2020.8.25 TUE. UPDATE interview #03蟹江貢役 小手伸也さん

シーズン2ということで、
一度演じた役にもう一度取り組むという作業はいかがでしたか?
僕の場合、基本的にはやり易いというか……前作シーズン1のとき、レギュラーメンバーのみなさん、スタッフのみなさんと切磋琢磨しながらワンクール取り組んできて、お互いの信頼関係が出来上がった上でのシーズン2だったので。だから、現場に来るとすぐに『SUITS/スーツ』の世界に戻れた気がしました。実際、シーズン2はドラマの中でも、ファームの人間関係をより深く描いていく内容になっているので、そういう意味でも前作で培った「戦友」と言いますか、ある意味「家族」のような関係性に大いに助けられています。おかげさまで、シーズン1が終わってからも、みんなで連絡を取り合ったり、他の現場で一緒になったり、ご飯に行ったりしていましたし。打ち上げで織田裕二さんの連絡先も聞けましたからね(笑)。みんなの活躍を「アレ観たよ~」なんて報告し合ったりするくらい、年齢やキャリアを超えた仲間感が僕らにはあると思っています。あれ、僕だけかな(笑)?  コロナの状況下で撮影がストップしてしまった時には、「Zoomを使ってリモートで読み合わせをしようか?」みたいな話もしていたんです。で、「どうせなら監督も」「公式も巻き込むか」みたいなことをキャストだけで勝手に話し合っていたんですけど、肝心要の織田さんが「ごめん、携帯買い替えるまで待てないか?」っておっしゃって(笑)。で、いよいよ織田さんがスマホを新調しまして、「じゃあ、やろうか!」っていうときに撮影再開のメドが立ち、結局リモート読み合わせは実現しなかったんですが、それくらいレギュラーのみんな一人一人が作品に対して非常に前向きで、その熱量は間違いなくそのままシーズン2に生かされていると思います。ですけれども、反面、僕個人に関しては、ファームの面々から少し距離を取らざるを得ないと言いますか……、蟹江先生の描かれ方がより複雑になってきているんですよね。撮影に入る前には、後藤(博幸)プロデューサーからも「蟹江先生、大事なので」と念を押されましたし(笑)。その難しさを痛感しつつも、それを楽しみながらやらせてもらっています。
他のドラマと違って、
放送が始まってすぐに撮影がストップしてしまったわけですけど、
自粛期間中はどのように過ごされていたんですか?
例えば、台本を読み込んだとか……。
僕は台本から離れる派なんです。台本に縛られてしまうと、結果的に安心してしまうというか……。勉強した気になるというか(笑)。常に手元に台本があると、読み込んだことによって安心する以上に、脳内で育んだ自分のプランを重要視し過ぎてしまう傾向があるんです。「こうやればきっとこうなるんだろうな」というのを想定して、いざ現場でその通りにやろうと思っても、相手のお芝居が「あ、全然イメージ違う……」となったら途端にお芝居がチグハグになってしまうし、そこで自分のプランに固執しても良いことなんて一切無いですからね。台本は一度熟読して全体の流れを掴んだら、敢えて一旦放置する、というのが僕の台本との付き合い方ですね。なので自粛期間中は特に予習も復習もせず、家族との時間を第一に過ごしていました。とはいえ、正直撮影休止になっていた間も、やれ『コンフィデンスマンJP』とのコラボだとか、やれ『鍵のかかった部屋』とのコラボだとかで、結構スタジオに呼ばれていたんですよね(笑)。だから、撮影が再開されたときに他のレギュラー陣のみなさんが「2か月ぶりにスタジオに戻ってきた!」っていう感慨深さを味わっている中で、僕だけ「2週間前に来たなぁ……」って思いながらやっていました(笑)。
それにしても、大変な時代になってしまいましたね。
撮影以外のことにも細心の注意を払わなければいけませんし。
以前は普通にやっていたことも、一度考慮しないといけないご時世になって。それに伴って、内容が変更になったり、演出の方法を変えなければいけないことも出てきてしまったりして、考えなければならないことがいっぱい増えましたからね。それはそれでストレスかもしれないですけど、そうやって縛られるからこそ出てくるアイデアもあったりするので、この状況を逆手にとって楽しんでいかなきゃダメだな、と思うようにしています。
万が一、どこかの現場で感染が、という状況になれば、
エンタメ界全体に影響を及ぼすことにもなりますし。
そうなんですよね。今はそういう責任も負わなければいけない。確かに慎重さは大切ですが、その上で変に楽観視することもなく、かといって悲観的に委縮することもなく、正しく怖がることが大事だと思います。みなさん、そういう意味においては、この状況と適切な距離を保ちながら撮影できているんじゃないかなと思います。
前シリーズのとき、
「(原作ドラマの)ハーヴィー(ガブリエル・マクト)に憧れている
ルイス(リック・ホフマン)の状況を、織田裕二さんを凄いと思って
いた小手伸也、みたいなところに置き換えて役作りの参考にしている」
とおっしゃっていましたが、その後、織田さんとの関係性に何か
変化はありましたか?
