうだからさ。
- 小室:
- 足寄なんですか?
- 松山:
- いや、足寄じゃなくて、近くに池田とかな、音更とかさ。なんかそういう町があるんだよ。いや、もちろんおまえは知らないよ。 おまえが知ってたら怖いよ、俺。「ああ、あそこですね」とか言ったら。怖いよ、それは。まあ、そこ出身ということもあるしな。そういう意味では、まだ能力が充分ある若い連中じゃない。やっぱりそいつらに対して、アドバイスと言えば態度がでかいけど。そう言うことによって、本人が「いえ、そんなことありません」て頑張ってやってくれれば、それはそれでいいことだし。「あ、自分が思ってたこと突かれたな」と思ったら、そしたらそういう方向に行ってもらえばいいし。だから、やっぱりミュージシャン同士ももっとそういうふうにな、言い合うっていうことが必要じゃないか? おまえ会うことないの? ドリカム。
- 小室:
- まあ、擦れ違うぐらいですね。
- 松山:
- 本当に?
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- おまえ、やってみたいと思わない? あいつのプロデュース。
- 小室:
- 吉田さんですか?
- 松山:
- うん。
- 小室:
- うーん? どうでしょう思ったことはないですけどね。
- 松山:
- けど、あのヴォーカル力っていうかな、いわゆる一つの楽器としてだ、あの声を使ってさ、曲を作ろうと思ったらさ、なんか面白いもの出来そうじゃん。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- な。問題はあの男をどうするかだ。
- 小室:
- でもまあ、吉田美和さんソロも出してるしね。
- 松山:
- そうそう、そう。あ、やっぱりおまえ、ソロで使いたいわけね。ああ、おまえ冷たいやつ。俺はあの二人、なんとかさせるよ。
- 小室:
- ドリカムを俺がプロデュースしたら、問題になりますよ。
- 松山:
- なんでよ? んなことないさ。何でも出来るじゃん。
- 小室:
- 出来ないですよ。
- 松山:
- なんで? 今おまえなぁ、小室がやるっつったら何でも面白いんじゃん?
- 小室:
- まあ、取り合わせとしたら、今は何でも面白いかもしれないですね。
- 松山:
- なぁ、演歌やっても面白いと思うし。歌謡曲関係やっても面白いと思うし。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- だから、おまえが例えば北島さんのやっても面白いんじゃない。
- 小室:
- このあいだ北島さん、木梨さんプロデュースってテレビでいってましたよ。
- 松山:
- うん。あれは過信。あれはお互い過信してるんだよ。木梨も過信してるけどな。
- 小室:
- 北島さんからプロデュースって言葉が出てましたね。
- 松山:
- あ、けどね、北島さんて、そういうとこすごい勉強してるぜ。
- 小室:
- あ、そうなんですか。じゃあ、僕の曲とか聴いてますかね?
- 松山:
- 多分、聴いてると思うよ。本当に。歌えっていったらちょっと難しいかもしれないけど、けっこうおまえ、安室の写真とか持ってるかもしれんぞ。な。
- 小室:
- かもしんないですけどね。
- 松山:
- いや、本当に北島さんてすごい勉強してる。
- 小室:
- そうですか。
- 松山:
- だから、例えばもんた。
- 小室:
- はいはい。
- 松山:
- 「ダンシングオールナイト」のな。北島さんの事務所だったろ?
- 小室:
- はいはい。
- 松山:
- それで大橋純子。
- 小室:
- ええ、ええ。
- 松山:
- 純子もそうだったろ。
- 小室:
- あ、そうなんですか。
- 松山:
- 俺、ジュンペーが北島音楽事務所なんか信じられんかったもんなぁ。
- 小室:
- そうですね。もんたさんも僕、びっくりしましたけどね、最初は。
- 松山:
- うん。そういう意味では山本譲二はわかるだろ?
- 小室:
- わかります。
- 松山:
- 「もうぴったりじゃん」みたいな。「もう一生くっ付いてて下さい」みたいなな、そういう感じじゃない。けど、ジュンペーとかさ、もんたなんかわからんじゃない。だから、やっぱり北島さんていうのは、ある種、音楽的にだぞ、許容量があるんだよ。
- 小室:
- そうかもしれないですね。
- 松山:
- じゃないかな。
- 小室:
- ジェームズ・ブラウンとか好きなんですかね? 北島さん。
- 松山:
- あ、可能性あるなぁ。
- 小室:
- 可能性ありますね。
- 松山:
- おまえ基本的にやっぱり洋楽か、好きなのは。
- 小室:
- まあ、そうですね。千春さんは本当にフォークから? 向こうの洋楽もありますよね、もちろん。ボブ・ディランとか。
- 松山:
- うん。だから、俺は基本的にさ。
- 小室:
- CSNとかああいうのは? ニール・ヤングとかああいのはどうなんです?
