2018.11.12 MON. UPDATE

アメリカ版の原作はどこまでご覧になりましたか?
シーズン6まで見ました。元々知ってはいたんですけど、今回のお話をいただいてから改めてNetflixに入会して一気に見ちゃいました(笑)。
原作ドラマを見ての感想は?
いやぁ何というか……スタイリッシュを絵に描いたようなドラマですよね。弁護士ものとしての認識があったんですけど、よくよく見てみると法廷のシーンはあまりなくて、むしろ事務所内の人間関係とかがメインで、そもそも訴訟自体を法廷に持ち込む前に解決する、みたいなスタイルが企業弁護や民事訴訟ではリアルかもしれませんが、あまり日本のリーガル・ドラマでは王道ではない感じで。そういう意味では、弁護士ものというジャンルにとらわれない、いわゆる群像劇なんだな、と思いました。だからこそ、一員であることが大事なので、今回もチームワークという部分はとても大切にしています。
しかも、蟹江さんにあたるのは、
リック・ホフマンさんが演じるルイスという人気キャラクターです。
そうなんですよ(笑)。初めてそれを伺ったときは、「マジか!?」と思いました(笑)。相当インパクトがある役ですし、ルイスはいろいろな場面の起点になっているんですよね。いざこざの起点であったり、登場人物の心情が変化するところのきっかけだったり……。その上で、コメディー要素としてのワンクッションみたいな部分もあるので、いろいろな意味で大事だなと思いました。日本にも、原作のルイスのファンが大勢いらっしゃることも分かっていましたから、役者として難しい役を仰せつかったな、というプレッシャーもありました。しかも、織田裕二さんがお相手なので、そこはもう背伸びして頑張るしかない、と。
テレビドラマには、漫画や小説が原作になっているものも多いですが、
今回のように映像としてシーズン8まで制作されているものを改めて
作り上げる、というのは役者さんの立場からしても難しい作業なんで
すね。
原作があるということは、そのファンも大勢いらっしゃるということを踏まえてやらせていただくので、僕としてはキャラクターをお借りする、という気持ちで……どっちにしろ、僕がやる以上僕になってしまうわけですけど、その上でも、原作を好きな方たちを裏切れないという気持ちはとても大きいので、出来るだけ納得してもらえる役作りを心掛けているつもりです。今回は特に、強く思っていますね。
とはいえ、何が正解なのかとなると……。
そうなんですよね。漫画やアニメが原作ですと、姿を寄せていくために衣装さんなりメイクさんなり、いろいろな方々が手を尽くしてくださるんですけど、今回に関しては、原作の世界観ではあるにせよ、文化とか人種とか、バックグラウンドが元々違うものを日本に置き換える、というオリジナリティーもあったりするので、そのさじ加減が難しいですよね。ルイス・リットという人間をイメージしているんですけど、この作品においては蟹江貢なので、そのバランスに関しては、毎回撮影をするたびに振り返って考えています。
織田裕二さんとお芝居をされてみての印象は?
誰に対しても真摯に向き合ってくれる方で、作品に対する思いも熱いですし、かといって座長感を出しているわけでもなく、常にフレンドリーで、みんなで一丸となってこのドラマを盛り上げていこう、という良いかじ取りをしてくださっています。なので、凄くやり易いです……というと上から目線みたいで恐縮なんですけど。織田さんとの出会いは、昔僕がエキストラのアルバイトをしていたときなんです。織田さんが初めて連続ドラマの主役を務めた『あの日の僕をさがして』(TBS系)という作品なんですけど、初めて見た生の芸能人が織田さんだったんです。あの時は、エキストラの立場から「ああ、凄いなぁ……」と思って見ていた方と、まさか肩を並べて芝居するなんて、およそ20数年前の自分からは想像できないことをやらせていただいているので感慨深いです。その感慨深さみたいなものが時おり邪魔をしてきて、「ダメだ、対等でなきゃいけないんだ!  ライバルだ!」と自分に言い聞かせています(笑)。ある意味、(原作ドラマの)ハーヴィー(ガブリエル・マクト)に憧れているルイスの状況と同じように置き換えて、織田裕二さんを凄いと思っていた小手伸也、みたいなところを役作りの参考にしている部分もありますね(笑)。その関係性があって、逆に良かったのかもしれないです。当然、織田さんは僕のことを覚えていらっしゃらなかったですし。
当時のお話をされたんですね。
「えっ、そうだったの?  ごめん、覚えてないわ」とおっしゃっていました。そりゃあそうですよね(笑)。
鈴木大輔役の中島裕翔さんの印象もお願いします。