どうなんだろう……いや、距離は縮まった、と思いたいです(笑)。シーズン1のときは、ふたりで休憩中も(役柄の関係性のまま)お芝居をしていたんですよ。即興で。ひとつのシーンが撮り終わっても、その続きを勝手に想像して演じ続けたりしてね(笑)。誰も見ていないようなところ……言ってみれば、ブルペンでのキャッチボール、みたいなことをずーっとやっていたんですけど、シーズン2はそれが少し減ったんです。だから、前回のようにブルペンで肩を温めなくても大丈夫なくらいの信頼関係が構築できたのか……。織田さんがそう見てくださっているかどうか、自信はないんですけど、ある程度、そういう関係になれたような気はしています。だから今回は、雑談の方が多かったりする印象ですね。お芝居をする中でも、織田さんから相談してくれたりもするんです。「このセリフ、台本だとこうだけど、もうちょっと粋というか、洒落の利いた返しがしたい」とか。「じゃあ、こんな返しはどうですか?」って提案すると、「ああ、面白いね!」って採用してくれたりして。そういうことが出来るのは、とても光栄なことですし、楽しいです。でも、どう思ってらっしゃるんだろうなぁ。
聞けないですよね。
聞いたとしても、多分冗談で返されちゃうと思う。最近、織田さんのイジリが結構キツくなってきているんです。「あ、蟹江、いたんだ?」って言われたりして(笑)。『コンフィデンスマンJP』での長澤まさみさんとほぼ同じ現象ですよ(笑)。織田さんは僕のことをずっと「カニ」って呼ぶので、もしかしたら僕の本名を忘れちゃっている可能性すらあるからなぁ……。織田さんは本当に「蟹江」という役柄が好きみたいで、「お前なんでそんなことしたんだよ~」って、視聴者目線なのか甲斐目線なのか分からないツッコミしてきたりしますからね。僕らの関係もかなり複雑になりつつあります(笑)。でも、相変わらず僕をライバル役として対等に扱ってくださっているのはずっと感じているので、僕もその期待に応えられるよう全力でお芝居に向き合っているつもりです。
今回は、前シリーズ以上に蟹江先生を起点として
物語が動いていますし、原作ドラマのテイストも一番色濃く残っている
ようなところもありますね。
結構、原作に忠実に進行しつつ、それを日本ならではの物語にローカライズする作業は、大事と言えば大事なんですけど、やっぱり人間関係がメインになってきている部分があるからなんでしょうね。蟹江に関して言えば、「こんなヤツ、いるかな?」と思う部分もあるんですけど、多分、一番全部のストーリー要素に絡んできているので、蟹江先生の内面みたいなものも、一筋縄ではいかないというか。正直、どう捉えたらいいのかわからない人なんですよ。良いヤツなのか悪いヤツなのか、頭が切れるのかバカなのか、甲斐のことが好きなのか嫌いなのか。単純にこういうヤツ、という存在ではなく、いろいろなものが混ざり合った感情がありながら、しかもそれを全部出していたりするので。日本人なら、そういうところの感情の何割かは押し殺して表現するとか、あるいは黙っているとか、悟られないようにするとか、という感じだと思うんですけど、向こうのルイスも蟹江先生も、全部出す(笑)。多分、視聴者の方もどう評価していいのかわからないんじゃ?  応援したらいいのか、叩いたらいいのか(笑)。そこが面白いところでもあると思うんですけどね。ただ、そんなに人間は単純じゃない、という意味においては、その複雑さを蟹江先生が一手に引き受けて表現している感じもあって、役者としては噛み応えのある役なので、精一杯やろうと思いながらも、日々悪戦苦闘している状況ではあります(笑)。
蟹江先生と中島裕翔さん演じる大輔とのコンビも面白いです。
ありがとうございます!  蟹江先生、今回はいろんな人とコンビ組んでますからね。中島くんなんてココ数年ですっかり打ち解けすぎて、もう神妙な顔して演技の相談なんかしてくれませんよ(笑)。頼もしいです。
新木優子さん演じる真琴と蟹江とか。
その度に、いろんな顔を見せてくれていますね。
幅広く絡んでますからね。で、相手の何かを引き出すブースターとして機能している部分もあるので、サブキャラとして……サブキャラって言っていいのかな?(笑)。相手を引き立てるようにしないといけないし、でも蟹江先生の心情もキチンと表現しないといけないし。シリアス展開のガス抜き要員と言いますか、コメディーリリーフ的な役割もあるので、物語のアクセントとして以上に、作品全体のテイストにも大きく関わっている。実はかなり色んなものを背負わされている超重要キャラなんですよ(笑)。ただ、僕の実力不足で申し訳ないんですけど、蟹江先生は本当は凄く仕事もできる、頭の切れる人でもあるんですけど、エキセントリックなシーンが際立ち過ぎて、「仕事ができる人間に見えない」というご意見もたまわっていまして(笑)。そういうのをSNSで拝見する度に、「ああ、僕のせいだな……」と。「誤解を招くような芝居をして、ごめんね蟹江先生」と。でも実際問題、放送尺の都合もあって、蟹江先生の人物描写って泣く泣くカットされることが多くて、だから蟹エッセンスがよりギュッと濃縮される傾向が……。いえ!  すみません、これは言い訳です!  僕自身の課題として、どう切り取ってもそのニュアンスが残るようなお芝居をする、という部分は常に意識していきたいです。
中盤以降、蟹江先生の立場もどんどん複雑になっていきますね。
もし、蟹江先生に注目してくれる方がいるのであれば、意外と繊細なお芝居をやっていますので、是非彼の心理も追いかけてほしいです(笑)。本当に蟹江先生だけに着目してみると、「こいつ、割と可哀想だぞ」って感じる瞬間は多々あると思うんです(笑)。同情はできないがその気持ちはわかるよ、と感じてくれる人達のため、スーパー美男美女軍団相手に、不眠不休の努力とズル賢さで見事張り合ってみせますよ!

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