- 松山:
- あ、あっちはいかなかった。うん。俺、基本的に日本のフォークから入ったろ。それももう昔の関西フォークから入ったろ。
- 小室:
- 関西フォークですか。
- 松山:
- それから入ってって、「彼等のルーツはなんだろう」って。で、ボブ・ディランとか。
- 小室:
- ああ、なるほどね。
- 松山:
- それこそPPMも聴いたし。ブラザース・フォアも聴いたし。
- 小室:
- ああ、なんか、それはちょっとわかりますね。
- 松山:
- ジョン・バエズも聴いたし。
- 小室:
- あ、CSNとかと、今のPPMとかそういうの聞くとわかりますね、なんか。千春さんのメロディ、基本的に綺麗ですもんね。
- 松山:
- お? おまえ、本当にそう思ってんの?
- 小室:
- ブルーノートとかのR&Bよりはやっぱのメロディラインがそっちのとはちょっと違いますよね。
- 松山:
- 俺のはメチャクチャみたいよ。
- 小室:
- あ、メチャクチャなんですか?
- 松山:
- うん。自分でもそう思うもん。「なんで急にこんな曲が出来るんだろう?」って。おまえ、そういうことない? 「なんでこんなメロディが出来るんだろう?」みたいな。
- 小室:
- ないですね。
- 松山:
- ない?
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- おまえって理性強い男。俺なんかしょっちゅうあるぜ。
- 小室:
- あ、そうですか。
- 松山:
- 「なんでこんなメロディが出てきてしまったんだろう?」って。
- 小室:
- 「何だこれ?」って感じですか?
- 松山:
- そうそう、そうそう。「なんでこんなのが出てきちゃったの?」みたいな。
- 小室:
- それはやっぱりヴォーカル力もあるんじゃないですかね?
- 松山:
- 多分な。
- 小室:
- メロディのキーもとかも、多分あるんじゃないですか?
- 松山:
- そうなんだよ。
- 小室:
- オクターヴ以上でも。
- 松山:
- だから、PPMとかな、ジョン・バエズとか聴いててだぜ、急にな、バリー・マニロウが好きになったりするわけ。マイケル・ボルトンが好きになったりするわけ。ああいういわゆるヴォーカリストだな。上手いやつな。だから、マライア・キャリーが出てきた時にも、「あ、こいつってすごいいい音楽をこれから展開してくだろうな」と思ったらその通りになってきてるしさ。だから、そういうやつらのも意外と聴いたりするわけ。
- 小室:
- そうなんでか。じゃあ、多分それが頭にインプットされて千春さんの場合メロディ、音階が多分、歌の力で入っちゃうんじゃないですかね、それが頭に。
- 松山:
- だからさ、俺のさ、このな、いわゆる俺はもう40歳なんだけど、40歳まで今までいろんな音楽を聴いてきたわけじゃない。そして、自分なりに噛み砕きながらあくまでもやってきたわけじゃない。で、小室は今三十…?
- 小室:
- 7ですね。
- 松山:
- 37歳だろ。だから、小室があと10年経ったらどんなことをやってるかだよな。自分で楽しみじゃないか?