中島くんは、凄く真っ直ぐにあの役を自分のものにしようとしていると思いました。鈴木大輔を中島裕翔なりに演じるにはどういう方法があるのか、ということを常に考えている。真面目ですけど、気負っているわけでもなく、僕らのことを信頼して委ねてくれる部分もあって……。だから、「打てば響く」みたいなお芝居をしてくださるので、現場の中でも良い反応を生み出しているというか。きっと織田さんも、どうすれば中島くんを響かせられるのか、ということを考えていると思いますし、僕も「どんなことをやったらアイツ嫌がるかな?」と思っているので(笑)。でも彼は、そういうことにちゃんと答えを出してくれるので、一緒に芝居をしていても楽しいんです。
中島さんご自身はプレッシャーも感じているのかもしれないですけど、
とても軽やかに演じているように見えます。
原作の大切さを凄くわかっている一方で、モノマネをしてはいけない、という部分もあると思うんです。途中から、中島くん自身に寄せていっているかな、という気もしました。中島裕翔の良さはご本人が一番よくわかっていると思うし、それこそアイドルの第一線で活躍している方ですから、セルフプロデュースの感覚も理解していると思うので、それを上手く役に落とし込んで、生きている人間に変えていく、という作業を上手にやっていると思います。
取材を通じて、演者さんは、
そこに向き合っていることがよく分かりました。
僕も、ルイスをやるにあたって、「リック・ホフマンさんのモノマネするのは違うしな」と思いました。『コンフィデンスマンJP』の草ヶ谷大輔プロデューサーが、(『SUITS/スーツ』の)後藤博幸プロデューサーに僕をお勧めしてくださったみたいで、「ルイスを誰にするか」というところは、割と早い段階で僕を考えてくださって、オーディションとかもなくここに参加させていただけたんですけど、後藤さんに「何で僕だったんですか?」とうかがったら、「やっぱり顔が……」みたいなことはおっしゃっていました(笑)。「確かに、顔の面白さっていう共通点はあるな」と(笑)。でも、コスプレじゃないし、僕だけ髪の毛を短く刈って極端にリック・ホフマンさんに寄せたら多分浮くだろうな、と思ったんです。蟹江貢という役を作る上で、どういう風にしていったらいいのか――僕は憑依型じゃないので、プロファイリングで徹底的に役を作るんですけど、まあ出発点が違えどもゴールが似ている、というか、最終的にルイスに似てきた、という感覚というか。ある意味僕は、彼のクセとか、体の動かし方とか、演じるという部分より、もっと反射的、肉体的な部分で、知らずに出ちゃう、みたいなところを出来るだけ自分の体に落とし込んで、「なんかルイスっぽい」って思っていただけたらいいかな、と。あと、原作はテンポ感が良いんですけど、日本語と英語は聴感が全然違うので、そこにキャラクターを乗せるのはどうなのかなと思いつつ、ちょっと早口キャラにしているんです。英語の耳触りに寄せていけたら、テンポ感を崩さずに見てもらえるかな、と思いながら日々悪戦苦闘しています。でも、僕自身の中での最大の争点は、日本人であるところの彼が、アメリカ人っぽい大仰な表現をする「理由」にあって、ここまでの話数の中でも「ディズニーっぽい」なんて巷で言われてたりしてますが(笑)、「ルイスのキャラをトレースすること」を目標にするのではなく、「ルイスみたいに振舞いたい蟹江の心理」を出発点にすることが、僕だけにできるローカライズかなと。僕自身は、あの表現を一種の「武装」、劣等感や虚勢といった彼の負の部分を包み隠す彼なりの「スーツ」と解釈して演じてます。アメリカ原作だからああしている訳じゃないんです、一応(笑)。
五十嵐ファンの方々が、「小手さんがルイスだ」と
喜んでくれていたのが、同じ五十嵐ファンとして嬉しかったです。
それだけ期待も大きいということでもあるわけですが。
そうですよね。僕も、ワンクール置いてまた月9に出させていただけるなんて思わなかったので。フジテレビさんには僕を「シンデレラおじさん」として、どんどん押し上げていただいて(笑)。そんな上昇志向がある訳じゃないんですが、僕の中の卑屈な部分というか、若干の心の闇みたいな部分、「織田さんや中島くんに囲まれて光栄だな」というよりも、「見返してやる」みたいな反逆精神を増幅させて、上手く役に変換させたら蟹江のリアリティーも生まれるんじゃないかと思っているんです。「僕はこの人たちより何ランクも下だ。でも、いまに見てろよ!」みたいな部分はちゃんと残していかないと、ただの“キモかわいいおっさん”なんて言われて満足してる場合ではないので(笑)、そうならないようにちゃんと嫌われたいと思っています。

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