- 小室:
- まだちょっと、楽しみっていうとこまでいかないですけどね。ちょっと今は、どこでとりあえず止まれるかっていう。止まるっていうか、まあそうですね。今、回されちゃってるから。
- 松山:
- 楽しみだよな。ひょっとしたら演歌作ってるかもしれねえしな。
- 小室:
- そうですね。まあ、演歌はないと思います。
- 松山:
- 馬鹿、わからんぜ。ある日突然♪ズンチャチャチヤッチャ、ズンチャ、ズンチャチャチャッチャ、ズンチャ〜とかいっておまえ。強烈かもしれないぜ。当り前じゃんおまえ。あのほら、美空ひばりさんがな、小椋圭の唄歌ったりさ。
- 小室:
- はいはい。
- 松山:
- それはおまえ、誰かいったら死にそうな歌謡曲の歌手が出てきそうだけどさ。そのプロデュースを最後おまえ、小室がやったとかいったら面白いかもしんないじゃん。
- 小室:
- そうですね、まあ。そういうのは面白そうですね。
- 松山:
- けど、いいプロデュースっていうかな、いい曲をやっぱりこれからもぜひ書いてもらいたいと思うし。それでやっぱりみんなに尊敬されるミュージシャンになってもらいたいし。やっぱり本当に日本てそういうとこすごい下手じゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- 拍手はしてくれるんだけど、その裏で妬みが必ずあるわけじゃない。成功したらさ、拍手してくれるやつはいるけどさ、もう一方で足を引っ張るやつが必ずいるわけだからさ。だから、俺はそういう意味では裏も表もないから。俺は成功したやつには、「ああ、良かったな、良かったな。嫌い」って言うタイプだからね。俺はそういう点で裏表がぜんぜんないから。だから、そういう形である意味で俺が今思ってる気持ちがだぜ、いつか「小室? あ、尊敬出来るミュージシャンですね」って。
- 小室:
- それ、千春さんの口から出たら大したもんですね、僕も。
- 松山:
- 今んとこなぁ、尊敬してるミュージシャンって俺、あんまりいないからな。
- 小室:
- そうですね。それ、ちょっと一つの指針にして頑張りたいですね、それ。
- 松山:
- 指針に?
- 小室:
- 「千春に『尊敬してる』って言われてるんだ、俺は」って。
- 松山:
- それかせな、トレードマークになってな。
- 小室:
- それ言わせるの大変そうですね、すごくね、でもね。
- 松山:
- 滅多に人を褒めることないからな。だいたい、けなしてばっかりじゃないの。俺、本当に人を褒めたのっていつだろう? 最後は。そうやって考えるぐらいだぜ。人を褒めたことないなぁ。子供がテストで100点とってきた時に、「よくやったな」って、それぐらいかな。本当、それぐらいじゃないかな。
- 小室:
- なかなか価値がありますよね。でもそれはね。
- 松山:
- 音楽的には本当に褒めたことがないな。多分それは自分が現役だからだろう。
- 小室:
- さっきのね、闘いっていうね。
- 松山:
- そうそう、そうそう。
- 小室:
- 戦場にね、まだいるわけですから、ちゃんとね。
- 松山:
- やっぱりこれからもずっと闘っていたいし。やっぱり我々の先輩みたいにさ、紅白歌合せんに出たいばっかりにさ、NHKの番組にチョコチョコ出たりよ、司会やったり。誰とは言わんよ、誰とは。な。そういうことやったり。そこまではやりたくないもんな。やっぱり俺は俺なりのやり方でやれたいし。おまえも出てたな、そう言えばな。
- 小室:
- まあ、付き合いですけど、出ました。
- 松山:
- なぁ。だから、それはそれでぜんぜん構わないと思うの、いや本当に。あの、音楽的に活動の中で、ああいう形でさ、あれだろ? 浜田の時だろ?
- 小室:
- はい、そうです。
- 松山:
- あれはあれでぜんぜん構わないと思うの。ただ、小室のこれからの音楽活動の延長線上に紅白歌合戦がありますか? て言われたら、多分おまえノーって言うと思うの。
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- そうだろ? だって俺たちいろんな番組に出たりするけど、この延長線上にあるわけじゃないじゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- な。まあ、脇道とは言わないけど、まあちょっと横にいってみたっていう形で出てるわけじゃない。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- だから、俺もそうなの。俺の音楽の延長線上にはやっぱりそういうものはないし。ただ、うちのおっ母は死ぬまでに一回出てくれって言うよ。
- 小室:
- なんか、出てるイメージあるんですけどね。
- 松山:
- ないんだよ。俺、出てないんだよ。
- 小室:
- ないんですよね。
- 松山:
- どだいNHKは俺を生放送で扱えないらしいよ。
- 小室:
- あ、そうか。HEY! HEY! HEY! も生じゃないもんね。
- 松山:
- いや、俺ってさ、どうも誤解されてる部分あるんだけどさ。その、唐突なこと言ったりね、馬鹿みたいなことぜんぜん言うつもりもないし。ましてや他人を傷つけることもね。
- 小室:
- 俺、ぜんぜん今日、傷ついてないですよ。
- 松山:
- 傷つけないだろ。なんかファイト湧いてきちゃったろ。
- 小室:
- ええ。座右の銘が出来ちゃいましたよ。
- 松山:
- いや、本当、俺だって認めるものは認めるもん。けど、例えばそうだな? 小室を真似してプロデュースみたいな形で出てきてもし売れたようなやつがいたら、それは俺は馬鹿にするかもしれないな。「おまえ、もうちょっと自分のものを出したら?」みたいな。「それはただ真似できただけだろ?」みたいな。多分そういうふうに言ってしまうかもしれないけど、あとはほとんど中傷とかそういうことをすることはないと思うんだけどな。一応、お互いミュージシャンとしてな、やってるわけだからな。
- 小室:
- 生だと単純に延びちゃったりするからじゃないですか? 音楽が。そんなことないですよね、バンドでやってんですもんね。
- 松山:
- うん。バンドでやってる。
- 小室:
- 問題ないですよね。
- 松山:
- 本当、何の問題もない。俺は全く音楽のさ、本当に王道を歩いてるんだぞ。王道を歩いてるんだけど、どうもみんなには端を歩いてるように思われるんだな。異端児みたいに思われるんだな。おまえのほうが絶対、異端児よ。
- 小室:
- そうですよね。それはわかります。
- 松山:
- そうだろ。
- 小室:
- 変わったやり方やってるわけだから。
- 松山:
- なぁ。そうやって考えたら、俺なんか実にまともな。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- シンガーソングライターとしてな、やってたりするんだけどな。
- 小室:
- そうですよね。
- 松山:
- いや。けど、ま、心配すんなよ。な。そのうちな、ちゃんと王道を歩かせてあげるから。な。で、俺が端のほう歩いて、俺が所得番付かなんかに乗ればいいわけだろ? いや、でもあれだよな。お互いこれからもいい意味で刺激し合って。
- 小室:
- はい。そうですね。
- 松山:
- これは、俺のほうがちょっと年が上だからさ、偉そうなこと言ってしまったけど。
- 小室:
- いや、もう、大先輩ですから。
- 松山:
- いや、あの、俺もさ、ある意味でな、小室が刺激されるような音楽をやりたいわけじゃない。な。だから例えば「ええ? 千春ってこんな音楽やるわけ?」みたいな。そういう音楽をやっぱりやりたいわけじゃない。で、俺もおまえがさ、「あいつ今度はこんなことやりやがった、このやろう」みたいな。「悔しいなぁ。よくやったけど嫌い」みたいなさ。その姿勢を変えずに。でさ、お互いこれからも本当にいい音楽を。
- 小室:
- こういうの効きますからね、けっこうスパイスで。ガンガン作る時にね。
- 松山:
- うん。やっぱりそういう刺激がなくなったらな、やっぱり世界に対抗できるような音楽はできないわけだからさ。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- だから、俺は俺なりの、まあ地道かもしれないけど、ライヴという形で一生懸命これからやってくし。おまえはさ、本当にな、ダメだぞおまえ。あっちいってウインナーなんか食ってちゃぁ。わかってんの? おまえ。
- 小室:
- 大丈夫です。
- 松山:
- な。あの、その才能をだぞ、これからもっともっと伸ばしてさ。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- やっぱり世界に「へぇー、日本のミュージシャンでもこういうミュージシャンがいるんだ」って言われるぐらいにぜひな、成長してもいらたいなと。
- 小室:
- ええ。それはもう頑張ります。
- 松山:
- お互いいい意味でな、刺激し合いながら。
- 小室:
- そうですね。
- 松山:
- 頑張りたいな。
- 小室:
- ありがとうございます。
- 松山:
- いや、とんでもない。
- 小室:
- なんか今日は道場に来たみたいですね。
- 松山:
- あ、そう?
- 小室:
- ええ。
- 松山:
- 俺、説教歌手と言われてるからな。
- 小室:
- 道場破りに来たんですね。
- 松山:
- いや、道場破りじゃないよな。けど、本当に今日は楽しみだったしな。
- 小室:
- 僕もすごい楽しみでしたよ、今日。緊張はしてましたけど、楽しみでしたよ。
- 松山:
- いや、大丈夫、大丈夫。俺ほら、おまえを襲ったりはしないよ。おまえのグループには襲いたい子は何人かいるよ。…trfではないけど。
- 小室:
- ちゃんと落としていただいてですね、ありがとうございました。
- 松山:
- とんでもない。
- 小室:
- ありがとうございました。